2台の「タクシー」!
もう10年以上も前のことです
タクシーにまつわる 忘れられない
出来事がありましたので 今日は
その話を聞いて下さい
私は 会社で新規プロジェクトの立上げを
任されて 深夜まで残業する日々が続いて
いました
そして 残業が長引いた日は 週2~3回の
割合でタクシーを使っていたのですが 乗車
する時刻は きまって午前1時を回っていたの
です
丁度その頃になると G駅の正面にある
タクシー乗り場では 終電を逃した乗客達が
長い行列を作り始めます
その日も私は 行列に加わり タクシーを待って
いました
自分の番になり 戻って来たタクシーがドアを
開けたので 中に乗り込んで行き先を
告げようとしました
すると 女性運転手が こう話し掛けてきた
のです
女性運転手:「ご乗車 誠に有難うございます
〇〇タクシーの 島崎(仮名) で
ございます…
あ お客さん! 私 覚えてますよ
何度か お乗せしました
お仕事大変そうですね?」
その島崎と名乗る50歳位の運転手は
何度か 私を自宅前まで乗せたことがあると
言ったのですが 私は思い出せませんでした
私:「いや あなたこそ 深夜の運転で
大変でしょう ご苦労様です」
私は 自分が これから乗せて貰おうという時に
『ご苦労様』と ねぎらって しまったことが
少しばかりマヌケだったな と思ったのですが
睡眠不足の頭では これぐらいの言葉しか
浮かばなかったのです
島崎さん:「私は 運転が大好きなので
仕事が 楽しいんですよ
ところで 私 お客さんの
家を覚えてますよ!」
私:「えっ?」
島崎さん:「 やだ! ストーカーじゃない
ですよ 私はご自宅までの
近道をいろいろと考えてたん
ですけど…今日はそのルートの
一つを 試してもいいですか?
もちろん 4,740円を 超え
そうになったら メーターは
止めますので」
私:「金額まで覚えてるの? でもメーターを
止めたりして 大丈夫ですか?」
島崎さん:「大丈夫ですよ それに … 私は
超えない自信 ありますから…」
そんな会話をしていると すぐ後ろに 戻って
きた別のタクシーが停車して お客を乗せたので
島崎さんはゆっくりと車を発進させました
…
その後も島崎さんは 何度か異なる経路を試し
とうとう 通常ルートの料金よりも510円
安い 4,230円で帰り着ける お得なルートを
見つけ出してしまいました!
その日以来 島崎さんのタクシーに乗る度に
『こんばんは!』と挨拶するだけで 自宅まで
黙っていても 連れて行ってくれたのです
例えるなら…『黒塗りの高級な役員車』にでも
乗っている気分 といった雰囲気だったでしょうか?
もちろん 島崎さんは 私の優秀な
『お抱え運転手』という訳です!
それから何日もしない内に 職場の同僚が
私のためにG駅近くにあるレストランで
「送別会」を開いてくれました
私は 例のプロジェクトを福岡支店で展開
するため 福岡への転勤が決まったのです
2次会でも散々飲んだので 私はすっかり
酔っぱらって 終電を逃してしまったため
タクシー乗り場へと向いました
今後 島崎さんのタクシーで帰宅する
ことも無くなるので せめて今日ぐらい
乗せてもらおうかと考えたのですが…
残念ながら 島崎さんの車が見当たりません
仕方なく 別のタクシーに乗り込むと
例の最短ルートを運転手に一生懸命に
説明して そのまま眠ってしまいました
…
運転手に声を掛けられて 気付いたら
タクシーは 自宅の前に停まっています
料金メーターは島崎さんの最短ルートの
金額と同じ4,230円です やった~!
この代金は個人的な支出になるので
心の中で「島崎さん ありがとう!」と
叫びがら 財布を取り出しました
そして1万円を 運転手に差し出すと
運転手はレシートを 私に手渡しながら
こう質問してきたのです
運転手:「お客さん 私 この道は初めて
なので 教えて頂きたいん
ですが … この先は一号線に
突き当たりますかね?」
私:「あ この先は S字カーブで見えない
けど 200メートルも行けば すぐ
一号線ですよ」
運転手:「ありがとうございます それじゃ
お足元に気つけて また次回も
ご利用ください 」
私はちょっと飲み過ぎたなぁと思いながら
自宅のマンションのエントランスに立ち
腕時計を見ました 午前1時50分でした
そして … 気づいたんです!
私は…
お釣りをもらってない!
財布
カバン
上着のポケット…
全部 探しました
レシートを受け取ったことだけは
覚えてますが
千円札と小銭を受け取った覚えが
全くありません!
結局 お釣りの5,770円は
何処にも無かったんです
そうか…あの運転手 わざわざ道を聞く
ふりをして 注意をそらしたって訳か!
幸いレシートは受け取っていたので 翌朝
タクシー会社に電話で問い合わせてみたの
ですが…
「お釣りを渡し忘れた車両? ないですね~」
と電話口に出た責任者は 横柄な口調で そう
答えたのでした
いや~でもねぇ… やっぱり これ お釣りを
もらってないことに 全く気付かなかった
この私が悪かったんですよね~!
だから私は 海よりも深~く 反省しました!
そして…
島崎さん みたいに 1円の得にも
ならなくたって 誰かのために
最善を尽くす そんな人にならなきゃ
ダメだなぁ…と思ったんですよ
世の中には 様々な人がいる
2台のタクシーは それを
私に 教えてくれたのでした!
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