IMAXで見る価値あります「オッペンハイマー」
アカデミー作品賞、監督賞はじめ7部門を受賞したまさに今年のアカデミー賞の顔だった本作。日本では原爆の父と言われるオッペンハイマーの伝記映画という触れ込みもあって、昨年夏の公開時には公開されるかどうかも未定という状態でしたが、はれてアカデミー賞後のこの時期に公開。結果的には受賞効果もあって、興行的にこの選択は大成功、なんでしょうね。早く見たかった映画ファン的には複雑な思いもありますが、8月に公開されると悪い意味で話題になるでしょうから、この判断は支持したいと思います。
鑑賞はイオンシネマ岡山のレーザーIMAXで。夫婦50割で3,400円と、IMAX鑑賞料金としてはかなりお得に見れました。画面もさすがの大きさで、後方の席を確保できましたので、その迫力を十二分に堪能できました。
正直、実在の人物で、しかも科学者をモデルにした作品なので、IMAXで見る意味どれくらいあるのだろう?と少し心配していましたが、実際に鑑賞すると、冒頭のポストにありました通り、杞憂で、IMAXで本作を鑑賞できてよかった、と心から満足できました。
まずはその映像。65ミリのラージフォーマットフィルムで撮影された映像は、3Dでなくても観客がその場にいるような錯覚を覚えるほど。本作では描く時代によってカラー、モノクロと映像が使い分けられていますが、なんとわざわざモノクロ用の65ミリフィルムをコダック社に開発を依頼したというこだわりっぷり。そのこだわりもあり、迫力のモノクロ映像をIMAX劇場で堪能できました。
各シーンの画角も文句なしで。撮影監督ホイテ・ヴァン・ホイテマのさすがの技術、と言えるのではないでしょうか。
また、CGをほとんど使っていない特殊効果も凄まじく。
実際に核爆発させたと噂されるほどリアリティあふれるトリニティ実験のシーンは、それだけを見るためにIMAXを選んでもよいのでは、と思えるほどの大迫力でした。
そしてIMAXといえば音響の凄まじさも特筆もので。トリニティ実験の瞬間以外ほとんど鳴り響くルドウィグ・ゴランソンのサントラに、時にホラーかと思わされるほどびっくりする効果音や爆発音など、リチャード・キングの音響デザインもバシバシ決まっていました。
また、各時期の登場人物の年齢を伝える繊細な特殊メイクも、IMAXの大画面で見てその違和感の無さを堪能してほしいところです。
などなど、まずは本作をIMAX劇場で見れた素晴らしさを記述しましたが、ここからはは本作の作品としての面白さを。
ストーリーは、オッペンハイマーがいかに原爆を開発していったかを描くパート(カラー)と、戦後核兵器の国際的な管理を呼びかける中、共産主義者の疑いから聴聞会にかけられるパート(モノクロ)とおもに2つの時代が並行して描かれています。
ただ、そこはダンケルクで複数の時間軸を違和感なく描ききったノーラン監督作品だけあって、時間のジャンプには全て理由があり、あくまでその時間軸の回想や、関連する出来事としてインサートされていました。また前述の繊細だけど年齢がよく伝わるメイクのお陰もあり、あ、今はこの時期の話をしているんだな、ということは説明セリフ、テロップがなくてもしっかり伝わりました。
勿論多数の科学者、政治家が名前も名乗ることなく登場しますので、その部分で混乱もあるかと思います。
私は事前にキャラクター紹介がしっかり載っていたフライヤーを読んでのぞみまたが、それでも足らないならいっそ、これだけ意識していたらわかりやすいかもしれません。
「ロバート・ダウニーJr演じるストローズは悪いやつ」
何にせよ、ちょっとしか登場しない人物にもスター級の役者を当てているので、彼らの渾身の演技も見どころの一つだと感じました。
しかし大統領のゲイリー・オールドマンとディン・デハーンは言われるまで全然分かりませんでした。
また、この時系列を平行に描くことで、原爆の開発完了と、彼の聴聞会の結果の両方がクライマックスに提示され、映画としての盛り上がりと観客へ伝えたいのメッセージ両方が同時にぶつけられ、カタルシスとやりきれない思いを同時に抱かせる効果もあったと思いました。
本作のオッペンハイマーの描き方は、悪人、善人と言った単純な描写ではなく、一人の人間として冷静な視点で描かれていました。それ故実験の成功に高揚もすれば、その結果もたらされる惨劇に恐れおののきもする様子に説得力がありました。
この冷静な視点は、日本に原爆を落とす是非、についても徹底されていたと思います。本作では当初はドイツに落とす予定で原爆を開発しており、ナチスドイツの降伏により標的を日本に変更されおり、決して日本やアジアへの差別的な演出意図は感じられませんでした。
個人的には、戦後広島、長崎に投下された原爆の影響についてオッペンハイマー達がスライドを見ているシーンで、その被害状況を観客にもインサートしてくれてもよかったのでは、とは思いましたが、気になったはそれくらいです。
最後に、パンフレットは1,200円と洋画のパンフとしては高めですが、インタビューにプロダクションノート、場面写真にコラムと充実しており、さすがの準備期間だな、と感心しました。ただ、あれだけ多くの名優が登場している作品でしたので、もっと徹底的なキャスト紹介をお願いしたかったです。
個人的にはIMAX体験的としてもクリストファー・ノーランの監督最新作としても、映画館で見て良かったと思える作品でした。