展覧会の作り方 輸送②
書きためておいたものを時差投稿しています。
展覧会の撤収作業が無事に終わったところです。
今日は作品の借用と、輸送についての続きです。
作品と保険
前回までにご挨拶、借用時の打ち合わせ、作品点検、そして書類のやり取りまでをご紹介しました。今日はやっと作品のお預かりに向かいましょう。
大きな展覧会の場合は最初のお電話から今日の借用までで、1〜3年くらいかかっています。
作品のお預かりに伺うことを、「集荷」とか、「借用」とか言い慣わしています。ただしこれは身内とか、一般的な用語として使う場合だけ。
相手方には「拝借」ときちんとお伝えします。自分のところの宝物を貸してくださるわけですから(ときに無償で)、たとえことばの上でも「荷」と呼ばれるのは気分がよくないですよね。
ここでは言いやすいので借用と書きますが、借用時には必ず作品に保険をかけています。たいていの場合は輸送と展示が一体型になったパッケージで、輸送時、展示中、収蔵庫でお預かりしている期間、のいずれかに何かあった場合に保険が下りるという形式です。
実は、このとき保険としていくらかけるか?という金額は、同じ展覧会の中でも、作品によって異なります。金額は作品の評価額に基づいて決められるからです。
ただしここで言う「評価額」というのは、市場に出したらいくらで売れそうや、という一般的な金額とは異なります(まれにその値段で掛けるところもあるようですが)。
万が一作品に何かあったとき、きちんと修理をしてお返しできるか、という金額で掛けることが一般的です。
とはいえ、破損は絶対にあってはならないことです。破損の危険がわずかでもあると判断したら、前回の調査時に借用をご遠慮申し上げるべきです。
いくらにしたらいいのかわからないときには、「ご設定の評価額があれば教えてください」とご相談することもあります。
作品の梱包と輸送
借用のときも返却(相手方にお伝えするときはご返納、といいます)のときも、梱包作業は美術品専門業者と言われるプロの手を借ります。
たとえばお引越しなどでもお世話になる日通さんやヤマトさんが全国展開していますが、実は地域ごとに「美術品専門」の支店や部署があります。
これは一般的な輸送の窓口とは所在地も異なり、各地域(日通さんの場合は関東にひとつ、関西にひとつ)にいるプロ集団です。そのほかに、ローカル展開している業者さんが各地にいらっしゃいます。
では学芸員は何もしないのかというと、それは違います。借用の時点で作品のことをいちばんよくわかっているのは、学芸員です。
どこを持つのが安全か、梱包資材は厚くするべきか薄くするべきか、どんな素材で包むのがいいのか…など、学芸員が主導して作業を進めることが肝要です。
このときに注意点をよく共有して調書に書いたり、写真に撮ったりすることで、展示作業や巡回も安全に行うことができます。
梱包資材は多くの場合、薄葉紙や綿布団(綿を薄葉紙でくるんだもの)、茶紙、ウレタン(これも薄葉紙でくるむ)、それからいわゆるプチプチ、といったものです。とくに薄葉紙は片面がツルッとしたうすい和紙ですが、こよりを作ったり細く手でさいて使ったり、くしゃくしゃに丸めたり、非常に重宝します。
学芸員は困ったら「とりあえずウス」という合言葉を使います。(そんなことないよという方もいるかもしれませんが)作品の梱包が終わると、外側にシールで作品名や番号、展覧会名、展示会期や展示場所などを貼ります。
その後作品はすべて美専車に積んで、必ず学芸員が同乗します。
万が一渋滞や事故に巻き込まれた場合、次の借用先などに連絡をとったり、作品の一次被害状況を確認したりするためです。このことについては近年賛否両論、学芸員以外のマスコミ各社さんが乗っていかれることもあります。ただそもそも人から大事な品物を借りるのに、トラックに積んでそれではさようなら、というのはちょっと、と個人的には考えています。
大分更新が間遠になってしまいましたが、次回は展示作業のお話に続きます。
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