暗渠道への誘い 蛇崩川編④ ~支流パラレルワールド冒険譚~
だいぶ引っ張ってきた蛇崩川編も今回が最終回である。
本流は前回で全編たどり切ったので、あとは蛇崩川の支流を何本か紹介する。
支流と言ってしまうとオマケのように聞こえるかもしれないが、とんでもない!
暗渠界隈では、極細の支流暗渠こそ至高であると感じている人も少なくないはずだ。
私自身も、蛇崩川暗渠で一番好きな場所は本流ではなく支流の中にある。勢い余って、初めて暗渠で動画を撮ってきたので、本稿のなかでご紹介したい。
Stream 1:破格待遇の極細支流へ
最初に紹介する支流は、目黒区上目黒4丁目で本流から分岐する。
1本目から、絶景を提供してくれる支流だ。ぜひ皆さんにも入ってほしい。
分岐点は非常にわかりやすく、本流を遡っていくと、左側に支流入口が現れる。
覗き込んだだけで、もうすでに本流とは違うオーラを感じられるはずだ。
すでに本流よりも一段か二段、陰鬱な感じで、両側の住宅からの圧迫感もある。
支流を遡るということは、この先、道幅がこれより広くなることは期待しにくい。むしろどんどん狭くなっていくはずだ。
楽しそうじゃないの、と足を踏み入れる。さっそく何度かくねくね曲がらされる。
そして少し進んだところで、この支流の「名前」を見せつけられる。
そのまんまではあるのだが、なんと「蛇崩川支流緑道」という名前がついていた!
ご丁寧にプレート付きである。支流にこのようなネーミングがつけられ、しかも「緑道」を称しているケースは、おそらく珍しい(私は他に見たことが無い)。
本流の「緑道」とのギャップも感じつつ、さらに進む。
すると、このようなゲートをくぐって通りに出ることになる。
頭の上まで覆うようなゲートで暗渠道に出入りするというシチュエーションは、これまた珍しいように思う。ずいぶんVIP待遇だ。
暗渠道って、基本的に、そんなに主張しない存在のはずなんだがな…?
このあといったん、舗装された普通の道路となり、車両の通行もできる道になるのだが、それもわずか50メートルほどのこと。
階段になってしまった。
道路がいきなり階段になるって、すごいトラップだ。入ってきた車両は容赦なくバックで退けられてしまう。(この手前には階段があることを警告する看板もあるにはある)
その奥には先ほどと同じゲートも見える。
ゲートをくぐってさらに進む。
このあたりは確かに「緑道」っぽい。
しかし雰囲気は相変わらず陰鬱としていて、多くの人が散歩で行き交うような空気ではない。両側からの緑と建物の圧力を、それなりに感じる道だ。
このあともう一度、例のゲートをくぐる。
その次の道は、一段と細くなる。
いよいよ、暗渠らしからぬ立派なゲートは無くなり、古びれた車止めがそれに取って代わった。
奥の建物の威容もあって、別世界への入口のように思えてくる。
実際、ここから先はちょっと世界が変わる。
もう、「緑道」ではありません。
竹垣なんてものが現れてしまい、もうタイムスリップしたかのよう。
素敵じゃない?
この双子の車止めたちに誘われ続けて進む。
ここは明らかに、世界の裏側。
コケやシダ、排水パイプを堪能する。
以前の「谷戸川編」で細い支流を紹介した時にも書いたのだが、こういう極細の暗渠道を歩いているときは、なんだかちょっと、時間の流れが違うんじゃないかという感覚に陥る。
(嘘だと思うでしょ? でも実際に辿ってみれば多分わかる)
この場所は、街の喧噪とは無縁。ほとんど人とすれ違うこともない。
聞こえてくるのは、両側の住宅からの生活音と、遠くを走る車の音と、風の音や鳥の鳴き声のような自然の音と、そしてこれがかなり目立つのだが「自分の足音」だ。そうした音に耳を支配される。
大げさだが、普段と違う感覚が研ぎ澄まされるような気さえする。
極細暗渠では、若干の背徳感がプラスされるのでなおさらだ。
そして、次はこの隙間に入れというのだ!!
うひーー! 狭い!
入っていいんすか?と思いつつ、入らせてもらいます。
(なおこの道は所々に目黒区の境界標があり、私有地ではないことを示して慰めてくれる)
引き続き、排水管、マンホール、緑色フェンス、コケやシダなど、暗渠あるあるが大渋滞。
暗渠附随オブジェクトたち(詳細不明も含む)を鑑賞して進む。
その後も、この細さで続いていく。
そして東急東横線にぶつかる。祐天寺駅にほど近い場所だ。
この高架をくぐると、暗渠の痕跡はちょっと曖昧になってしまうのだが、
少し南下すると、このような形での再会となる。
あー、ここから先は辿らせてくれないんすね。
地図で見ればあと少し極細支流が続いているのだが、私有地に囲まれているので、この支流の散策はここまでとした。
せめてフェンスは覗き込ませてもらいましょう。
この先も濃密だ。オーラを感じる。
しかしその詳細は周辺住民のみぞ知るところ。
1本目からとても濃い支流だった。
写真を載せながら文章を書いている今現在も「もう一回歩きたいな」と思っている。
パラレルワールドにでも行ったかのような、素敵な暗渠体験を保証します。お近くまで行った際はぜひどうぞ。
(鉄道駅からアクセスしやすいのは上流側なのだけど、基本的に支流暗渠は下流側(分岐点)からの遡上を勧めます!)
Stream 2:最高級の上端公園をめざして
次に紹介する支流は、分岐点や途中のルートがちょっとわかりにくい。正直に言うと、先人が作った「暗渠マップ」を手掛かりにしなければ、私も上流端までたどりつけなかったと思う。
今回私がまとめた以下の地図では、本流ルート(緑のライン)のほぼ中央、「中原橋」跡から南に分岐する支流(青のライン)だ。
世田谷区下馬3丁目で、蛇崩川緑道が「龍雲寺通り」という名前の付いた道と交差するところが分岐点となる。
川跡は龍雲寺通りに並走して続いているのだが、その様子は次の写真のとおりで……
「ちょっと幅の広い歩道に、車止めが林立している」というだけの道である。
緑道本流の方が非常にわかりやすく整備されているだけに、こちらは初心者だと暗渠とは見抜けないかもしれない。(慣れてくれば、この車止めを見ただけで察知できるだろう)
南西方向に500メートルほど進むと、川は通りを右折して住宅街へ迷い込む。そして、
探索者の立ち入りを拒みつつ、家々の隙間を縫うように抜けていく極細暗渠になってしまう。
まあ、もちろん、金網越しにその姿は拝見させてもらいますが……
ここの住民の方は暗渠上に立ち入れるようで、右側には「自前階段」が見える。なんなら洗濯物のようなものまで見えてしまった。
いいなあ、このスペースを使えるなんて。
もう一方の金網の中は、きれいな蓋暗渠だった。
ここはあまり人が立ち入っている形跡が無く、整然としていた。
2つめの金網まではなんとか辿れるのだが、その先は川の痕跡が消失してしまう。どうも、新しいマンションが暗渠上に建ってしまったらしい。
でも、そのままかすかな地形を手掛かりに、南西方向に進んでほしい。
前回「暗渠の上流端が公園になっていることがよくある」と書いたのだが、この支流の上流端には、そんな上流端の公園の最高峰がある。
それがこちらの、「鶴ヶ久保公園」である。
なんと、池があった!
蛇崩川を下流(合流点)から遡ってきた場合、なかなか「地上にある水」を見ることができないのだが、この支流ルートを選択するとここで初めて水が見え、非常にテンションが上がることになるだろう。(私がそうだった)
そしてこの公園には、暗渠探索者としては大変嬉しい看板が。
最近設置された看板のようだが、「この連載のために作ってくれたの?」と思っちゃうくらい、内容が暗渠マニア向けである。
地形図が載っていて、「谷戸」「谷頭」「谷筋」なんて用語まで使ってくれて、とても教育的。
今まで辿ってきた支流が鶴ヶ久保支流という名前であることが示され、ちゃんと蛇崩川に繋がっていることも示されていた。
そして何よりも、「現在でも池の水の一部として湧水が流入しています」という記述は嬉しい!
先ほどの池は、公園によくあるフェイクではなく、実際の湧水が入っているというのだ。
先ほどの看板は「南西側の公園出入口に立つ」ことを勧めていたため、その通りに立ってみる。
この写真で伝わるだろうか……
確かに、台地に囲まれた谷のような場所であることが感じられる。公園内にも高低差があり、最も低い部分に池があることがわかる。
シチュエーションといい、解説看板の濃密さといい、ここまで好条件の公園はなかなか珍しいのではないだろうか。
ちなみに、公園の端の方に行ってみると、こんな重厚な銘板もある。
見つけたときは面食らってしまった。
右から左の方向で、なんと「東京市鶴ヶ久保公園」と書かれているのだ。
「東京市」という名前があったのは1889年(明治22年)から1943年(昭和18年)まで。この公園は1938年(昭和13年)開園という、ずいぶんと由緒ある公園だった。
その後、この公園もさすがに改修を経ているが、開園当時のこの銘板は移設されて現在まで残っている。
公園開園時の沿革を記載した銘板もあった。劣化が激しく読みにくいが、公園には記載内容を解説した別の看板もある。気になった方は是非現地へ。
Stream 3:住宅地を切り裂く異世界ダンジョン
さて、次が蛇崩川編で紹介する最後の暗渠だ。
これまでに私がたどってきた暗渠たちの中で……の話ではあるが、今のところ私の中での暗渠風景ナンバーワンの場所が、この支流暗渠の中にある。
蛇崩川暗渠の上部から分岐し、駒沢緑泉公園という公園のあたりに向かって伸びていく支流である。
蛇崩川本流との分岐点は、世田谷区立駒沢中学校がある場所なのだが、分岐点の部分にはもはや支流の痕跡は見つからない。
中学校の敷地をぐるりと迂回していくと、住宅地と住宅地の隙間に暗渠サインが現れる。
ちょっとお洒落な意匠の車止めである。路面には、なにやら手作りのタイルで行き先の案内も見える。
この支流の入口はこんな感じだが、ここから進んだ最後の方がまさかあんな姿だなんて、この入口からは想像もできなかった。
いざ、入渠!
序盤はコンクリートでガッチガチに固められた道である。
駒沢生活実習所という区立施設の裏をかすめるあたりからは、植物が見え始める。
さっきの変わった車止めもまたお目見えした。
さっきの「蛇崩川支流緑道」に比べればずいぶんと開放的ではあるが、本流と違ってなんだか野放しになっているような、雑然とした印象の暗渠緑道を進む。
謎のオブジェクトが登場。近隣の小学生の作品かと思われる、レリーフのようなものが埋め込まれていた。
その先で、「駒沢公園通り」という、バスも通っているような比較的広い道に出る。
暗渠道の出口がちょうどバス停になっている関係で、庇が設けられていた。ただ、特にベンチ等は無く、代わりに例のオシャレ車止めが3本あった。
車道を挟んだ反対側はどうなっているかというと。
あれ、暗渠道が無い?
と、一瞬不思議に思うが、この先がこの支流の本領だった。
道を渡ったところにある白いフェンスの下を覗き込んで、びっくりした。
いきなり地面の位置がガクッと下がった。
これもう「谷」とか「峡谷」とか言っていいレベルの高低差なんじゃないか?
下に降りてみる。
白いフェンスで不覚にも気づかなかったが、ここは橋だった。
欄干も親柱も残っているだなんて。
ただ、橋の名前はわからず。
暗渠の路面はさっきまでの舗装とは打って変わって、ゴムシートが打たれただけの簡素なものに。
少し前までは、未舗装の地面がむき出しだったようだ。(そういう写真をインターネット上の古い暗渠探索記で見かけた)
面白くなってきたところなのだが、
ここから上流に向けて少し辿った所で、さっそくガードレールで封鎖されてしまう。
いやー、あの奥の方絶対いい感じでしょう。
期待しつつ、迂回して住宅地の中を進んで、暗渠に合流できるポイントを探す。
さて皆様。
ここで、この連載で初めての試みなのですが。
動画をご覧頂こうと思います。
さっきの暗渠に合流できるところを探して、住宅と住宅の間の細い道に滑り込んでいったところからです。
その先には、とんでもない光景が広がっていました。
自分にとっても忘れられない暗渠体験でした。
心して、どうぞ。
いかがだっただろうか。
自分がさんざん「異世界」とか「パラレルワールド」とか大げさな表現を使っているのが、あながち嘘でもないな、というのが、伝わると良いのだが。
こんな場所が世田谷区の住宅地の中に残っているのは、奇跡だとも思った。
改めて、写真で紹介していこう。
まずはこの、野太い排水パイプが連なる右側の擁壁と、
対照的に何の障壁も無い左側。
民家の敷地との境界は、直感的に感じ取るしかなかった。
もうね、ここを通る時は本当に背徳感まみれだったのだけど、これでも世田谷区マークの境界標のある公道だったので通行させていただきましたよ。
動画撮影時には水の音も聞こえていて、グレーチングの下を覗いてみたら水が溜まっていた。
そしてこの「峡谷」に至る。
ここはもう、はっきりと、「谷底」「川底」を歩いているという感覚になれる場所だった。
地形はこの手前の場所からほとんど平坦なのに、突然、この区間に入ったときだけ、左右の擁壁がおそろしく高くなる。これは不思議な体験である。
暗渠道で、左右の両側をこれほど高いコンクリ壁に囲まれ、それがこれだけの距離で続いている空間というのは、私は他に経験がない。
ちょっと進んで振り返ったのがこの写真。
一番奥に見える住宅と、左右の擁壁の上にある住宅との間に、かなりの落差がある。
川だったころに、それほど深くまで水位があったとは考えにくい。
台地になっていた所を、長い時間をかけて、蛇崩川支流が削っていったのだろうか。
ここ本当に通っていいの?いいの??と、何度も不安になったので、
世田谷区の境界標を探し、見つけて安心する。
地面付近からの撮影。
とにかく、壁の上の世界との距離感がすごいのだ。
壁は2~3メートルの高さがあると思う。明らかに「あっちには行けない」高さだった。上るための階段のような構造も一切なかった。
左右の擁壁の上には民家が立ち並んでいて、そこでは間違いなく普通の生活が営まれている。
でも、その間を切り裂くこの隙間を歩いている自分は、その世界とは関わりが切れているような気がした。高低差がありすぎるもの。
ゲームのダンジョンか何かかな?とも感じた。
ここ、ちょっと前までは、この緑のゴムシートはなく、未舗装の地面が広がっていたらしい。
それって、夏場に来たら、草ボーボーで踏破困難だったのでは……?という想像も膨らむ。
ちなみに、この空間はそのまま、世田谷区駒沢2丁目と弦巻3丁目の境界になっている。
川や暗渠が行政境界になっていることが多いというのは、これまでもご紹介のとおり。
これだけ深く住宅地を刻んでいれば、そりゃ街の境にもなるだろう。
100メートル弱の異世界トリップ体験を経て、ようやく元の世界に戻る。
出た先も当然、まだ暗渠くさい雰囲気ではあるが、先ほどの高低差は嘘のように無くなった。
この写真の奥のあたりまでが窪地になっていて、そのあたりで暗渠サインが途絶えた。
この支流のすぐ南側には「駒沢緑泉公園」という、池を湛えた公園がある。
1つ前の支流の鶴ヶ久保公園と同じように、ここが支流の水源なのでは?と一瞬思ってしまったが、しかしこの公園は台地の上にあるので、さっきの支流の水源かというと怪しい。
人工的なせせらぎや、噴水広場まで整備されていたので、池も含めて後から作られたものだろうと考えている。
とはいえ、暗渠をたどった末に水面が見えるというのは心地よい体験だ。異世界体験で緊張していた脳が癒される気がして、少しこの公園でのんびりさせてもらった。
公園内には水が流れる音が響く。それを聞きながら、先ほどの空間に水が流れていた頃の様子に思いを馳せてもいいだろう。
ここまで、蛇崩川の支流を3本紹介した。
どれも濃密だ。
特に最後のは、他ではできない体験を提供してくれる珠玉の支流だった。
さて、この場所まで来たら、ついでに訪れてほしい場所がある。
その場所を紹介して、本稿の結びとしたい。
Bonus Trip:100年の歴史を刻む「双子」
3つ目に紹介した支流を辿り、駒沢緑泉公園まで来たら、もうそこからわずか100メートル北西のところ。
前回の「谷戸川編」で紹介した大正時代の土木遺産に関連する、見事な建築物が現存している。
「駒沢給水塔」だ。
……もっといいアングル探せよ、写真ヘタクソだな、と思った? 笑
先に断っておくと、この駒沢給水塔、もどかしいことに「外部からやってきた人間が立ち入れる場所からだと、全景を撮影するのがほぼ不可能」である。
付近のマンションの住民なら、屋上から最高のアングルで眺められるだろう。
あとはもう、ドローンでも飛ばすしか……。
というわけで、やむなく、Google Earthの画像をお借りします。
特徴は何と言っても双子の給水塔と、それを結ぶトラス橋。
中世ヨーロッパの城を思わせるような塔のデザインが素晴らしい。
塔の上部とトラス橋には、装飾電球がつけられている。毎日点灯するわけではないが、時折これが点灯するイベントが開かれるようだ。
大正時代、渋谷町(当時)の人口急増に対応するために造られた「渋谷町町営水道」の設備のひとつである。竣工は1923年(大正12年)で、ほぼ100年前だ。
多摩川から砧村(当時)で取水した水をここまで運び、送水ポンプの力でこの給水塔に貯め、あとは自然重力で渋谷町へと送水する、という仕組みだった。
今では周囲の住宅地に埋もれ、意外と知られていない存在かもしれない。
町営水道そのものは役割を終えているものの、この給水塔は震災時に飲料水を供給する応急施設としての役割を残していて、今でも内部には水が貯められ、定期的に入れ替えられている。
この駒沢給水塔に関しては、「駒沢給水塔風景資産保存会」という地元の有志団体のウェブサイトがあり、より詳しい歴史の紹介はそちらに譲りたい。
素敵な写真も多数掲載されているので是非一度アクセスしていただきたい。
http://setagaya.kir.jp/koma-q/
前回の谷戸川編で、谷戸川を上流から辿っていったら、期せずしてこの渋谷町町営水道とクロスして劇的な展開を迎えた経緯があった。
蛇崩川と直接のかかわりがあるわけではないが、個人的な思い入れもあるので紹介する。
100年という歴史を刻んで、今なお貯水機能を残しており、実際に目の当たりにするとなかなかの威容である。
お近くまでお越しの際は是非……というよりも、支流暗渠とこの駒沢給水塔をあわせて、この一帯がもう立派な目的地だと思う。
さて、蛇崩川、いかがだっただろうか。
名前の由来も暴れ気味だったし、実際に暗渠化前は洪水被害を出して暴れていたという話も聞いた。
暗渠化されて大人しくなったかと思いきや、850年前の出来事からハザードマップ、最後の方は至高の極細暗渠まで、ずいぶん話題に事欠かない川だったので、ある意味このnote上でも暴れていたのではないか。
おかげで、思いがけず長編になってしまった。
暗渠道は、ただ辿って川沿いの風景を眺めるだけでも十分楽しめるのだが、川に付随するストーリーを掘り下げると、暗渠道の光景がより色づいてくる。蛇崩川はその好例だった。
都市を流れる河川なら、必ず人間社会の営みと関わりを持っているだろう。もちろん「暗渠化」自体が、都市の活動の結果なのだが、それだけでは語り切れない多様なストーリーが、おそらくそれぞれの川ごとに、蓋の下に秘められている。
暗渠道を辿って歩きながら、そんなストーリーに耳を傾け、散りばめられたヒントを見つけ、紐解いていく。それが暗渠道の醍醐味であるように思う。
柏原康宏(かしわばら・やすひろ)