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サガ エメラルド ビヨンド

サガシリーズと言うのは不思議なゲームだと思う。

と言うのも、シリーズ最新作である「サガ エメラルドビヨンド」を購入する前に一応ネットで評判を探ってみたんだけど、そしたら出るわ出るわ「賛否両論」「スルメゲー」「他人には薦めない(俺は好きだが)」という圧倒的な誉め言葉の数々。

そう、これらの評価は普通のゲームなら「今回はちょっと様子見かな…」と判断する文言なのだが、ことサガシリーズにおいては「ああ、いつものサガだ」とむしろ安心感さえ感じられる評価と認識してしまっている。
こんなゲーム他にはないだろう。

というわけで今回レビューするのはサガシリーズの最新作である「サガ エメラルドビヨンド」である。

ちなみに自分のサガ遍歴はCSで発売されたシリーズ作品ほぼ全て(リメイク含む)と言った所であり、シリーズ特有のクセの強さもある程度受け入れらると自負している。

ただしアンサガ、テメーはダメだ


御堂綱紀

今作は5人の主人公から一人を選んでプレイする形式なので、本来なら気に入ったキャラを選んでプレイするところだが、相手はサガシリーズ、どんな罠が潜んでいるか分かったものじゃない。

ここは先人の知恵を借りた方が無難だと判断し、確認したほぼ全ての攻略サイトで初周プレイにおすすめされた御堂綱紀を選んで一周目を開始した。

…おい、これのどこが初週お勧めなんだ

確かに主人公の御堂くんはクセのない性能で使いやすいのだが、それ以外の仲間が今作から新たに登場した「クグツ」が4人という偏った構成。
このクグツの特性を把握するのにまず苦労する羽目になった。

まずこのクグツ、技の習得方法が独特である。
御堂くんのような普通の人間キャラは、適当に武器を振っていたらある程度の技はひらめきで習得できるのだが、クグツはそのやり方では一向に技を覚えない。

ではどうするのかと言うと、戦闘中に「見た」技を次のターンで写し身でラーニングすることによって習得するのだ。
当然全ての敵が都合よく写し身出来る技を使うわけがないため、普段から意識してチャンスを伺わなくてはならない。

もうひとつの方法として、敵のロールを装備することで、「ソウル技」というクグツにしか使えない独自の技を習得することも出来る。

クリアした今となっては、独特だが決して弱いわけではなく、人間には出来ないような役割をこなすことも出来る面白い種族だと言えるのだが、なにぶんこんな種族は過去のサガシリーズにも存在しなかったわけで、その点でだいぶ面食らってしまったのが正直な所だ。

じゃあ御堂編は初週おすすめ出来ないのかと言われれば全くそんなことはない。
むしろ、目標やストーリーの進行具合が分かりやすく、一周の長さやラスボスの強さもほどほど、クグツも特性さえ理解すればむしろ使いやすい種族と、ゲームのチュートリアルとしては申し分ない内容である。
クグツの特性を把握するのに苦労したのは確かだが、その上で筆者としてはあえてこの言葉を送りたい。

初週は御堂綱紀をおすすめする。

アメイヤ・アシュリン

なんだかんだで御堂編をクリアし、2周目にはおなじく初心者向きとされていたアメイヤ・アシュリンを選択する。

なんだかんだでゲームに慣れたこともあり、アメイヤ編はあっさりとクリア出来た。

いや、違う。実際にシナリオが短いのだ。

なにせ御堂編では4つのワールドをまたにかけた冒険をしたのだが、アメイヤ編ではわずかに2つ。プレイ時間にしてわずか5時間ほど。しかも大半の時間はホームグラウンドでの猫探しに費やしてである。

さすがに物足りなさを感じ、すぐさまアメイヤ編2周目に突入。
2周目では猫探しとワールド探索をバランス良くこなし、最強の術「塔」を取得した状態でクリアすることが出来た。

また、このアメイヤ編から今作独自の魅力と欠点が徐々に見えてきた。

まず今作ならではの魅力は何といっても戦闘。
前作「サガ スカーレットグレイス」の戦闘をベースに「オーバードライブ」「独壇場」と言った新たな要素を追加した戦闘は、前作よりさらに完成度が高まっている。

特に今作は、前作以上に連携を積極的に狙っていく必要があるゲームバランスとなっているが、バンプ技や各種リザーブ技などタイムラインを調整する技が豊富にあるため、上手くハマった時はパズルゲームのようにキャラ同士の連携をつなげ、そこからさらにオーバードライブが発動し一気に戦局を有利にすることも出来る。

また、新要素の「独壇場」も今作の戦闘をより面白いものにしている。
この独壇場、一人で連携を行うシステムなのだが、「戦闘参加メンバーが少ないほど狙いやすい」「BPが蓄積されるバトル後半ほど威力に期待できる」「敵も条件を満たしたら発動する」という仕様が重なり、「一人を除き仲間全員が戦闘不能の状態から逆転勝利」というロマンシングな現象が度々起こるほか、「ボスを追い詰めたと思ったらうっかり独壇場の発動条件を満たし一転して大ピンチ」という展開も起こりうるなど、バトルをよりスリリングなものにしている。

今作だけでなくサガシリーズの戦闘システムは他のRPGと比較して複雑な部類に入ると思うが、それだけにシステムをうまく制御し使いこなした際の快感と言うのはかなり高い。
それがサガシリーズにディープなファンが多い一つの要因になっているように思う。

逆に今作の欠点は、何といってもトレードと先生の試練である。
これには同意してもらえる人も多いのではないだろうか?

シンプルにとにかく面倒くさい。
トレードも先生の試練も「数をこなすことでランクがあがり、より上位のアイテムが手に入りやすくなる」と言うシステムで、これ自体はよくあるもの。

問題は、一戦ごとにいちいち確認し設定しなおさなければならないということ。現状これが最も効率よくランクを上げる方法となっている。
別にさぼっても良いのだが、さぼると後々痛い目を見ることが分かりきっている以上、結局さぼるわけにはいかない。
そんなわけで一戦ごとにちまちま設定しなおすわけだが、はっきり言って苦行以外の何物でもない。

一戦ごとに最大の魅力と欠点を同時に味わわせるゲームもそうそうなく、プレイして自分の感情は常に乱高下していたような記憶がある。
確かにこれは人に薦められないわ。

ディーヴァ ナンバー5

そんなこんなでアメイヤ編をクリアし、次はディーヴァ編をプレイした。

ディーヴァ編をプレイしてまず感じたのが、パーティーメンバーがかなり優秀だということ。

特に魔具使いの人間・ウェンズディと短命種の人間・ブラーは、両者とも独特だが他のキャラにはない強みを持っており、これにメカのディーヴァナンバー5、人間のボウディカー、モンスターのイマクーで構成された初期メンバーは今作で最もバランスの良いパーティーだと感じた。あと一人いたような気もするが多分気のせいだろう。

また、アメイヤ編でバキバキに鍛えたアメイヤが早い段階で仲間になったこともあり、最初から最後まで仲間に悩まされることもなくスムーズにプレイすることが出来た。

内容的にも御堂編やアメイヤ編と比較しても充分なボリュームがあり、このディーヴァ編からが本当のサガ エメラルドビヨンドと言った感じであった。

ただ、同時に思ったのが「あれ、アメイヤ編のメンバーって実は弱くね?」と言うこと。
具体的に言うと

  • 従士という術を覚えられない劣化人間の「加藤忍」

  • おなじく我流技を覚えられない劣化人間の「ヴァッハ神(コピー)」

  • 御堂くんがいないためソウルの付け替えが出来ないクグツの「ボウ」

  • そもそも種族自体が不遇なモンスターの「ロロ」

と全体的に「どこか足りない」メンバーなのだ。

おまけにこのゲーム、周回ごとに行けるワールドやそこで展開されるシナリオもころころ変わるため、加入する仲間が全く安定しない。
そのため、確実に仲間になる初期メンバーの重要性はかなり高く、性能が微妙でも使わざるを得ないという現実がある。

まあ現実問題、加藤忍とヴァッハ神(コピー)の欠点はそこまで気にならないし、ボウも御堂編でしっかりと鍛えておけばエース級の働きを期待できる。
一番微妙に感じたのが、よりによって特に制限のないはずのロロなのがオールドファンとしてはちょっと悲しかったりする。
「サガ1」や「サガ2」、「サガフロ1」のモンスターはもっと強かったと思うんだけどなあ。

ディーヴァ編の話をするつもりが、アメイヤ編の愚痴になってしまったが、ディーヴァ編は良くも悪くも平均的な内容だったため、あんまり語ることが無かったりする。
やたらとメカが仲間になるのが特徴と言えば特徴だが、別にメカはそんなにいらないし。

とは言え、終盤の展開はありきたりながらもシンプルに熱く(特にラスボス戦のBGM「扉を越えて」は今作屈指の名曲だと思う)、ゲームにある程度慣れたころにプレイするにはちょうどいいシナリオと言える。

シウグナス

結論から言うと、今作最も楽しめたのはシウグナス編である。

理由として考えられるのが、まずゲーム自体にだいぶ慣れてきたこと。
複雑な戦闘にもある程度対応できるようになり、キャラクターの育成や、強敵とのバトルをこなすだけの余裕も持てるようになったことで、もともと面白い戦闘をより楽しめるようになってきた。

もう一つは、シナリオのボリュームが5人の主人公で最も多く、長く楽しめたこと。
メインストーリーとサブストーリーで訪れるワールドが合計10以上あり、これは5人の主人公で最大の数となっている。
クリアまでのプレイ時間が20時間を超えた唯一の主人公でもあった。

シナリオそのものの出来も良かった。
全体的にあっさり風味な今作のシナリオだが、シウグナス編は例外的に仲間の内面にかなり踏み込んだシナリオとなっており、なかなかに見ごたえがあった。
中でも人斬りと戦士のシナリオが印象的で、特に戦士は陽気なラッパーという普段の姿からは想像できない重い過去が特に印象に残った。

また、シウグナス自体のキャラも魅力的であった。
「闇の王」を自称する吸血鬼で、基本的には尊大な物言いをするキャラなのだが、妙に巻き込まれ体質と言うか、行く先々のワールドで事件に巻き込まれ、尊大な物言いそのままに意外とノリノリで解決する様が一種のシュールギャグのような可笑しさを感じさせた。
ダークサイドキャラなのに妙にポジティブシンキングで、悲惨な結末になっても「これでこの世界の闇が濃くなるな」と前向きに捉える様が、このキャラの得体の知れない魅力となっているように思う。

他にも、メインシナリオで御堂くんが確定で仲間になるのも大きい。
自分の場合、最初のメインシナリオで首尾よく仲間にすることができ、御堂編で鍛えたこともあり頼りになるエースとして序盤からラストまで大活躍してくれた。

仲間の加入が安定しないことは前述したとおりだが、この御堂くんはミヤコ市にさえ行けば(最後の選択肢で断らない限り)確定で仲間に入るので、他の主人公でも比較的使いやすいキャラとなっている。

もっとも、そもそもミヤコ市に行けないということもまれによく見られるので、結局安定しているとはいいがたいのだが。

ボーニー&フォルミナ

最後にプレイしたボーニー&フォルミナ編は、実のところ最初からトリに持って行こうと思っていた。

と言うのも、過去作で言うバーバラやエレン、リュートを思わせる自由度の高いシナリオに加え、初期メンバーが人間2人とモンスター3匹と言う尖がったパーティー構成からして、「一言さんお断り」感がありありと出ていたからである。

このボーニー&フォルミナ編最大の特徴は、他の主人公を全員仲間に出来ることであり、特にディーヴァナンバー5が仲間になるのはボーニー&フォルミナ編だけである。

また、今作の敵組織であるクィススタティアムの名前が明確に出るほか、その目的も断片的だが明かされるシナリオである。

じゃあこのシナリオをプレイすれば今作の謎が全て解けるのかと言うと、全くそんなことはなく、主人公全員のシナリオをクリアしても解けない謎はいくつもある。
ただ、これはサガシリーズのもともとの特徴でもあり、過去にも思わせぶりな情報を出しながらも深くは触れないという展開が幾度となく見られた。

あくまで筆者の推測だが、サガシリーズはシナリオや世界観をゲームを楽しむための舞台装置として割り切って作っているように見える。
今作もゲームのメインはバトルシステムと周回ごとに全く違った展開を見せるバリエーション豊かなワールドであり、「連結世界」も「クィススタティアム」もそれを引き立たせるための舞台装置でしかないように感じた。

基本的に王道RPGを好み、シナリオ重視のゲームを作るスクエニのゲームとしては、かなり異質で独特なシリーズだが、それゆえにディープなファンに恵まれ、長く愛される名シリーズとして独自の地位を築くことが出来たのだろう。

総評

結局自分はこのゲームを楽しめたのかどうか?

確かに全ての主人公でプレイし、総プレイ時間は80時間を超えておりその点では十分に楽しめたのは間違いない。

その一方で、同じくらいの苦しみを味わったのもまた事実である。
前述したように、「トレード」と「先生の試練」の仕様は、周回したからと言って楽になるものではなく,常に頭を悩まさせられた。

それでも全主人公でクリアするほどのめり込んだのは、このゲームでしか味わえない魅力を自分が感じていたからに他ならない。

戦略性の高いバトルシステム、周回ごとに違った顔を見せる17のワールド、サガシリーズらしい濃いキャラクターとシュールな言い回し、そして彼らの見せる時に熱く時に可笑しく時に切ない人間ドラマ、一つでも欠けては決して成立しない唯一無二の不思議な魅力を持ったゲーム、それが「サガ エメラルドビヨンド」ということなのだろう。

だが、やはり他人に簡単に薦められるゲームではないことも確か。
結局このゲームを一言で表するならこうなってしまうのだろう。

他人には薦めない(自分は好きだが)

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