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ルネ・マグリットのタイトル革命

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名付けの歴史をたどると、美術の違った側面が見えてくる!

というわけで、「美術作品の名前(タイトル)」に注目しながら、古今東西の美術に触れていくシリーズの第5弾です。

  1. 「作品タイトル」考〜奥深すぎる名付けの歴史〜

  2. 作品タイトルから考える日本美術

  3. 作品タイトルをめぐる冒険[about UKIYO-E]

  4. 作品タイトルで解釈が分かれる国宝とは?

シリーズ2〜4回では、自分の専門領域の日本美術方面で語りましたが、そろそろお腹いっぱいになってきたかと思うので、今回は西洋美術へと話を移しましょう。

シリーズ初回の名付けの歴史で見てきたように、絵の内容をそのまま表記するだけだった作品タイトルが、それ自身、表現の一部を担うようになっていく、そんな変化の兆しが生まれたのは19世紀末でした。

タイトルの変革を決定づけた一人として、今回はルネ・マグリットについて語りたいと思います。

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ベルギーを代表するシュルレアリスムの画家ルネ・マグリットは、1898年にベルギー南部のシレーヌという町に生まれ、1967年に68歳で没しています。

マグリットの絵は、とても明快です。

キュビスムやフォービスム、抽象絵画のように、何を描いたものなのかがそもそも分からないということはありません。
また、同じシュルレアリスムの画家に位置づけられるサルバドール・ダリのように、正体不明なオブジェを描くことも少ないです。

マグリットは、たとえば山高帽をかぶった男であったり、イーゼルに立てかけたキャンバスであったり、何の変哲もない日常的なモチーフを写実的に描きます。
ただし、そのモチーフを異質な空間に配置し、またはモチーフの一部を変化させることで、観る人の固定観念にゆさぶりをかけ、イメージの飛躍を促すのです。

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