シーチキンでつくる、料理上手だったお母さんの「よそはよそ、うちはうちカレー」
「なんでうちのカレーはお肉じゃないん?」
「シーチキンはな、安くて美味しいから最高。それに炒めんでええから作りやすいやろ?」
物心のついたころから、うちのカレーはシーチキン。
「台所に興味津々な小さい頃のわたし」と「包丁を持たせるのが不安な母」で編み出したのは、必要な材料を切りそろえて保存しておく「うちのお料理セット」
中身はにんじん、じゃがいも、玉ねぎと、大体しめじも入ってる。あればコーン缶も。
季節によって茄子、トマト、かぼちゃ、ほうれん草……そして必ずシーチキン。
ありとあらゆる素材を、うちのカレーは包み込む。
まるで冷蔵庫の中身を全部入れたかのようだったけど、今にして思えば、一食でより多くの栄養が取れますようにという願いの分だけ具材が入っていたのかも。
玉ねぎは飴色になるまで炒めるものの、硬い野菜は電子レンジで火を通しておいて、その他の野菜といっしょに調子がよくなるまで煮込む。
最後にシーチキンをまるまる1缶オイルごと入れて、おたまでぐるっと混ぜたら出来上がり。
事前のあく抜きも、したりしなかったり。あんまり細かいことは気にせず、
「うわぁすごい!こんなおいしいカレー食べたことない!!私が作るよりうまい!!!」
などと大袈裟なくらいに褒めてくれる母だったので、調子に乗りやすいわたしは誇らしくって、すぐに我が家のカレー大臣に就任した。
遊ぶことと勉強することと、自分のことを優先していい大臣職につけたことは、当時はなにも分からなかったけど、とてもラッキーだったみたい。
気ままな大臣になったわたしは、ある日突然テレビで見た隠し味を真似て、ケチャップを入れてみたりチョコレートを入れてみたり。
その時の気分でコロコロ変わるので微妙な味の違いはあったけど、いつも変わらずそこにいた、たっくさんの野菜とシーチキン。
メニューを考えて、材料を買いそろえて、作る手順を考えて、安全に切って煮て焼いて……料理って、実はめちゃくちゃに脳を使ってがんばってる。
アルツハイマーが随分進行してしまっている母はもう包丁を持つことも難しくなったけど、もう一人で作れるよ。
今日もまた一緒に食べよう。
「やっぱりうちのカレーは、シーチキン」