展覧会ができるまで 序
※下書きしていたものを時差投稿しています。
さっそくですが、展覧会を開くというのは学芸員にとって最大の見せ場(それ以外で人目に触れることはあまりないですね)でしょうか。大きな展覧会だと数年かかって準備します。
おそらくどの館も、開幕までの作業は共通しています。ただし展覧会の規模、スタイルによって実際の「大変さ」は全く異なります。
今回は序として、展覧会の規模、スタイルについて触れておきます。
1 スタイルについて
多くの館では、
◯巡回展
◯単館の特別展示
◯自主企画展示
◯常設展示
といったように、展覧会のスケールを区分して考えています。
巡回展の場合は、同じ企画、同じ作品(完全にではないが、ほとんど同じ)がいくつかの施設で時期をずらして開催されます。この巡回展にはパッケージタイプと、開催予定館が連携して調査研究を行うタイプとがあります。
パッケージタイプは、たとえば海外作品の展覧会や、特定のコレクションを借り切って(所蔵館が休館の間など)行われます。
パッケージはコレクションを所蔵する学芸員や、大学の教授など専門家を企画者とし、新聞社や
テレビ局などのメディアが金銭面をバックアップして組み上げられることがほとんどです。
巡回先はパッケージ代を支払いますが、単館では借りられないような高価で大型の作品を展示できたり、あるいは専門の学芸員がいないために手薄だった分野を、地元の方に見ていただけたり、さらに広報をメディアに任せられたり、といったメリットがあります。手間としても、すでにできあがっているものを買うわけですから、「楽だ…」と感じる場合が多いと思います。専門外の作品を取り扱うことの不安もありますが、展示指導者やクーリエがついてきてくれることもしばしばあります。(ここで意思疎通が取れないとそれはそれで大変)
ただ、コロナ禍以降輸送費や会場造作費、光熱費などが数倍に値上がりしているため、パッケージの価格も高騰しています。思うようにお客さんが来てくださらないと、大赤字の場合もあり、協力してくれた地元のメディアさんにがっかりされてしまうこともあります。今後このスタイルはたくさんの館を巡回させるか、お金がたんとある館でしか開催が難しくなってくるのではないでしょうか。実際には文化庁などの指定した「作品を安全に展示できる日数」が作品によって決められているため、たくさんの館を巡回させることは難しいのです。
もうひとつの一緒に調査研究を行うタイプは、たとえば知り合いの学芸員同士が声を掛け合ったり、同じ作家の作品を持つ館同士が協力しあったりして、作業を分担するものです。このときも胴元としてメディア各社に協力を得ていますが、「何人くらい来てくれそうか?」を先に予想して予算を組み立てるので、それほど大きな赤字になることはありません。専門分野を活かせるチャンスでもあり、やりがいを感じるものです。
こういうチャンスを得るために学芸員同士はなるべく協力しあいますし、自分の強みを研究発表の場で表に出しておくことや、所蔵作品の豊かさやおもしろさを常日頃の展示普及活動でアピールしておくことで、その機会が増えていきます。それが常設展示や、単館企画の展覧会にあたります。
2 規模について
「なんでうちの近くの館は国立館さんみたいに大きい展示してくれはらへんのでしょう?」こういうお問い合わせ(お悩み?)を時々いただきます。
展覧会の規模は、そもそも館の規模と比例します。たとえば国立館であれば全国に広報をうつ必要がありますし、だいたい国民に向けて開かれる展覧会ですから、多くの人の関心を引く工夫がなされています。国立館に限らず、図面や造作のプロ、照明のプロ、教育普及のプロ、翻訳やカメラマンに特化した職員さんがいるところもあります。大きな会場なら作品数もたくさん借りられますし、自分のところで目玉作品を所蔵している場合には、借用の費用などもだいぶ削られるので、他のところへ費用をあてられますし、お客さんの入りも多いでしょう。
しかし地元の文化を継承し伝えていくために開かれた小規模館では、必ずしも十分な数の職員さんがいるとは限りません。学芸員の中にももっと派手なのやりたいなあと言われる方もいますが、上述のように予算のことがネックになったり、あるいは大型作品、重文国宝などを展示できる施設が調っていなかったり、様々な闘いがあります。
しかし小中規模の館がそれぞれの特色を出していくこと、地元に埋もれかけている作家の重要性をアピールしていくことがなければ、日本の文化財は「勝者の歴史」を辿ることしかできなくなってしまいます。
だいたい熱心な学芸員は様々な館の展示を見たり、研究紀要を読んだりして、「うちの展示や作品につながることはないか?」と日々考えているものです。(ごめんなさい、できてないこともたくさんあります)
そうすると思わぬ形で地方のコレクションが脚光を浴びることもありますし、パッケージの企画元になることもあるのです。ぜひ地元の美術館、博物館をチェックして、「これはよかった」「こういう解説もほしい」など、お客さんの方からも前向きに館を育てていただきたいと思います。
序とは思えぬ長文になりました。
なかなか学校で教わらないことだと思いましたので、念のため。次回からもう少し具体的なエピソードなど書いていこうと思います。
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