ゲームプログラマ志望者のエントリーシート最新事情2024

みんな、就職活動してる?(8年ぶり2回目)

8年前の2016年に、ゲームプログラマ志望者のエントリーシートの書き方に関して、このような記事を書きました。
それからコロナやらの時期を越え、当時の状況から変わったこと(変わらないこと)なども出てくるようになりました。

私は相変わらずまだ採用の仕事を続けており、毎年たくさんの方のエントリーシートを見させてもらっています。
基本的なエントリーシートの書き方としては8年前の記事の通りなのですが、近年の状況から付け加えておきたいこともいろいろ出てきたので、そろそろ採用活動も始まる(始まっている)であろうこのタイミングで筆を執った次第です。

…というのは実はちょっとウソでして、実は記事自体は半年ほど前から書き始めていて、よいタイミングまで寝かせて…というかぶっちゃけサボってました。つまり前期の採用活動が終わるタイミングで筆を執ったわけですが、まあ結果オーライということで。

あらためての注意書きですが、これらはあくまでたったひとりの個人の見解であり、会社や採用担当者が変われば考えも変わることはあらかじめご了承ください。

ということで、またアンチパターン形式でいくつかご紹介します。

11. 機械学習分野はすでにレッドオーシャンであることを自覚していない

(専門学生ではなく大学生や高専生の話ですが)情報工学系か否かにかかわらず、機械学習分野を研究テーマに選ぶ学生は本当に増えました。
機械学習分野は急激な進歩があり、これからも産業として拡大していくことが予想される分野のため、機械学習をやっておけば食いっぱぐれることはないだろう、と考える学生も当然多いかと思います。

それ自体は悪い考えではないとは思いますし、IT業界全体で言えば間違ってはいないと思います。ただ、採用する立場でいうと、いかんせん「また機械学習か」という印象は禁じえません。
もちろん、新規性が高く興味深い研究をされている学生も見かけますが、すでにかなりの格差が生じており、「教授の言われるままに先輩の研究を引き継ぎました」くらいの習熟度の学生は(まあその程度だとどの分野でも厳しいですが)雨後の竹の子のような状況と思っていただいてよいかと思います。

「テクノロジーを扱う産業なのだから、ゲーム業界はさぞかし機械学習については全力を挙げて取り組んでいるのだろう」と思われる方も多いかもしれません。その答えについてはYESともNOとも言えます。
ゲーム開発工程への機械学習の応用は着実に進んでいますが、実際にユーザーが体験できるゲームコンテンツそのものへの国内での実用例としては『グランツーリスモ』のAIプレイヤー(Sophy)の話など、まだ数える程度のものしかないということは、ネットなどで情報を集めれば分かるかと思います。(異論はあるかもしれませんが個人の見解です)
生成AIの分野においては未整備のままの著作権の問題や、ハルシネーションの問題も含めそもそものクオリティの課題もあり、(一部のインディー開発者を除けば)様子を見ている企業が多数ではないかと思われます。

そういった状況から、積極的に機械学習人材を採用する企業はもちろんありますが、業界全体がそういった状況ではない(少なくとも中途採用者や現職社員を差し置いて新卒を優先することはない)ということは知っておいていただきたいなと思います。(ただ、おそらく数年で何らかの変化があるでしょう)

余談ですが、レースゲームや格闘ゲーム等、対人ゲームの対戦相手としてならともかく、一般的なシングルプレイヤーゲームの敵AIも機械学習に置き換えれば面白くなる、と力説する学生をしばしば見かけます。全く可能性がないとは言いませんが、2024年の現時点では採用担当者にかなり悪い印象を与えるので考えを改めたほうがいいです。あるいは自分でそれを実装して証明してください。

12. 学部さえ卒業しておけば大丈夫と錯覚している

私が就職活動をおこなっていた20年ほど前の時期では、同じ理工学部生の大学院への進学率はせいぜい2~3割程度といった感じだったと思います。
なかなかにびっくりする話ですが、今のプログラマ志望学生のエントリー状況を見ていると、(専門学生を除いて)大学生の院卒率は、修士・博士を合わせると過半数はゆうに超えている印象です。(正確にカウントはしていませんが)

ゲーム系の専門学校も、正直なところ90年代は「ゲーム専門学校(笑)」的なネタにされがちな進学状況でした。(余談ですが、鈴木みそ先生の『オールナイトライブ』というマンガのゲーム専門学校の実態紹介の回は語り草になっています)
それが00年代からは大手メーカーでも専門学校卒が珍しい存在ではなくなり、現在では大学卒業後や就職後の再進学者や、外国での大学卒業後に留学してくる外国人学生も増えてきて、有名大学だった最終学歴を専門学校で上書きする方もたくさんいます。
教える側としても、大手メーカーから専門学校の講師に転職される方や、フリーランスとしてゲーム開発しながら教鞭を振るう現役クリエイターも多くいます。

日本の少子化が進み、ひとりあたりの子どもにかけられる学費や養育費が増えている(と思われる)こと、円安の影響もあるかは分かりませんが、ネットの普及で日本のコンテンツのグローバル化が進み、日本のコンテンツ産業に就きたい外国人の優秀層が気軽に日本へ留学するようになったことから、全体的な志望学生のレベルは確実に上がっていると言って過言ではないと思います。

専門的な理系の知識と研究実績を持つ大学院生、現役クリエイターから実用的なゲーム開発の知見を教わり、ゲーム開発の実績をフルタイムで積んできた専門学生、ときたら、そのどちらもない学部卒生は何を武器にすればいいのでしょう?
若さでしょうか?残念ながらゲーム業界で「たかだか数年程度若い」ということが武器として優遇されるシーンというのはほとんどありません。(よっぽど若年向けコンテンツをメインとする企業だと分かりませんが…現在のゲーム、特にコンソールゲームのメインターゲットは30代以降でしょう)
学部卒で就職を考えている方がいれば、そのことを頭に入れてエントリーシートを作成してください。
個人的には、ゲーム開発経験を専門学生以上にがんばる、というのもナシではないですが(稀にそういう方がいて最近も目にしましたが本当に稀です)、それよりはゲーム開発でも研究でもない、学校の授業や課題以外の「自分だけの」活動で何らかの成果を残すのがよいのではと思います。
自分が通う大学の強みは何なのか、というのをよく考えておかないと、卒業する頃には専門学生の劣化版だったなんてことにもなりかねません。

専門学校にはない理系大学の強さは、当たり前ですがゲーム業界以外の選択肢が豊富であること、つまりゲーム関連以外の知識や幅広いタイプの人と関わる機会が多くあることです。自分が就きたい職業はゲーム業界だけなのか、それ以外にも考えているのであればそれも含めた戦略を立てておきましょう。

少し話から外れますが、最近は大学でもゲーム関連学科が設置されていることが珍しくはなくなりました。そういったところは専門学校同様にクリエイターの教授を擁している学校も多く、アカデミアとしての知性と専門学校の専門性を併せ持っており、学部卒の方も多くゲーム業界に就職されています。

13. 比較対象が日本人学生に閉じている

上でも先に書いてしまいましたが、外国人学生のエントリーシートはここ数年で増えており、全く珍しくなくなりました。
SNSが普及し、日本のことを知る機会も増えているのだと思いますが、海外の学校に通い、海外の企業に就職するというというハードルが、日本人が考えているよりもかなり低いのだろうと思われます。

普通に考えれば分かることですが、わざわざ渡航費用を用意し、言葉の壁を乗り越えて日本にやってくる学生が、別にダメなら日本で就職できなくてもいい、などと考えているでしょうか。
つまり、海外出身学生は、その時点で大変熱意が高く、勉強熱心で、その上で日本人がなかなか持ち合わせていないグローバルな感覚を持っている方が必然的に多いです。

8年前のエントリでも軽く海外からの応募については触れていましたが、新卒社員における海外出身者が占める割合は8年前と比べると間違いなく増えており、会社を、そして日本のゲーム業界を支える重要な柱になっていることは疑いようもありません。
もし、周りに同じ道を志している外国人の方がいれば、話を聞いてみると大きな刺激が得られるかもしれません。

14. プライベートでの活動を明らかにしない

最近の傾向で増えてきたと感じるのが、自己アピールに趣味やゲームと無関係な活動は書かない、というものです。

なぜ就職のためのエントリーシートにプライベートなことまで書かなければならないのか?と考えるのが普通だと思います。基本的にその考えで何も間違ってはいません。

ただ、考えてほしいのですが、ゲームを含むエンターテインメントというのはほとんどの人はプライベートな時間で楽しむ活動です。
そのため、プライベートな時間に何をしてきたか、ということが、創作としてのアウトプットにダイレクトに影響してきます。
これは別にゲームデザイナーやアーティストに限った話ではなく、プログラマであっても同様です。(前回もそういう話は書きました)

授業や研究でおこなうことというのは、言ってしまえば学校が用意した受動的なカリキュラムであり、真に自分が自発的におこなうこととは少し異なります。(もちろん研究に生きがいを感じる人もいるでしょうが、そういう人はアカデミックな道に進むのではと思います…)
ゲームという業界に限った話ではないですが、どれだけ自発的に行動ができるのか、自発的に何を選択してきたのか、ということは採用の際には非常に重要な判断基準として見ています。
それを判断するのに最も手っ取り早いのはプライベートでの活動内容を知ることです。

ネット知識からの受け売りですが、最近の若い方は「好き」ということを表明するハードルが高くなっているということが言われています。
SNSでは山のてっぺんにいるようなマニアやコレクターが多数跋扈しており、比較対象がそういった人になってしまうと、ちょっと好きなくらいの自分が「好き」を語るのはおごがましい…ということらしいです。

エントリーシートというのは、別にマニア自慢をするところでもなく、クイズ大会をするような場でもありません。「好き」を通じて自分のことをアピールする場です。
「好き」という感情、好きでやっている活動にはポジティヴな要素を多く含んでいます。行動力、自発性、理解力、コミュニケーション力などなど。「好き」をアピールするのはその人の良さをアピールすることと同義であるとすら思います。「好き」を隠されてしまうと、こちらは他のことからそれを探るしかありません。

エントリーシートはSNSではありません。あなたの「好き」を馬鹿にする採用担当者はいません(そんな人がいればそれはヤベー会社です)ので、存分にアピールしていただきたいです。

余談ですが、そういった状況ですので、「趣味=ゲーム」というエントリーシートを非常に多く見かけるようになりました。
ゲームを仕事にするのですから趣味がゲームなのは当然のことではあるのですが、もはやそれはアピールにもならなくなってしまっている印象を受けます。
本当に趣味がゲームしかないのかもしれませんが、それはそれでエンタメ業界の一員としてどうなのかとは思います。
優秀であれば趣味なんてなんだっていいでしょう、という考えの方もいると思いますし、それはもちろん正しいです。ただ、他の人を圧倒できるくらいにプログラミングやヒューマンスキルの面でアピールすることができれば、の話ですが。


大体大きめなところは伝えられたかと思うので、あとは細かいところをいくつか数合わせに…

15. アピールが中高生時代のエピソードで止まっている

基本的に、学生というのは成長すれば成長するほど困難なことや大きなことを成し遂げられるようになっていくものです。
あなたが過ごした直近の3年間には何か自慢できることはなかったのですか?と思ってしまうことが度々あります。
中学生のときに生徒会役員でしたとか、高校生の時の部活をがんばりました、など…

「だってコロナがあったから」というのはひとつの言い訳にはなるかもしれませんが、コロナ禍で行動が制限されている中でも、ちゃんと実績を積み上げている人はいくらでもいます。

16. テクニカルなアート制作知識よりもアートアセットそのもののアピールの方が強い

いろんなことに挑戦しているに越したことはない、というのはこれまでずっと書いてきたことではあるのですが、BlenderやMayaで制作したモデルやアニメーションそのものについてアピールされる方がいます。
アート制作自体のアピールはもちろん有効ではあるのですが、プログラマがプロの現場でモデル制作やアニメーション制作を任されるケースというのは極めてレアです。プロトタイピング工程だとしても、最近は巷に素材集として公開してくださっている3Dアセットも大量にあります。

むしろ、プログラマとしては、アートアセットを作るアーティスト達に対して、いかに効率よく高品質なアセットを制作できるかというツールやそれを含むワークフローを考える方が比重が高いです。
知識として、制作工程やツールの操作、技術や技法を知っていることは有効ですが、どれだけ質の高いアートアセットを作ったか、ということは我々はそれほど気にしません。「何を作ったか」よりも「どうやって作ったか」をしっかりアピールできるようにしてください。

17. (大卒専門学校生の方)大学生時代のアピールが書かれていない

学部や大学院を卒業してからゲーム系の専門学校に入学された方限定のケースですが、現在の専門学校での実績だけが書かれていて、大学時代の研究内容のアピールがない方が結構多くいます。

もちろんゲーム制作知識は重要視されますが、ゲームプログラマの仕事に求められるのはそれだけではありません。
数学、物理、情報工学の知識はもちろん必要になりますし、電子工学、システム工学の知識もあった方がよいです。
専門学校でもそれらはもちろん教えてくれますが、大学ほど専門的に時間を取ってくれるものではないと思われます。(実態はわかりませんが、そうでないと大学の意味がない…)

せっかくそういった勉強をしてきたにもかかわらず、それらをなかったことにしてしまうのは大変にもったいないです。ぜひ教えてください。

18. 評価できないポートフォリオを送付してくる

昨今は動画やデータを簡単にやり取りできる時代になりました。
ポートフォリオとして、動画やスライド資料など、いろいろなものを送ってくださる方もいます。

ただ、「ゲームの実行環境」と「開発環境のプロジェクト」については、よほどのことがない限りは目を通しません。

ゲームの実行環境については理由は明確です。セキュリティの都合です。
まだどこの誰かもわからない方が送ってきた得体のしれない実行ファイル、中身がマルウェアでないという保証はどこにもありません。
善良な学生を装った悪意のあるハッカーが紛れ込んでいる可能性だってゼロではないということです。
それはさすがに考えすぎとしても、学生が知らぬ間にマルウェアに感染していて、自作のゲームも汚染されているというケースも考えられます。

プロジェクトについては、こちらは時間の都合です。
一番アピールが強かった部分や、こちらが注目した部分だけをフォーカスして見ることはありますが、プロジェクト全体を隅まで見て判断するには時間が足りなすぎます。
とりあえず送っていただくのは構わないのですが、その場合にはどこを見てほしいのかはしっかりとエントリーシートの中でアピールしておきましょう。

19. インプット量のアピールばかりでアウトプット量のアピールがない

趣味のアピールの中で、「◯◯が好きです」「◯◯に詳しいです」「◯◯への情熱は負けません」といった内容を書いてくる方がいます。

もちろん、何かを「好き」であることは非常に重要なことですし素晴らしいことですが、これらはすべて、自分の中に入っていく「インプット」に属するものです。
皆さんはこれからクリエイターになるわけなので、誰かのために何かを作り出した、発表した、提供したという「アウトプット」についてのアピールを我々は期待しています。

例えばの話ですが、「Vtuberが大好きで、推しの配信は欠かさずチェックしています!」というアピールをする方は本当に多いのですが、「Vtuberが大好きなので自分もVtuberとして配信をおこなっています!」「Vtuberに3Dモデルや楽曲、CGツールのスクリプトを提供しています!」という方は非常に少ないです。

プロの世界とは、単なる「すごいユーザー」を超えて「スーパーユーザー(ユーザーを超える存在)」であることが求められます。ユーザー感覚を持ち続けるということはもちろん大事なことですが、それだけでやっていけるほど甘い世界ではありません。

20. やっぱり自分のエントリーシートをチェックしていない

前回の記事でも似たことは書いたのですが、やはりエントリーシートを人に見せるということの重要性が理解できていない方というのも残念ながら一部見受けられます。

近年ではWebサイト上にポートフォリオをアップロードして提出するというケースも多いかと思います。実力をアピールするには非常に大事なこのポートフォリオですが、あろうことか提出したURLが間違っていたり、アクセス制限がかかっていて他者からは閲覧できなかったり。
見られないものは想像で補う、ということは我々はしません。見られないものはないのと同じですから、残りの情報だけで判断することになります。

自分で一度チェックする、友人や家族に一度チェックしてもらう、ということをするだけで、こういった重大なミスは防ぐことができます。
あなたが本当に企業に就職したいと考えているのであれば、そういった労力は惜しまない方がいいでしょう。


さいごに

いかがでしたでしょうか。
いわゆる「いかがでしたでしょうかまとめ」です。

前回と比べると割とミクロな視点の話が多かったとは思いますが、時代の移り変わりには左右されない、年数が経っても陳腐化しない本質的なところは合わせて書いたつもりです。
(改めて前回の記事を見ると、同じようなことを書いているところがいくつかありますね)

言うまでもありませんが、この記事の目的は、別に私が学生相手にドヤりたいためではなく、一人でも多くのゲームプログラマ志望者が、自分のエントリーシートを見直し、より高い意識で就職活動に臨んでもらうためのものです。

昔話になりますが、昔のゲーム会社への就職活動は、いかに変化球を投げ込むか、みたいな部分も多分にあったと思いますが、今はストレートの剛速球がバンバン飛んでくるような時代になったなと思っています。
基本的な部分はしっかりと押さえつつ、あなたならではの個性が込められたエントリーシートを読ませてもらえることを楽しみにしつつ筆を置きたいと思います。

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