「問いがちょっと背伸びしてるから、答えもつい背伸びしちゃう。それがいいんですよ。」
「高校生が未来の「私」に贈る問い」(通称「しつもんカード」)のリリースから半年が経ちました。
「答えは時代とともに変化するけど問いは変化しない」「焚き火を囲むように、問いを囲みながらともに語り、ともに未来を開こう」という思いからこのカードをつくり、おかげさまで150名弱の皆さんに購入していただきました。高校や大学、企業や役場の方にも選んでもらい、反響の大きさに驚いています。
と同時に、「活用事例をもっと知りたい」「活用している人同士で交流したい」という声も届くようになってきました。開発したぼくたちも思いは同じです。
そこで、今回は静岡市立高校の辻陽介先生をゲストにお迎えし、活用事例をお聞きすることにしました。さまざまな場面で活用されており、ぼくも「なるほど!」とインスピレーションを得ることばかりでした。
ちょっと背伸びしてるのがいいんですよね
澤:今日はありがとうございます!さっそく活用してもらい、とても嬉しいです。どんなきっかけで購入しようと思ったのか、伺ってもいいですか?
辻:隠岐に行きたいと思っていたんですが、なかなか実現できず、どうしたらつながりがつくれるだろうとあれこれ考えていたんです。そうしていたら、澤さんから「カードつくったよ。」と連絡をもらい、まずは自分でやってみようと思い、届けてもらいました。
澤さんが実際にフェイスブック上でやっている様子を見ながら、同じ問いでも、見ている視座の高さが人によって違うことに気づきました。違うけどやりとりは成立している。それを見て、高校生と一緒にやりたいと思ったんです。
澤:カードが手元に届いてから、実際にやってみるのは簡単でしたか?
辻:最初は自分が持っているチームの生徒たちと一緒にやりました。カードから読みあげつつ、答えてもらいつつと、遊び感覚からはじめたんです。
遊びながら気づいたのは、カードの構造が複雑なんですよね。コンセプトが「未来の「私」に贈る問い」だから、「未来」に向けて投げられた問いを「今」を生きる私たちが答える。この複雑さがおもしろいよねという話を生徒たちとしました。
使っているうちにさらに気づいたのは、「未来」に向けて投げられてるから問いがちょっと背伸びしてるんですよね。問いが背伸びしてるから、答えるときもちょっと背伸びする。こないだ玄田有史先生(東京大学)が来校されたときも、「ちょっと背伸びしながらしゃべろう」をコンセプトにしながら使わせてもらいました。
澤:なるほど。背伸び。
辻:ちょっとかかとが浮いてる感じがいいんですよね。
語りあうなら世代をこえて
澤:1年生でも2年生でも3年生でも、学年は関係ない感じでした?
辻:ぼくが探究のチームをもってるのは1年生と2年生なんですが、2年生にはとてもよかったです。玄田先生が来校されたときは1年生と2年生が混じってたんですが、ベテランの先生もふらりと見に来られて、総勢20人くらいで一緒にやったんですよ。色んな世代が混ざりながらやるのはすごくいいですね。
澤:もうちょっと詳しく聞いてもいいです?
辻:最初は玄田先生に講演してもらおうと思ってたんです。でも、偶発的なやりとりも楽しみたいと思ったときに「いましかない」と思い、カードを使ったんです。
最初は澤さんがフェイスブックでやっていたように、玄田先生に「29。あなたの直感は何を大事にしてる?」のように番号を言ってもらいました。4人から5人のグループに分かれ、その問いをもとに自由に語りあうことからはじめたんです。その後、「玄田先生にも聞いてみよう」と、同じ問いに答えてもらいました。
これを2回、3回と繰り返し、4回目からはあらかじめ準備していた3枚のカードから玄田先生に選んでもらい、グループで語りあい、玄田先生にも答えてもらう形に変えました。
澤:3枚とも高校生に選んでもらったんですか?
辻:2枚は高校生に選んでもらい、1枚はぼくが個人的に聞きたいものをいれました。1枚だけのつもりでしたが、2枚答えてくれたんです。ちなみにその2枚は「どんな大人が好き?」と「幸せって何だと思う?」でした。
澤:ある種の哲学対話でもありますね。ちょっと背伸びした問いを前にして、みんなであーだこーだと語りあう感じ。ファシリテーションは必要でしたか?
辻:そうしたほうが生徒たちが対話に集中できると思ったので、今回はぼくがやりました。最初はちゃんとやってたんですが、だんだん必要ない感じになっていきましたね。
澤:高校生の反応はどうでした?
辻:「玄田先生から元気をもらいました」「明日からこれをやってみよう」という声はもちろんありました。でもその日に印象的だったのは、1番よく発言していた生徒が「今日はよくしゃべれなかった」って言ったんですよね。それが印象的でした。
2回目の問いが「これからの人生で大切にしたいことは何?」だったんです。きっと大切にしたいことはすでにあるんだけど、上手にしゃべれなかったんだと思います。言葉にできないもどかしさですよね。
澤:言葉にしようとすると逃げちゃう感じですよね。
辻:もどかしさって大事ですよね。カードが引き出してくれたと思います。
さらなる活用の可能性は?
澤:これからこう活用していきたいというアイデアはありますか?
辻:高校生は「答えをためておきたい」って言ってましたね。確かにためておくと、先ほどの例のようにたとえ言葉にできなかったとしても、誰かの言葉にふれることもできる。それが次の問いにつながることもあると思うんです。
澤:学校をこえた活用についてはどうですか?
辻:「越境ミーティング」というのを毎月やってたんです。静岡の若手の実業家さんが集まるミーティングで、ぼくのような教員や生徒、大学生も混ざってたんです。こうした場はいいですよね。単発じゃないほうがいいと思うんです。例えばミーティングの冒頭10分はしつもんカードからはじめるというように、継続してやるのがよいと思ってます。
澤:各地で展開されるといいですよね。次回あれば参加してもいいですか?
辻:もちろんです!
問い自体は抽象度が高いんです。生徒も高い抽象度のまましゃべってしまうことがあるので、視座のちがう人と一緒にやったり、日常と結びつけるナビゲートがあったりしたほうがいいですね。その意味でも、世代をこえた活用には可能性を感じています。
澤:よくわかります。大事な視点ですよね。
辻:「幸せって何だと思う?」という問いに、玄田先生は「健康な悔しさがあることだ」って答えたんです。
健康な悔しさってなんだ。簡単には分からないけど、「ここまでできると思ったけど、できなかった。無限に次があるというのは希望だから、健康な悔しさはきっと幸せにつながってるんだ」と言うんですよね。ひとつの問いをめぐる、こうした対話がとても豊かでした。
澤:ヒントをたくさんもらいました。今日はありがとうございました!
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