見出し画像

超探偵事件簿 レインコード プラス

2010年11月25日にPSPで発売された推理ADV「ダンガンロンパ」。
カプコンの名作AVG「逆転裁判」に影響を受けながらも、その独特の設定と世界観、個性的なキャラクター、そして予想が付かないジェットコースターのようなシナリオで一躍人気作品となった名シリーズである。

そのダンガンロンパのスタッフが新たに手掛けた完全新作AVG、それが今回紹介する「超探偵事件簿 レインコード プラス」である。

もともとは「超探偵事件簿 レインコード」という名称で2023年6月30日にNintendo Switchで発売していたが、約一年後の2024年7月18日にDLCを含んだ移植版がPS5、Steam、Xbox Series X/Sで発売され、名称も「超探偵事件簿 レインコード プラス」となったという経緯がある。

例によってネタバレを遠慮なくしていくので、未プレイの方は自己責任で閲覧していただきたい。


概要

公式のジャンルこそ「ダークファンタジー推理アクション」と銘打っているが、実際には推理ADVと見て差し支えない。

実際プレイしても、アクション要素は確かに存在するが、高度なアクションテクニックを要求される場面は皆無で、アクションが苦手な人でも特に問題なくクリアまでプレイ出来ると思われる。

ただ、ダンガンロンパとは随分と雰囲気が異なり、どちらかと言うと「逆転裁判」のような王道ADVに近いゲームとなっている。

特に大きな違いとしては、学園が舞台の「ダンガンロンパ」と違い、「カナイ区」という街が舞台であり、操作も街中を歩き回ることで行う。

また、「ダンガンロンパ」はその設定上、「一人、ないし二人の被害者と一人の犯人」と言う図式から離れることが出来なかったが、今作ではその楔から解き放たれ、バリエーション豊かな殺人事件を操作することが出来る。

その内容もダンガンロンパスタッフらしい意表をついたものであり、最初の事件からして、「密室状態の列車のなかで、主人公以外が全滅する」というダンガンロンパでは有り得なかった、インパクトのあるシチュエーションとなっている。

また、プレイヤーが実際に歩き回るカナイ区の街もこれまた印象的なものとなっている。

目を引くのが、街のいたるところで輝くネオンの看板、やむことなく振り続ける雨、つねに薄暗く昼間でも陽光が全く差し込まない空といった所。
そのため、世界観はやや陰鬱なものがあり、いかにも「訳アリ」の街であることを否が応でも認識させてくれる。

この薄暗い街を舞台に、主人公は街を支配する巨大企業「アマテラス社」の秘密を追い、街に隠された謎を暴き真実を白日の下に晒すことを目的にストーリーは進む…

物語

今作の物語は、主人公の所属する組織「世界探偵機構」と「アマテラス社」の対立をメインに展開する。

主人公「ユーマ・ココヘッド」はパートナーの死神である「死に神ちゃん」とともに様々な事件を追い、やがてカナイ区とアマテラス社に隠された秘密を解き明かす、という筋書きとなっている。

今作の物語で特徴的なのは、「謎を解くと犯人が死亡する」という点にある。

これはパートナーである死に神ちゃんの影響によるものだが、当然「謎を解く=犯人が死ぬ」というジレンマが常に付きまとう。

これはダンガンロンパでも同様だったのだが、ストーリー上の必然性があり緊張感にも繋がったダンガンロンパと比べると、今作のこの設定はいまいち機能してないように感じた。

その理由として、今作の謎解きは「謎迷宮」という外界から隔絶された空間で行われるのだが、「謎迷宮にいる間は現実の時間が経過しない」「謎迷宮で起こった出来事は現実に影響しない」「謎迷宮での記憶は主人公と死に神ちゃん以外は現実に持ち帰れない」という制限が挙げられる。

つまり、ユーマが謎迷宮でいくら謎を解こうとも現実には何の影響も与えず、なおかつ犯人が謎の死を遂げるという状態となる。

探偵ものお決まりの、容疑者を集めて謎解きをすることは出来ず、現実で犯人との口論バトルをすることもないため、いまいち推理ものとしての爽快感に欠けるのは否めない。

また、今作はユーマがアマテラス社の幹部にしばしば追い詰められ、起死回生を狙って謎迷宮に突入する、という展開が多いのだが、謎迷宮をクリアしたところで状況が好転することはあまりない(容疑者が謎の突然死するので当然だが)。
状況を打破するのは、あくまで外的要因によるものがほとんどである。

無論、こういった設定にしたことには意味があり、終盤はこの設定を踏まえた熱いシーンもあるため、全否定することは出来ないのだが、物語が設定に足を引っ張られた印象は否めなかったというのが正直な所だ。

キャラクター

ダンガンロンパと言えば、個性的なキャラクターを惜しげもなく殺人事件の被害者や犯人として使い捨てる尖った作風も魅力の一つだが、そのノリは今作でも健在である。

例えば、前述したユーマが最初に遭遇する事件。「密室状態の列車の中で自分以外が全滅する」という事件だが、この時の登場人物は全て世界探偵機構に所属する探偵、つまり本来なら主人公の仲間というべき人物である。

彼らはそれぞれが特殊な探偵能力を持っており、いかにも協力して事件を解決する流れと見せかけての全滅劇なので、プレイヤーに与えるインパクトは中々に強い。

また、彼らの声優陣もファンなら誰でも知っているような有名所をそろえている。
つまり、声優のネームバリューをも利用した壮大な出オチとも言える。

他にも、各章で対峙するアマテラス社の幹部たちも、それぞれが印象的なキャラクターをしているが、章が終わるとあっさりとフェードアウトする。

この良くも悪くも割り切った作風により、作品全編を通して次に誰が退場するのか読めない緊張感が常に漂っている。

好みの別れる点ではあるが、自分としては先の読めない展開は好物なので、こういうのもありだと思う。

ただ、最初の事件の登場人物はともかく、アマテラス社の幹部たちは1章で使い捨てるのにはちょっと惜しいと感じた。

システム

今作のシステムは、主に操作パートと謎解きパートに分かれる。

操作パートは、事件現場や街を歩き回り手がかりを探すというもので、他の推理ものによくあるシステムで特筆すべき点は特にない。

一応探索要素として、サブクエストや記憶の断片というものがある。

サブクエストは、主に街中で起きるちょっとした事件を主に解決していく。

記憶の断片は、仲間の個別エピソードを解放するためのもので、各キャラごとに5つ存在する。
解放するごとに仲間との絆が深まっていくが、深まったからと言って特にゲーム的なメリットはない。割り切ったつくりである。

ゲームのメインは、謎解きパートにあり、前述した「謎迷宮」と言う外界から隔絶された空間で謎解きを行う。

具体的に言うと、いくつかのミニゲームをクリアすることで、徐々に事件の核心に迫っていき、犯人を追い詰めるという流れになる。

メインとなるミニゲームは「推理デスマッチ」「死に神ちゃん危機一髪」「大進撃 死神ちゃん」「超推理フィナーレ」の4つである。

推理デスマッチは、推理を阻もうとする「謎怪人」との論戦バトルとなる。
謎怪人の攻撃をうまく躱しながら、相手の発言の矛盾を解刀という武器で切りつけることで論破していく。

死に神ちゃん危機一髪は、その名の通り某パーティーゲームのオマージュで、回転する樽に書かれた文字を解刀で突きさすことによって、事件のキーワードを導き出す。
正解すると、樽に入った死に神ちゃんが飛び出す。

大進撃 死神ちゃんは、巨大化した死に神ちゃんが犯人の最期の反論をQTEで突破していき、矛盾点を解刀で切ることで論破する。
推理デスマッチと違い、攻撃をスティックでかわす必要はない。

超推理フィナーレは、事件の流れをコミックの様に振り返り、空いているコマを埋めることで真相を暴き出す。
その名の通り、推理のフィナーレを飾るミニゲームである。

これらシステムの感想だが、正直言ってかなり粗が多いように思う。

例えば推理デスマッチは、敵の攻撃を回避しながら解刀で反撃し論破する地という流れなのだが、中途半端にアクション要素があるために、いまいち推理に集中しづらい。

死に神ちゃん危機一髪は、回転する樽に解刀を投げつけキーワードを探り当てるゲームだが、樽の回転スピードをコントロールすることは出来ず、無駄に時間がかかりがちである。

一応これらミニゲームの難易度を緩和するスキルもあるが、もともと推理ものとしての難易度自体は低く、なおかつアクション面での単調さをカバーするものではなかったため、あまり救剤要素にはなっていないように思う。

総評

ADVとしての出来は決して悪くない。

キャラクターは相変わらず魅力的だし、ストーリーも急展開が多いがその実しっかりと伏線は張ってあり、後から見返したら「なるほど!」と思わせられる展開も多い。
特に終盤明かされるある伏線は、ダンガンロンパスタッフらしい捻りの効いたものとなってる。

反面、設定面やアクション面での粗も目立つ。
特にアクション面の出来は、爽快感が全体的に薄くあまり良い出来とは言えない。

気になった部分はダンガンロンパシリーズに引っ張られたと思われる部分が多く、心機一転して完全新作を手掛けたはいいものの、偉大な全シリーズの影響から完全に脱することは出来なかったのかなという印象がある。

とは言えポテンシャルを感じる出来ではあるし、件の設定もそれ自体は決して悪いものではないように思う。

完全新作を創ること自体が難しいこの時代、全シリーズに負けない名作に仕上げようというスタッフの意気込みは伝わってきたし、より「レインコード」として完成された続編に期待したい、そう思わせる出来であった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?