著者インタビュー『公務員の議会答弁言いかえフレーズ』(森下 寿 著)
10月22日に『公務員の議会答弁言いかえフレーズ』が発売されました。
自治体の管理職にとって、最も重要な仕事である「議会答弁」。
本会議や委員会での答弁は、「言い方」ひとつで大きな問題に発展してしまう恐れもあるため、「本音」をそのまま話すのではなく、うまく言い換えて伝えることが求められます。
しかし、議会答弁に不慣れな管理職が、思わず禁句ともいえることを口にしてしまうこともしばしば・・・
本書は、本会議・委員会での答弁から、質問に伴う議員への取材、議員個人への対応まで、さまざまな場面ごとに、NGフレーズとそれを言いかえたOKフレーズを紹介しています。
発売を記念して、著者である森下 寿氏にインタビューしました!本書とともにお楽しみください。
▼ 『公務員の議会答弁言いかえフレーズ』
(森下 寿 著、定価=税込2,420円、A5判・164ページ、2021年10月刊)
▼ 本書の目次
第1章 本会議・委員会での答弁編
第2章 質問に伴う議員への取材編
第3章 議員個人への対応編
▼ どのような答弁を紹介しているかは画像(抜粋)をご覧ください!
本書が誕生したきっかけ
―はじめに本書をご執筆されたきっかけを教えて下さい。
(森下氏)本書を執筆したきっかけは、2つあります。1つは、議会答弁で失敗しないためのノウハウをお伝えしたかったことです。
管理職に昇任したばかりで、議会答弁での経験が少ないために、「財政課に予算を切られました」のような禁句を平気で答弁してしまう新任課長がいます。これは初歩的なミスです。
―やってしまいそうなミスですね。
(森下氏)しかし、管理職になったからといって、議会答弁に関するテクニックを、正式に教えてもらう機会は実際にはなかなかありません。
先輩管理職から口頭で教わるか、自分で経験するのが一般的です。しかし、これでは新任管理職の皆さんは苦労してしまいます。
そこで、良い答弁・ダメな答弁を対比すれば、よりわかりやすいのではと考えたのです。
―本書は、ダメ答弁は「✕」、良い答弁は「〇」を並べて示していることで、一目で良いか悪いかわかるようになってますね。
(森下氏)もう1つは、いかに議員との信頼関係を構築するかをお伝えしたかったことです。
管理職にとっては、日頃から議員との信頼関係を構築しておくことが必要です。そのためには、「議員にどのように伝えるか」は重要です。
かつて地域エゴをそのまま押し付けてくる議員がいたのですが、その際の私の説明がまずく、非常に揉めたことがあります。
議員の立場を踏まえない言い方だったために、無用の混乱を起こしてしまったのです。正に言い方一つで事態は良くもなりますし、悪くもなります。
こうした失敗例なども紹介し、どうすれば議員と信頼関係を構築できるか、を考えるヒントにしてほしかったのです。
―そうだったんですね。伝え方ひとつで信頼関係を構築できる一方で、誤解を招いたりもします。議会答弁で苦労されている方には待望の本になりましたね。
必ずしも悪い答弁「✕」、良い答弁「〇」というわけではない?
―「第1章 本会議・委員会での答弁編」の中の「複数の部署に係わる提案がされたとき」の項目では「全庁一丸で取り組んでいきます」とのフレーズがあります。
自分の課のことのみを考えるのではなく、広い視点で考え、答弁することが大事と解説されています。
解説が具体的なエピソードにあふれていて、なぜ、言い換えたフレーズを使った方がよいのかが明快でとても参考になると感じました。
(森下氏)事前に質問内容がわからず、急に委員会などの場で質問された場合、その場で答弁を考えなければなりません。
経験が少ない管理職だと、どうしても自分の課を中心に考えてしまうので、視野の狭い答弁になってしまいます。
そのような答弁でも間違いではないのですが、答弁を聞いている議員や住民からすれば、物足りないものです。
人によっては、役所の縦割りを感じてしまうかもしれません。このようなことから、「全庁一丸で取り組んでいきます」などの答弁が望ましいのです。
管理職の経験を重ねていけば、こうした答弁も自然と出てくるものです。しかし、経験が少ないうちは、意識することが大事です。
―場数を重ねて、勉強していくことが大事になってきますね。
本書では、いろんな言い換えが満載で、言い換えた言葉に目がいってしまいますが、なぜ、このような答弁よりも言い換えた答弁の方がふさわしいかを考えて読むことができました。
同時に仕事への取り組み方や姿勢も学べる本になっていると感じました。そのような企画意図はあったのでしょうか。
(森下氏)本書では、良い言い方・ダメな言い方を対比させていますが、良い言い方はいつも正しく、ダメな言い方は絶対使ってはいけないというものではありません。
場合によっては、ダメな言い方でも良いこともあります。大事なことは、状況や背景を踏まえた上で、適切なフレーズを選択できることです。
―なるほど。状況や背景はもちろんですが、相手にもよりそうですね。
(森下氏)つまり、機械的に「この言い方は良い」「この言い方はダメ」のように、言い方によって良い・ダメが固定化されるものではありません。
管理職として、その状況を的確に判断し、適切な言い方を選択できることが重要であって、単に良い言い方を暗記することではないのです。
私の過去の失敗談なども紹介していますので、これらを反面教師にするなどして、皆さんがそれぞれの立場で応用していただければと思います。
―その場面によって適切な言い方があるということなのですね。そのためには、引き出しをいくつももって、最適なフレーズを選択できる力を養っていくことが必要になってきますね。
議員との理想の関係とは?
―「第2章 質問に伴う議員への取材対応編」や「第3章 議員個人への対応編」では、いろんな議員さんとの対応について書かれていますが、議員さんとはどんなスタンスで接していくのがよいのでしょうか。
(森下氏)議員と本音で話し合える関係を構築することが理想ですね。もちろん、行政と議会では役割も違いますので、それぞれの役割を踏まえることは重要です。
また、行政には行政の事情があり、議員には議員の事情があります。しかし、お互いが目指しているのは、住民福祉の向上であり、地域の発展であることに違いはありません。
この目的のために、両者が本音で話し合えることが、正に理想像だと思います。
―本音で話し合う、大事ですね。
(森下氏)しかし 、実際には議員にも様々な方がいます。庁内の職員と同様に、正に十人十色です。このため、あまり良い関係を構築できない場合も当然あります。
しかし、管理職にとっては議員とのお付き合いは必須ですから、本音で話し合える議員を1人でも多く増やすことが大事だと思います。
そのためには、委員会などの公式な場だけではなく、日頃のやり取りが重要となるわけです。
―普段のおつきあいが重要になるわけですね。向かっている方向は一緒ですから、より関係性が高まっていけるとよいですね。
やってしまった!失敗エピソード
―議会や委員会での答弁で失敗してしまったエピソードがあれば教えて下さい。
(森下氏)失敗はたくさんあります。ただ、 今でも鮮明に残っているのは、議員の質問に対して、問題のある答弁をしてしまったときに、私の前に座っている首長などの上層部が一斉に振り返って私を睨んだことですね。あれは、なかなか強烈な体験でした。
―それはヒヤヒヤしましたね。多くの経験をされてきたからこそ、答弁にふさわしいフレーズが生まれてきているのですね。
読者へのメッセージ
―最後に読者の方へメッセージをお願いいたします。
(森下氏)管理職にとって、議員対応は本当に気を遣います。日頃から皆さんも苦労されていることと思います。
例えば、議会答弁であれば、「その答弁はダメ」という禁句などにも注意しなければなりません。また、日頃から議員と良好な関係を構築することも重要です。
このように、様々な場面で議員対応が求められるわけですが、本書がそのためのヒントになり、少しでも皆さんのお役に立てば幸いです。
また、前著「どんな場面も切り抜ける! 公務員の議会答弁術」では、多くの方々からコメントをいただきました。
「初の議会はこれで自信を持って臨むことができた」「不安を取り除いてくれる本だった」「助かりました」など、皆さんが議員対応で苦慮されていることを改めて知る機会になるとともに、本書が生まれるきっかけとなりました。
この場を借りて、御礼を申し上げます。
―今回の本も前著の本と同様に多くの方に読んでいただき、議会答弁に役立てて欲しいです。森下さん、 ありがとうございました。
著者プロフィール
森下 寿 (もりした・ひさし)
基礎自治体の管理職(部長)。
これまで企画、人事、財政といった内部管理部門から、保育、防災福祉などの事業部門まで幅広い部署を経験。
議会事務局職員の経験もあり、管理職としても10年以上に渡り、本会議・委員会で議会答弁を行ってきたベテラン職員。
著書
▼ 『どんな場面も切り抜ける! 公務員の議会答弁術』
(定価=税込2,420円、A5判・168ページ、2017年8月刊、学陽書房)
▼ 新刊!『公務員の議会答弁言いかえフレーズ』
(定価=税込2,420円、A5判・164ページ、2021年10月刊、学陽書房)