顧客の愛着にどこまでより添えるか
顧客目線、顧客満足、顧客心理。どこまで理解しようとしているか、という姿勢が伝わることの大事、という話
今年に入ってから、地元近辺の案件が続いている。
弊社は現在の場所に会社を構えてから60年程になるが、時代の流れとともに商売は地元の案件ばかりというわけではなく、むしろより栄えている横浜、東京というエリアが中心になっている。
そんな中、地元に案件が集中しているのは偶然だと思うが、やはり現場は近場がいい。移動時間がほとんどない、ということがこんなにもメリットになるのかと、あらためて感じている。
そしてどの案件もこれも偶然かと思うが、地主の方による賃貸物件というカテゴリーになる。
その一つの物件でちょっとした工事をさせていただいたときのこと。
順調に工事を進めていたところ、オーナー様が差し入れをもって様子を見に来てくれたのだ。その日は気温が10℃に届かない極寒なうえに、施工箇所は日陰の風通しのいいところ。職人もかじかむ手を揉みながら作業に当たっていた。
差し入れは淹れたての熱いコーヒー。芯まで冷えた体を温め、あとひと息の作業にも気持ちが入る。
コーヒーを振る舞いながら御年80歳というオーナーが今回の工事までのいきさつを話してくれた。
最寄駅から徒歩15分の中規模マンション、築30年程度ではあるが、どこも手入れが行き届いているせいか古さを感じない。通常であれば30年経過するとあちこちと経年劣化による不具合が見られるのだが、見渡したところ目立った不具合は見受けられなかった。
だが、今回工事に至った箇所は、マンションを建設した当初に発覚していたいわゆる施工不良からきているらしい。
基礎工事の段階で十分な補強がなされていなかったにもかかわらず、工事を進めてしまったため、徐々に歪みが進行した結果、許容できない状態にまで施工箇所の不具合が悪化したということだ。
問題は色々あるが、オーナー様が一番落胆されていたのが、マンションの建設に関わった関係者たちの無責任な対応。問題の責任を互いに擦り付けあったあと、開き直ったように高額な補修費用の見積りを提出してきたらしい。
色々とお察しする部分はある話だが、オーナー様が話の中で発した言葉が問題の本質であるように思えたのだ。
「建物に対しての愛着心を理解してほしかった」
お金がある、ないということや、利回りがどうのという話ではない。
地主さんであれば、先代から大事に引き継いだ土地にどんな思いで建物を立てるのか、ということを業者が少しでも汲み取るような気持ちがあっていい。
各々が自身の利益先行でものごとを考えてしまうと大きな仕事は歪になる。
そんな経緯もあり、今回の工事は建設に関わった業者ではなく、弊社に白羽の矢が立ったのである。無責任な業者のしわ寄せといえばそうであるが、そのおかげで紡がれた縁ということでもあるのだ。
丁度オーナー様の話が終わったタイミングで、職人から作業完了との報告があり、確認の立ち会いに同行した。
丁寧な仕事と、親身になって話を聞いてくれたということで、追加の仕事までいただいた。金額こそ大きくはないが「顧客の気持ちに寄り添うとは」という非常に価値のある問いまでいただいたことに感謝しきりの一件であった。
顧客の心象や物語をどこまで共有して自分の領域で価値提供できるか。その問いは何度となく考える必要がある
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