11.晴れやかな顔 キャプテン・ビヨンド
学芸出版社営業部の名物社員・藤原が、書店での何気ないやり取りを手がかりに、自らのロック遍歴にまつわる雑感をつづります。
レジ業務をしていたAさんに声を掛けるとカウンターから出てきてくれた。
「私、9月いっぱいで会社を辞めるんです。」
「ほんまですか?もったいないじゃないですか。結構店のキャリアを積んでいるでしょう。」
「はい15年になります。店が出来たのが16年前。」
彼女はベテランで、店の中核をなしている。
「なんで辞めるんかは、あえて聞かないけど、だいたい分かる気がする。いつも店の中を走り回っていたもんね」
「まあ、いろいろと考えるところもあって・・・。私なんかはキャリアがあるので給料は最近入った子よりちょっとはいいです。最近入った子はかわいそうよ・・・。」
「9月末までだったらもう一回ぐらい会えますね。」
と言うと、いつも頭痛がしているような顔をしているAさんは、これまで見たことないような晴れやかな顔で、「そうですね。」と言った。
書店においてキャリアほど重要なものはない。またひとり大切なキャリアが業界を去って行くと思うとやりきれなかった。
CAPTAIN BEYOND/CAPTAIN BEYOND(1972)
ディープパープルにいたヴォーカリスト、ロッドエバンスはデビューから3枚のアルバムを出して辞め、「キャプテンビヨンド」というバンドを結成した。そのサウンドはジャケットから分かるように宇宙をイメージしたハードロックだった。このアルバムは傑作中の傑作だ。
しかしこのバンドは2枚のアルバムを出しただけで解散。僕は、彼の後にディープパープルに入るイアンギランより好きだった。
なぜ辞めたのか? どこに行くのか分からない当時のディープパープルの音楽性が不安だったのだろうか、それともロックに新しい夢を見たからだろうか?
上記の彼女もまた現状に留まることが不安であり、新しい自分を夢見たのだと思う。
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