FACE展2023@SOMPO美術館 [独断と偏見で選ぶ「この6点」!]
SOMPO美術館で「FACE展2023」を観てきました。楽しかった!
FACE展と言えば、「新進作家の登竜門」の代名詞的コンクール(公募展)ですね。
長い歴史を経て今に伝わる名画・名品を味わうのも良いですが、いまを生きる、そしてこれからさらに飛躍する可能性に満ちた作家の作品を観るのも、とても刺激的でワクワクします。
会場には、1,000点を超える応募の中から選出された81点の力作が並んでいます。
さすがに、どれも見るべきものがありますが、その中でも特に私が「これは!」と思った6点をご紹介します。
宮内柚《Work 5-2》
個人的にもっとも唸った作品。出品作の中でも数少ない版画作品です。
一見、勢いよく筆を走らせたブラッシュワーク(筆触)で、画面が埋め尽くされているように見えますが、実はこれ全てシルクスクリーンによるものです。
だから、大胆な筆の動きを感じて近づくと、そこにあるのは、どこまでものっぺりとフラットな塗料の色面(↓)。この倒錯的な感覚にクラクラとします。
通常、絵画(とくに油絵)は、筆のタッチから画家の身体性(手の動きや息づかい)を感じ取れるものですが、ではそのタッチの「カタチ」は何を表すのでしょう。
宮内さんはシルクスクリーンを使ってブラッシュワークをひとつの「カタチ」として記号化し、画面の中で反復させ(よく見れば同じカタチがあちこちに見つかります)、さらに色を変えて微妙にずらして重ねることで、「描くって何だ?」という根源的な問いかけをしているのです。
その問いを、しっかり完成度の高い表現にまで昇華しているところが最高です。
「描くって何だ?」という問題意識は、版画だからこそ生まれたものかもしれません。
版画は絵画の一種ですが、決定的に違うのは作品と作者の間に「版」が介在することです(木版でも、銅版でも、シルクスクリーンでも、リトグラフでも)。
そのため版画家は自分の作品でありながら、どこか自分のものではない感覚を持ち、制作中も客観的な視点で自分と作品を見ているようなところがあります。
版画家の方と話をすると皆さん大なり小なりこの感覚を持ち合わせていて、私はいつもそれが面白いなぁと感じていたのですが、宮内さんの《Work 5-2》は、そうした版画の抱える冷徹な客観性のようなものを、見事に作品テーマに活かしています。深い思索の跡を感じました。
私が唸った理由、なんとか伝わったでしょうか?
***
さぁ、ここからはサクサクいきます!
植田陽貴《Whispering》
詩的で、奥深い物語性を内包していると感じた作品です。
画面は霧が立ちこめているかのように、すべてが曖昧模糊としています。
森の深さゆえか、それとも日が暮れているのか、いずれにしても光が届かない中で、シルエットから男女とわかる2人が手にしたランタンの灯りが、とても温かく優しく感じられます。
観る人によってこの絵から連想するストーリーは異なるでしょう。
「Whispering(ささやき)」というタイトルの通り、静謐な雰囲気がここちよく、ずっと観ていたいと思えました。
タシロサトミ《patch》
厚く塗り込めた油絵の具が目を引きます。「patch(継ぎ当ての布?)」というタイトルから読み解くと、画面を走る点線はステッチを表すのでしょうか。
着古した衣服に継ぎを当てて使い続けるという行為は、過去の時間を受け止めた上で、それを形を変えて受け継ぐことだと言えます。
塗り重ねることができる油彩画もどこか似たところがありますね。
下の絵具の層に、上から重ねて別の色を塗る。しかし上から塗りつぶしても、下の絵具の意味がなくなるわけではありません。下の絵具を塗った時の筆触は、上の絵具層にも必ず影響します。
タシロさんは絵具の物質性を感じさせるように意図的に分厚く塗ることで、重なる積層の中に含まれる過去・現在・未来が相互に影響していることを表しているのかも。そんな風に感じました。
ヨシミヅコウイチ《顕現(仮)》
ブッシャー!
ドバドバ!
ジョボジョボ!
ザッパーン!
あらゆるところから漏れ出す!あふれ出す!
なんかもう全部ぶちまけていて、これぞカタルシスの極地。
観ていてめっちゃ気持ちよくなります。
良い!!
六無《三狸図》
会場内でこの一点だけ異彩を放っているように感じました。
紙に墨で描いた水墨画ですが、明らかにこの絵のルーツは日本画ではなく、中国の古画ですね。
刷毛を使った墨のぼかし・擦れや細筆による繊細な描線など、宋時代あたりの中国画をものすごくよく研究して、自分のものにしているように感じました。
単純な古典解釈ではなく、ぼかしの技法で残像のようにぶれるモチーフ、上下左右が定まらない不思議な岩山など、誰にも似ていない独自の世界を生み出している点にしびれました。
そもそも、この地の部分(↓)の古色風味はどうやって実現させたのでしょう。
かなり複雑な工程があるはずですが、私には皆目わかりませんでした。おそらく膨大な試行錯誤を繰り返してたどり着いたものでしょう。絵画というより古墳壁画を連想させるなんとも不思議な風合いでした。
林銘君《引用》
最後に紹介したい作品は、林銘君《引用》です。
林さんは、球体とナメクジを好んで描きます(もともとちょっと知ってた)。
その理由は分かりませんが、この絵はいわゆる画中画ですね。三面の額絵が描かれていて(でも、そもそも真ん中のような変テコな額は無い!)、額の中の絵だと思っていたら、一匹のナメクジが額から這い出すという、トリックアート的な手法がとられています。
絵はものすごく写実的なので、それによってだまし絵の仕掛けがより効果を上げています。
この作品自体が、黒いフレームの中に作品パネルをはめ込んだ、画中画を連想させる構造となっています。
現実はどこにあるのか、フィクションだと思っていたものがニュルリと現実に侵食してくる、そんな虚と実の交錯するモノクロの世界に引き込まれました。
***
以上、私の独断で選んだ作品6点でした。
彼らはこれからどんな活躍を見せてくれるのでしょうか。願わくば、一つのスタイルに固執せずに、どんどん新しい表現を開拓してほしいと思います。
あー楽しみだなぁ。
これはあくまで私個人の琴線に触れた作品です。おそらく人によってビビッとくる絵は違うでしょう。ぜひ、みなさんも会場で、自分だけの推しの1点を探してください(オーディエンス賞への投票もできます)。
入館料は700円とお手頃ですし。
***
【最近行った別の展覧会(これもおすすめ)】
■過去記事のバックナンバーはこちら(↓)から
■オトナの美術研究会2月のお題「#思い出の展覧会」