審判ありの『エル・アラメイン』 #wgac2023
これは「War-Gamers Advent Calendar 2023」の12月6日分です。
合衆国陸軍で『Battle for Moscow』をダブル・ブラインドでプレイしているよ、というX(Twitterじゃなくなったのは7月だそうです)のポストを見て「おお、こういうのやってみたい!」と思いました。
プレイヤーがそれぞれ別のマップを用意して、間についたてを置く様式で陸戦ゲームをプレイすることには以前から興味がありました。それに加えてグッときたのが「将来のアジャジケーターとしての練習」という部分。
ルールに完全に縛られるのではなく、審判がアジャジケート(裁定)するウォーゲーム。今年の始めに『シミュレーションの歴史を語る30のゲーム――じゃんけんからウォーゲームを経て卓上RPGまで』で読んだ「自由ウォーゲーム」が即座に頭に浮かびました。
「自由ウォーゲーム」はルールをすべて廃止して、審判の裁量のみで進めるウォーゲーム(クリークシュピール)です。そこまでラディカルなやり方はできないにしても、細かいところや曖昧なところで審判が裁定するぐらいなら、自分でも実現できるのではないか。
今年、アジャジケーターが出てきた物件がもうひとつありました。合衆国海兵隊のメンバーがデザインした『Kriegspiel 2030』です。
『Kriegspiel 2030』は、海兵隊のファイアチーム1個を1ユニットとして、歩兵戦闘をシミュレートするウォーゲームです。2人のプレイヤーが同時に自軍への命令を提出して、それを審判(レフェリー)が裁定してコマを移動させたり、損害を適用したりしてプレイを進めます。
やりましょう。
・シンプルな陸戦ウォーゲームを2セット用意
・双方のマップの間にはついたて
・両プレイヤーが同時に自軍の行動をプロット
・審判が裁量を交えつつそのターンの結果を提示
ざっくりこんな感じで『ドイツ戦車軍団』の『エル・アラメイン』を、独英2人のプレイヤーと審判が1人がプレイしたらどうなるか。紙のコンポーネントやついたては使わず、3人の参加者をそろえるでもない、iPadでのソロプレイではありますが。
まず、審判からゲーム開始時の盤面の画像が送られてきます。両プレイヤーはこれに第1ターンの命令をユニットごとに書き込んで返送します。タブレットとペンのおかげで、ユニット数が二桁のゲームであっても、ユニットごとに移動をプロットするのがかなり容易になりました。
ドイツ軍、第1ターンの命令。太線は攻撃で、細線は移動するだけで攻撃はなしです。丸はその地点を目指す移動で、四角はそのユニットを目指して移動することを示します。目指したユニットが移動したら追いかけます。
イギリス軍の命令。オリジナルの『エル・アラメイン』では左下にいる2ユニットがあっさり包囲されてしまいますが、今回は両軍が同時に移動するので、包囲をまぬがれるチャンスがあるかもしれません。
審判は両軍から受け取った命令を盤面に重ねて、命令どおりにユニットを動かしていきます。システムは原則、ドイツ戦車軍団のものをそのまま使いますが、同時に動く両軍の移動経路が交わったところをどうするかが考えどころです。実際の戦闘を想像しながら結果を決めます。
第1ターンにイギリス軍は移動力が半分になりますが、これは第1ターンの前半部分に移動できなかったものと扱いました。それゆえ、先に移動を始めたドイツ軍によって、左下のイギリス軍2ユニットは包囲されて壊滅してしまいました。
結果が決まったら、審判は両軍が次のターンの命令を描くための画像を作ります。このとき、見えない位置にいる敵軍ユニットを消します。戦場の霧です。今回は各ユニットが移動力の半分までの距離を偵察していると考えて、それ以上離れているユニットを消しました。
第2ターンのドイツ軍の命令。機械化部隊の前方の、どこにイギリス軍がいるのかわからないのが悩ましい。
第2ターンのイギリス軍の命令。ドイツ軍がどこから攻めてくるのがわからない。移動力の大きいユニットを後ろに予備として置きたくなる気持ちがわかりました。
裁定して出した結果は、割と「砂漠の機動戦」っぽくなってきたような。透明になっているユニットは、退却で混乱していることを表しています。
第3ターンのドイツ軍の命令。海岸道路までの進撃は止められちゃうだろうなと思いつつプロット。左上で突破しようとしているイギリス軍がいるのが実はピンチ。
第3ターンのイギリス軍の命令。いい感じにドイツ軍をブロックできているのではないか。勝ったかも、かも?
結果発表。ドイツ軍がアラム・ハルファへの攻撃を成功させて、第3ターンで自動的勝利。ゲームオーバー。
改めるべき点、改良できる点、僕以外が審判をやればもっと良くなる点などなど、いろいろありそうには思いますが、「ウィーゴー」の陸戦ゲームの感触は新鮮です。アイゴー・ユーゴーもチットプルもそれはそれで好きですが、ウォーゲームの楽しさの幅が広がる。
ウォーゲームの審判が判定や裁定をするというのは、特定の状況に両軍の司令官の決断がインプットされたときに、歴史を再現するようなアウトプットを出す作業です。「こういう状況でこういう決断ならこうなる」を考えることは、歴史を再現することなのでしょう。
面白いウォーゲーム体験を作り出せるアジャジケーターと一緒に遊びたい。何なら、自分がそういうアジャジケーターになれたら言うことなし。でも、あまり難しく考えずに、少々(何なら多分に)デタラメであっても、「オレはこう思いますので」と審判をやっちゃっていいと思います。
審判ありの『エル・アラメイン』はたぶん面白いです。で、同じく『ドイツ戦車軍団』の『ハリコフ』だと、もっともっと面白くなるんじゃないかと期待しています。
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