エッセイ:恋は盲目,創作の呪いや中毒について
先日clusterのフレンドと話し込んでいて、初めて気づいたことがあった。気付いた、というより目を背けていた問題が地球一周大回りして目の前に帰ってきた感じだった。
別にこれについて紙のノートに書いたり書かなかったりして済ませてもよかったが、なんとなくWebのノートに書いてみようと思った。
昔話から始まります。
昔話を
僕はclusterで対戦ゲームを多く制作してきたが、僕以外の作者が作ったゲームのほうが人気なのに悩んでいた。乗り物機能も無いのにプレイヤーが戦車に乗って対戦できたり、大人数で綿密なコミュニケーションを取りながらチームを勝利に導く艦隊戦が遊ばれた折には話題になったりもしたが、結局のところ今もclusterでよく遊ばれるゲームは僕が作ったものではなかった。
そこで自分のゲームが遊ばれる取り組みをしてみても、慣れないし苦手なことは趣味として続かなかった。かといって、広くウケるゲームを作る気にはなれず、自分の作りたいものを作れていればいいや、と視野を狭めることにした。そしてここが趣味の活動の限界なのだなと、強い閉塞感を覚えた。
それからゲーム作りに疲れたり飽きたりしてしばらく創作から距離を置いていた。それで寒さ辛さを覚えるということはあまりなく、温かさ開放感を覚えるということも別段なく、フラットでニュートラルな気持ちの日々が続いて快適だった。
創作中毒:サピエンスにだけ与えられた救いと呪い
そんなある夜、自分の過去の制作記を振り返ってみると、ゲーム制作に燃えて技術開発する自分の姿がいたたまれなくてちょっと泣いちゃった。当時の自分はあまりにも目の前のものしか見えてなくて、周りのこととか気にしていない様子だった。もっと大事にすべきだった友人とか、少し手を伸ばせば掴めた機会とか、そういうものをたくさん逃してきたかもしれない。
一方でこれは、ものづくりに憑りつかれた人間のあるべき背中なのかもしれなくて、周りの言葉や価値観に目もくれず、ただひたすら自分が尊いと思う創作に熱意と時間を捧げる、祈祷みたいな行為の連続は、その能を持たない人にとっては馬鹿みたいに価値の大きなものかもしれない。自己救済の技法。
恋は盲目というが、自分の好きなものだけを見続けて、あまつさえそれを我が物にせんがごとく自分で創り出していく行為は、恋というか愛というか執念というか怨というか呪いというか、ロゴスの外側にある何か異様なものを感じる。サピエンスは群れる生き物なのを無視して、自分の世界に沈み込んで浮かんでこない頭山みたいな状態は、はっきり言って不健全・不健康にあたると僕は思う。創作活動でドーパミンやエンドルフィンを内製摂取して多幸感を得、作品が完成するか道半ばで折れるかして報酬系のダムが堰き止められ不幸に陥る。ずっと滝つぼで溺れてるようなこの浮き沈みは、簡単に自律神経を破壊する。創作中毒といってもいい。
アイ・キック・マイ・アス
しばらく創作から距離を取って、そういうことが色々と見えてきた。そして先日、過去に自分が作ったゲームの一つを未プレイの人に紹介するがてら久しぶりに遊んでみると、びっくりした。それはあまりにも操作に難があるし、コンセプトからしてゲームデザインは悪いし対戦も碌にできないという、作者ですら遊ぶのに難儀するクソゲーだった。「何だこのクソゲーは!」「誰だこんなクソゲー作った奴、出てこい!」「お前か作者は。こんなもんを面白いと思って紹介したのか、あほなのかお前は」そんな気持ちになった。
自分のやりたいことを実現する以外に何も頭が詰まっていなかったんだなと感じた。これで「自分はとても良いものを作った」「こんな良いものをちゃんと評価しない周りはどうかしてる」みたいに満悦・慢心していたのだなと恥じた。自分が楽しいと思うことだけを視界に入れてものづくりして、他の人がそれをどう受け取るかという視点は全く欠けていたんだなと思った。絵画とか実験映画みたいな芸術の世界ならそれで拍手喝采だが、あいにくゲームはデザイン世界の産物で、遊びやすいとか楽しいとか、必ず他者の価値観を取り入れないと作品としてそもそも成立しないんだよな。
加えて、自分が手掛けてきたゲームは戦車とか戦艦とかミリタリー色が強く、そもそも間口が狭かった。よく遊ばれるclusterゲーム群の特徴は、そうした間口の狭さが無い、誰の手に触れても柔らかく、馴染み深くて普遍性のあるものだ。一時は「ウケるゲームを作るためには自分の特色を消さないといけない。それだったら自分が作らなくてもいい」と考えていたが、そのこだわりが応酬応報して自分の首を想像の何倍も首を絞めていたことに気付いたのが、つい先日のフレンドとの会話でだった。まるで初めて目を開いたかのように、clusterでゲームを作り始めてから今までの自分がめっきり盲目だったのを3,4年越しに知った。
チャンチャン
まあそういうことで、サピエンスの呪いとかの話でした。
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