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鉛筆の濃さ指定?学校教育における筆記具の位置づけ【シャーペンの教育学②】

 前回、シャーペン禁止の実態と主に挙げられる理由を記しました(こちら)。シャーペンを禁止する法令などはありませんが、9割以上の小学生は学校でのシャーペン利用が禁止されています。
 シャーペンに限らず、具体的にどんな筆記具を使いなさいという国レベルの規定はありません。学校では指定されがちな鉛筆の濃さについても、国の規定はないと国立教育政策研究所教育図書館が2016年に回答しています(文献①)。
 ただし、学習指導要領では、主に国語の書写において筆記具に関する指導事項が記されています。学校教育における筆記具の扱いを見ていきましょう。


1.低学年は「鉛筆を正しく持つ」

 以下、引用する学習指導要領の文言は書写に関するものです。ただし、書写の時間以外は文字の書き方を全く気にしなくていいということはありません。後にも出てきますが、学校で何かを書く場面全般に関わる事項と捉えてよいでしょう。
 筆記具に関する記載は以下の通り、低学年と高学年で違いがあります。まずは低学年から見てみましょう。

ウ 書写に関する次の事項を理解し使うこと。
(ア)姿勢や筆記具の持ち方を正しくして書くこと。
(イ)点画の書き方や文字の形に注意しながら,筆順に従って丁寧に書くこと。
(ウ)点画相互の接し方や交わり方,長短や方向などに注意して,文字を正しく書くこと。

出典:『小学校学習指導要領(平成29年告示)』国語・第1学年および第2学年 2(3)

 ここでは筆記具の具体例は挙げられていませんが、学習指導要領の詳細を記した『解説』では以下のように記されています(太字も原文ママ)。

(ア)姿勢や筆記具の持ち方を正しくして書くこと。
 読みやすく整った文字を効率よく書くためには,姿勢と筆記具の持ち方を正しくして書くことが必要である。
 姿勢とは,文字を書くときの体の構えのことである。背筋を伸ばした状態で体を安定させ,書く位置と目の距離を適度に取り,筆記具を持ったときに筆先が見えるようにすることが重要である。筆記具は,第1学年及び第2学年では主に鉛筆やフェルトペンを使用する。持ち方を正しくするには,人差し指と親指と中指の位置,手首の状態や鉛筆の軸の角度などを適切にすることが必要である。                  

出典:文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編』pp.54-55

 なお、フェルトペンとは「ペン先に繊維を用いてインクを出す筆記具」のことで、「マーカー」と同じです。「マジック」や「サインペン」もフェルトペンの一種(商標)です。低学年の書写の教科書では、各社とも鉛筆と別にペンの持ち方を載せています(文献②)。しかし、私自身小学校の書写でペンを用いた経験はありませんし、国語の教員免許を取るにあたってペンの書き方を扱う機会は一度もありませんでした。実際にどの程度扱われているかは各教員により大きな差があるでしょう。
 全体として、低学年においては正しく持つことが大切にされています。

2.高学年は「目的に応じて使用する筆記具を選ぶ」のだが…

 次に高学年を見てみましょう。

エ 書写に関する次の事項を理解し使うこと。
(ア)用紙全体との関係に注意して,文字の大きさや配列などを決めるとともに,書く速さを意識して書くこと。
(イ)毛筆を使用して,穂先の動きと点画のつながりを意識して書くこと。
(ウ)目的に応じて使用する筆記具を選び,その特徴を生かして書くこと。

出典:『小学校学習指導要領(平成29年告示)』国語・第5学年および第6学年 2(3)

 目的に応じて使用する筆記具を選ぶ、ということが出てきました。『解説』で詳しくみて見ます。

(ウ)目的に応じて使用する筆記具を選び,その特徴を生かして書くこと。
 手書きの慣習に関わる文字文化に関する事項として位置付けられる。
 目的に応じて目的は,生活や学習活動において文字を書く様々な場面における目的のことである。例えば,全校児童に伝えるために大きく読みやすく書くことや,お世話になった人にお礼の気持ちを伝えるために丁寧に整った文字で書くことなどである。
 筆記具を選び筆記具は,鉛筆,フェルトペン,毛筆,ボールペン,筆ペンなどから選択することが考えられる。これらの筆記具に適した用材の選択にも配慮する必要がある。その特徴を生かして特徴は,筆記具全体の形状,書く部分の材質や形状,色などである。例えば,横断幕を書くときには,大きく書ける毛筆と墨で書きやすい布を選ぶことが考えられる。

出典:文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編』p.131

 目的に「生活や学習活動において文字を書く様々な場面における目的のこと」とあるように、書写の学習事項は書写の時間以外でもあらゆる書く場面で活かされることが想定されています。
 筆記具の特徴を考えて、目的に応じて使う筆記具を変えていくことが書かれています。このことをしっかりと指導できている学校は多くないと思いますが、大切な事項です。

3.それぞれに合った筆記具を選ぶ重要性


 小学生が一番行う「書くこと」は、ノートやプリントに文字を記入することです。その筆記具の選択肢には、当然シャーペンも入ってきます。個人の特性も考慮しながら、それぞれに合った筆記具を選んでいくことが大切になります。
 筆記具を選ぶ上で、先ほど出てきた「用紙全体との関係に注意して,文字の大きさや配列などを決めるとともに,書く速さを意識して書くこと」は重要になります。その上で、読みやすい文字が書きやすい筆記具を選んでいく必要があります。
 現在は、中学生になると各生徒がそれぞれ自分に合ったシャーペンを探しています。しかし、極端に薄い文字など、適した筆記具を選べていない中学生も少なくありません。元々学習に苦労している子どもが、文字が読めないからという理由で本当はできていた所もできていないと評価され、さらに学習に困難を抱えていくという負の連鎖も起こります。
 学校の時間数は限られていますが、自分に合った筆記具を選ぶことで今後の全ての学習に好影響を与えられるなら、小学校高学年の国語の数時間を割く価値は十分にあります。

4.一律の禁止から、主体的に考える方向へ

 
 個人によって、文字の大きさ・濃さや扱いやすさ、消しやすさ、芯をよく折るかどうかなど、自らに適した筆記具は異なります。個人の感覚としては使いやすくても薄すぎるなど、客観的に見て伝わる文字になっていないと指摘が必要なこともあるでしょう。シャーペンにしても鉛筆にしても、様々な濃さや形状が選べる時代です。そんな中、シャーペンを一律に禁止、ましてや鉛筆の濃さまで指定して思考停止してしまうのはもったいないです。
 学習に適しているかどうかを判断し、自ら適した道具を選べるようにしていくことが重要です。選択する力をつける段階になれば、一律に禁止することで端から考えないようにするのではなく、自ら選んでいく、指導者はその選択に対して客観的に判断して適切な助言をしていく、という方向性が学習指導要領の文言の趣旨にも合っているように思います。
 ただし、学習指導要領には「シャープペンシル」という語は含まれていません。指導要領の文言にしっかりと組み込むことで、日々の学習活動における筆記具を選ぶこのと重要性を示していくべきだと考えます。
 学校教育全体の問題として、シャーペンの取り扱い、筆記具を子ども自らが選んでいくことの重要性を真剣に検討していくべきだと思います。

【参考文献】

①国立教育政策研究所教育図書館「レファレンス事例NIER2016034」国立国会図書館レファレンス協同データベース、2016年:https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000197756
②枝元香菜子「小学校における書写指導の考察 ─望ましい姿勢や筆記具の持ち方に着目して─」『目白大学人文学研究』13、pp.17-28、2017年

◆押木秀樹・近藤聖子・橋本愛「望ましい筆記具の持ち方とその合理性および検証方法について」『書写書道教育研究』17、pp.11-20、2003年
◆神野雄二「小・ 中学校国語科書写における基礎的研究:望ましい筆記具の持ち方指導における今日的課題と指導法について」『熊本大学教育実践研究』2018増刊号、pp.102-95、2018年
◆小竹光夫「伝統的書写指導の誤解と問題点の指摘 Ⅳ」『奈良学園大学紀要』7、pp.45-55、2017年


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