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テストの意味 ~「定規で線を引かないと減点」がダメな理由~【学校教育】

 「筆算の線や分数の線を定規で引かないと減点、あるいはバツ」全ての教員がこうしたテストの採点を行うわけではありませんが、学校の理不尽ルールとしてよく挙げられます。
 定規で線を引かせる利点は「丁寧に書くためミスが減る」ことのようです(この点は最後に参考記事を紹介します)。ふにゃふにゃな線だと読みづらいのは確かです。しかし、判別可能な程度に真っすぐ線が引ければ良いでしょう。「定規をアシストに使うと楽だ」「真っすぐ書けない子は使いましょう」という指導はわかりますが、「定規を使わないと絶対ダメ」というのはおかしな話です。
 日常の指導においても強制はよくないことですが、これがテストの採点となるとより不適切になります。なぜなら、テストして採点をすることそもそもの目的・原則に沿っていないからです。
 「定規で線を引くことを強制」問題は典型例ですが、他にもテストの目的をはき違えた採点は、しばしば見られます。なぜテストをするのか、という根本から考えていきましょう。


1.テストの目的 ~説明責任と学習効果~

 学校でテストを行う目的は大きく2つです。
 1つ目は、アカウンタビリティ (結果を説明する責任)を果たすためです。学校教育には、子どもがどんな能力を身につけるか目標があります。そして、確かにその目標を達成したことを確認して、外部に証明する必要があります。また、どの程度達成していたか(=成績)を区分することで、進学や就職といった選抜の材料となります。
 2つ目は、学習に役立てるためです。テストで現状できていないところを把握することは、生徒側が自分自身の今後の学習に活かすのはもちろん、教員側も今後の指導に活かせます。また、テストは知識・技能の貴重な出力(アウトプット)の機会です。知識は入れるだけでなく、解くこと・実践することで定着していきます。普段の学習も問題を解く機会はありますが、テストほど集中して取り組む機会は中々ありません。そして、テストそれ自体が「テストがあるから勉強する」という学習の大きな動機付けになります。1つ目の目的だけなら極端な話、テストは卒業手前の1回で済ませてもいいのですが、それでは学習効率は上がらないため、定期的にテストを行うというわけです。
 どちらの意味でも、各教科のテストは、当然各教科の目標に沿ったものでなくては意味がありません。しかし、実際には不適切なテストや採点が行われることもあります。

2.従順度測定会ではない ~テストは目標準拠評価~

 国語のテストで「1+1」が問になることはありません。なぜおかしいのか、それは国語の目標とズレているからです。また、中学3年の数学「二次方程式」の単元のテストでも、「1+1」が問になることもありません。内容は算数・数学であっても、その単元の目標とズレているからです。テストは目標に基づき評価する「目標準拠評価」です。
 当然と思われた方も多いと思いますが、これが意外とないがしろにされることがあります。その典型例が「筆算の線を定規で引かないと減点」となります。この決まりは、学習指導要領で定められたものでも、教科書に記載された見解でもなく、教員が決めた教室内のローカルルールです。つまり、この減点は「教室のルールに適応していないこと」に対するものです。
 しかし、テストの点数は本来、教科学習の目標達成度を示すはずです。ル
ールへの不適応を学習の未達成だと(あるいはそれと同等だと)評価しているのです。これはテストの1つ目の目的「アカウンタビリティ」としても、目標にない基準を教員の判断で勝手に混ぜてしまっているので不適切です。そして、2つ目の目的「学習に役立てる」にとっても、「合っているのに減点された」など混乱を引き起こす・意欲が失われるなど様々な悪影響があります。もちろん、ローカルルールを徹底する効果はあるでしょうが、そもそもローカルルール自体の合理性も怪しいところ、テストの目的・原則を曲げるというのは本末転倒です。
 今回は「定規で線を引かないと減点」という例でしたが、テストの目的がはき違えられていることは、どの教科でも少なくありません。例えば、英語教育研究者の根岸(2014)は、多くの教員がテストを「真面目に授業を受けたか」「授業で教えたことを覚えているか」を確認するものと考え、本来の授業の目的(例えば、英語の読み書きの力をつける)とズレているという指摘をしています。授業を真面目に受けてほしいのは、目標とする能力を身につけてほしいからであって、「真面目に受けること」自体が目的ではありません。
 また、「定規で線を引かないと減点」の場合、真摯に教科の学習に向き合っている場合でも、教員のローカルルールを守らなかったら減点になります。むしろ、「教科の学習内容」にしっかり向き合った子どもほど、「定規で線を引かないと絶対ダメ」というルールの非合理性に気づくかもしれません。「教科の学習内容」と向き合うことより「教室内ルールの順守」が優先されている、という本末転倒なテストや採点が少しでも減ることを願います。

参考 筆算の線を引かせる指導の発端?

 ちなみに、筆算の線を定規で引く指導が広まる要因の1つは、教育技術法則化運動(TOSS)の代表格で知られる研究者向山洋一が著書で推奨したこととされています。「法則化運動」とは、要するに、各教員の実践知で生まれた教育方法を皆に広めましょう、というものです(その功罪はここでは置いておきます)。そのことを紹介した記事(後藤2020)によると、

定規を使うと、位(くらい)がそろって計算間違えが減るのだという。
「理由はわかりませんが、きれいに書こうという意識が強まり、適当さが減るからではないでしょうか」
「エビデンス(根拠)があるわけではなく、経験則でしかないのですが、だいたい2割ぐらいの子がこれで計算ミスが減り、点数が伸びる」

 割合はともかくとしても、ミスが減る子どももいるでしょう。一方、使わない子どもをバツにすることには、否定的な見解を示しています。

ただ、定規を使わないことを理由に誤答にしたりやり直しさせたりする指導が少なからずあることについては「明らかにやりすぎ」と話す。
「子どもを否定してはいけない。そんなことでバツにされたらやる気がなくなってしまう」
「やった方がいいというぐらいの話で、やらない子はダメというわけではない」

 学習を妨げるものになっては意味がなく、あくまでも学習を補助する一手段に過ぎない、という認識が必要です。

【参考文献】 

◆北川剛司「学習促進としての評価の技法 ー改善と子どもの評価能力向上に向けてー」『教育方法技術論』pp.137-149、協同出版、2014年
◆齋藤貴弘「学校教育における定期テストに関する研究の動向」『東北大学大学院教育学研究科教育ネットワークセンター年報』16、pp.55-66、2016年
◆根岸雅史『テストが導く英語教育改革: 「無責任なテスト」への処方箋』三省堂、2017年
◆後藤泰良「筆算の線、定規で引かないとダメ?算数指導の謎ルール」朝日新聞デジタル 4Uニュース 2020年2月27日:https://www.asahi.com/articles/ASN2M4VWMN1QPTFC010.html

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