画家の人生は映画の題材にうってつけか?
芸術において重要なのは作品そのものですが、愛好家にとっては、画家の人生もしばしば興味の対象になります。
特に、ゴッホのように生前に絵がなかなか売れず苦労した画家や、モジリアーニのように若くして死んだ画家は、その才能が認められなかったことに同情が集まるせいか、映画にとっては格好のテーマになります。
今回は、画家の人生をとりあげた映画について調べてみました。
画商にとっては、画家の人生の物語化は悪いことではありません。画家自身が有名になれば、その作品に興味を持つ人も増えるからです。画家の物語を喜ぶのは画商ばかりではありません。美術愛好家もまた画家の伝記を楽しみますし、テレビ局や出版社も、画家の生涯をコンテンツ化して人々に提供しようと目論みます。特に、画家の物語化に熱心なのが、映画業界でした。
画家の映画の古典として知られるのが、ロートレックを主人公とした『赤い風車』(1952年)です。子どもの頃に脚を骨折して、下半身の成長が止まったロートレックは、まさに悲劇の主人公です。また「ベル・エポック(良き時代)」とも呼ばれた文化の爛熟期のパリを舞台に、踊り子たちを描いたこの映画は、視覚的な華やかさもありました。ちなみに「赤い風車」とは「ムーラン・ルージュ」の日本語訳で、モンマルトルにある同名のキャバレーは、この後も繰り返し映画の題材に使われました。ロートレックも『ロートレック~葡萄酒色の人生』(1998年)で、再び映画化されています。
同じく古典作品として有名なのが、モジリアーニが主人公の『モンパルナスの灯』(1958年)です。実物も美男子だったといわれるモジリアーニに二枚目スターのジェラール・フィリップを、妻のジャンヌに美貌の女優アヌーク・エーメを配したメロドラマで、モノクロながら鮮烈な印象を残す作品になりました。伝記としては、モジリアーニの死を望む架空の悪徳画商モレルを登場させたり、ジャンヌの自殺を描かなかったりと脚色もありましたが、そのぶん芸術家の苦悩によく焦点があてられていました。モジリアーニは『モディリアーニ~真実の愛』(2005年)で再映画化されましたが、そちらでは無頼漢としての描き方が強く、個人的にはあまり感情移入できませんでした。
ゴッホの伝記映画『炎の人ゴッホ』(1956年)も忘れることができません。現在、ちまたに広まっている狂気の天才画家のイメージは、この映画によって作られたといっても過言ではないでしょう。映画は伝記に忠実に、不器用で思い込みの強い、繊細なゴッホを描いています。アルルで同居したゴーギャンとの確執や、弟テオとの家族愛などが見どころです。37歳で自殺したゴッホの情熱的な人生は大人気で、この後も『ゴッホ』(1990年)、『ヴァン・ゴッホ』(1991年)と、三度も長編映画化されています。何度も映画化されると変化が必要なのか、三度目の『ヴァン・ゴッホ』は最晩年の二カ月だけを描く変わり種でした。
ゴッホの盟友ゴーギャンも、二回、映画化されています。
一度目は『黄金の肉体 ゴーギャンの夢』(1986年)で、二度目は『シークレット・パラダイス』(2003年)です。面白いのは、一度目の映画で主演したドナルド・サザーランドと、二度目の映画で主演したキーファー・サザーランドが、実の親子であることです。
サザーランド家の顏立ちが、個性的でアクの強いゴーギャンの相貌によく似合っていたのでしょうか。
キーファー・サザーランドは、テレビドラマ『24』の主人公ジャック・バウアー役で人気を博しました。なお、映画タイトルの「シークレット・パラダイス(秘密の楽園)」とは、ゴーギャンが移住したタヒチのことです。
そのほかピカソが『サバイビング・ピカソ』(1997年)、ルノワールが『ルノワール 陽だまりの裸婦』(2013年)、藤田嗣治が『FOUJITA』(2015年)で映画化されています。もっとも、ピカソとルノワールについては、その画家人生のすべてではなく一時期だけをとりあげたもので、伝記としては物足りないかもしれません。
また、同時期の画家としては、印象派の女性画家ベルト・モリゾが『画家モリゾ、マネの描いた美女 名画に隠された秘密』(2012年)で、映画化されています。モリゾの映画にはマネとドガが出てきますし、モジリアーニの二度目の映画にはピカソやユトリロが出てくるので、ファンにはおすすめです。
しかし、フランス近代絵画関連の映像作品で、もっともおすすめできるのは、映画ではなく『印象派 若き日のモネと巨匠たち』というテレビドラマです。
モネを中心に、ルノワール、セザンヌ、マネ、ドガといった印象派の巨匠の苦闘時代を描いた作品で、同時代の画家との交流の様子がよくわかり、観る人を飽きさせません。
テレビドラマなので映画のような重厚さには欠けますが、印象派の時代を理解するには最適の一本です。
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