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西表島を夢見て#4

【第四話】西表島のブルース

今回お話しするのは、西表島活動中に滞在した、南風見田(はえみだ)キャンプ場での出来事である。このキャンプ場は、最寄りのバス停「豊原」から歩いて30分かかるのに加えて、周りに畑と海と森しかない。

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インターネットで下調べした際、南風見田キャンプ場には、生活している人もいるという情報を目にしていたので、行く前は「人間社会に疲れた人たちが、第二の人生を送るために移住して、ここに住んでいるのではないか」と少しドキドキしていた。初めてキャンプ場に到着した時、かまどがある共有スペースで火を囲んでいた男女複数人を見て、「このキャンプ場の住人だ!」と身構えたのを覚えている。しかし、全員が全員ではないが、実際にそこで生活している人はいた。それは、イタリア人女性のソフィアさんと夫のゆーやさんに、まだ一歳に満たない娘の三人だった。三人は一つのテントで暮らしており、生活はもちろんガスや電気はないので、共有スペースのかまどで火を起こし、料理はその火で行い、また夜はライトを照らしながら行動をする。食料は、基本スーパーなどで調達しているので、完全なサバイバル生活をしているわけではないが、現代ではあまり考えられない、野生的な生活をしていた。そんなソフィアさん家族三人の姿を見て、私はあることを思い出した。西表島に来る前は、今でもここの島民は自給自足の暮らしをしており、なによりみんな優しく、来れば宴をしてくれるだろうと、私は考えていた。しかしそんなことは全くなく、スーパーの店員もフェリー乗り場の受付の人も、東京のマニュアル通りのサバサバした接客となんら変わらなかったし、宴はもちろん、自給自足の生活をしている人は私が今回見た西表の範囲ではいなかった。しかしソフィアさん達夫婦だけが、そのイメージしていた暮らしに一番近かったと思う。私の思い描いていたような、食料全てが自給自足ではないものの、キャンプ場内にある畑で万能ねぎや大根、レタスを育てたり、時に漁に出て魚やカニを捕まえたりと西表島らしい暮らしがあったと思う。私はソフィアさんとゆーやさんの、豊かな自然の中で平和に暮らしている姿を目にして、これが本来の幸せではないかと考えさせられた。

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そしてもう一つ感じたことがある。私はゆーやさんからモリとシュノーケルを貸してもらい、キャンプ場の近くにある南風見田の海で素潜りに挑戦した。もちろん何も取れなかったが、あんな小さな魚を捕まえることが、いかに大変かを思い知った。頭では知っていたが、普段当り前のように食べていた食材も、それは誰かが獲ったり、育てたりしたモノであることに改めて気づかされた。私はスーパーで食料を買えるから良いものの、もし自給自足の生活で食材を調達できなかったら、その日は例え腹が減っていても飯はない。私は2時間ほどモリ突きをすると疲れてしまったので海から上がった。もし自給自足生活なら例え疲れていても、生きるためには食わなくてはならない。それに気づいた時私は、この自然社会での自分の無力さを痛感した。私はただ何気なく生きているのではなく、動物や魚を捕まえ、野菜を育てている方々がいて、初めて生かされているだけと感じた。

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この西表島活動は、ジャングル探検こそできなかったが探検部として実際に西表島の自然に触れられた。それだけでも、近年探検活動とは無縁だった駒大探検部にとっては、十分な収穫だったと思う。「行ってみないと分からない。だから行くのが“探検部”」という、駒大探検部OBの言葉がある。我々も報告書でしか読んだことがなかった西表島は、実際にどんな島で現地の人がどんな暮らしをしているのか。今回訪れるまで分からなかった、そのような疑問の答えを少しでも知ることが出来た今回の活動は、私にとって立派な探検だった。正直、駒大探検部OBが行ってきた、“パイオニアワークを目的とした探検活動”なんて、私はできる気がしない。しかし、少しでも先輩たちの足跡を追うくらいはできると思う。残りの大学生活は一年を切り、探検部員としての活動も今年で最後。最後くらい駒澤大学探検部としての意地を見せてやりたい、その気持ちを忘れずに、また西表島へ旅立とうと思う。

文責: 吉田 勇也(駒澤大学探検部)

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