13.シャッターに負けず トム・ウエイツ
学芸出版社営業部の名物社員・藤原が、書店での何気ないやり取りを手がかりに、自らのロック遍歴にまつわる雑感をつづります。
シャッターを降ろした店舗が並ぶのは商店街だけでなくテナントビルでも見かける光景だ。この書店もシャッターを降ろした店舗が目立つ閑散としたビルの中にある。
「これじゃあ、いくら頑張っても成果は出しにくいね」
「そうなんです。それに建築書の棚は縮小されてまして、益々売りにくいんです。」
「縮小したというけれど、これだけあれば技術書から読み物まで一応網羅できるんじゃないですか?」
と初めて訪ねたその店で店員さんとやりとりをする。店員さんにはやる気はあるが、客が来ない。悩ましい店である。
彼女はこの店のキャリアが10年。その前も書店に勤務していたという。それでかつて賑わいがあったこの界隈にあった書店のことを話した。○○堂書店とか○○社書店とかのことだ。彼女の消えかけた記憶の中に僅かにその書店のことがあった。
通りの賑わいが消え、読者に本を届けたいと日々努力を重ねても成果を出せない書店員がここにいる。また、お客さんがたくさん入る店なのに人手不足で取次店から送られてくる本をただ並べるだけの書店員もいる。どちらも今の書店員の姿である。
CLOSING TIME/TOM WAITS(1973)
場末の酒場で皺枯れた声で歌い、ピアノを弾く男。トム・ウエイツ。客は何人いるのだろう。客の数など問題ではない。誰かが歌を聞いてくれ、そこに何かを感じ取ってくれればそれでいい。つまらない歌い手だと言われたっていい、歌を聴いてくれたことに感謝したい。そんな男の歌声が酒場に響く。場末でも酒場は賑わうが、書店は場末になってはいけない。
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