vol.4 10/29開催 「学大未来作戦会議#8 まちに本屋は必要ですか?」 レポート
10月29日に開催された「idea 実践編 学大高架下BOOK MARKET」。今回の記事では、BOOK MARKETと連動して企画された「学大未来作戦会議#8」のレポートをお届けします!担当は前回同様、オウダです。
「まちに本屋は必要ですか?」というテーマのもと、学大周辺から25人ほどの参加者が碑文谷公園内の会場に集まり、白熱したトークが繰り広げられました。
(学大高架下BOOK MARKETの詳しい様子は、カメラマン土屋光司さんによる素敵なお写真と共にひとつ前の記事でレポートしていますので、そちらもチェックお願いします!)
「学大未来作戦会議」ってどんなイベント?
改めまして、「学大未来作戦会議」についておさらいしていきましょう。「学大未来作戦会議」とは、学芸大学の住民さんや店主らの声をまちづくりに活かしていくために定期的に開催される、オープンな町内会議。
毎回参加してくれた住民さんやゲストらと共に、様々なテーマを設けてトークやディスカッションを繰り広げるイベントです。
普段は路地裏文化会館 C/NEを会場として利用していますが、今回は初の青空開催。高架下でのBOOK MARKETに合わせて碑文谷公園で実施、緑に囲まれた屋外のオープン、かつ緩やかな空気感の中でトークが始まりました。
今回のテーマは、ずばり「まちに本屋は必要ですか?」。
司会を担当したのは路地裏文化会館 C/NE 館長・上田 太一さん。実は上田さん、同日に行われていたBOOK MARKETに私物の本を持ち込んで出店していたほどの本好きです。
まずは、上田さんによる今回のテーマについての簡単なイントロダクションがありました。
上田さん:最近の学芸大学は、夜の飲食店がどんどん増えていくのと、空きテナントがあるとだいたい調剤薬局かチェーンのスーパーマーケットが入るイメージ。それはそれで喜ばしいことでもあるけど、個人的には本屋のような、知性や好奇心を提供する場所もまちには必要だと思うんです。
なるほど、「まちに本屋は必要ですか?」というテーマはそんな思いから掲げられたテーマだったんですね。
上田さん:大きな流れで見ると書店って減少傾向にあるんだけど、一方でユニークな試みをしている個人書店が増えていたり、若い世代から「将来本屋をやりたい!」なんて声を聞くことが多い。なにか新しい形や意味で本屋が求められているんじゃないかと個人的には思っていて、そのあたりをゲストのお二人と皆さんに聞いてみたいと思っています。
【今回のゲスト】
・恭文堂書店代表 田中 淳一郎さん
・SNOW SHOVELING代表 中村 秀一さん
ゲストは、学芸大学駅前・恭文堂書店で代表をつとめる田中 淳一郎さんと、世田谷区・深沢不動で“プログレ書店”SNOW SHOVELINGを営む中村 秀一さんのお二人です。
新刊や雑誌、参考書などを幅広く揃える、いわゆる「まちの本屋」である恭文堂 田中さんと、書店という場を拠点に、既存の本屋の枠を超えた様々な取り組みに挑戦しているSNOW SHOVELING 中村さん。
個性の違う書店を営むお二人には、それぞれどのような歴史があるのでしょうか。
ゲスト① 恭文堂書店代表 田中 淳一郎さん
田中さんは、今年で94年目となる恭文堂書店の3代目。受け継いだ当初はどのようなお店にしていくか模索をしていたそうですが、先輩の本屋さんらと書店の今後について熱い議論を交わすうちに、ある気づきがあったといいます。
田中さん:その先輩は「本屋は青空」だと言っていて。書店の本棚と本棚の間ってとても狭い空間ではあるけど、手に取った一冊一冊は発想やひらめきを自由に与えてくれる。無限に広がる青空のような場所にしたいなと。そんなイメージで本屋をやっています。
恭文堂さんでは、田中さん以外に6人のスタッフで棚づくりを行ってるそう。
田中さん:仕入れって意外とアナログ作業で。スタッフ一人一人が売れ行きを予想しながら担当の棚の本を選んでいます。それが当たるかどうかはまちまちで、まるでお客さんと書店の棚を通じたキャッチボールをしているみたいな感覚で。本って大体3~4割しか当たらないので、どんな本なら売れるのか、日々試行錯誤を続けています。
ゲスト②SNOW SHOVELING代表 中村 秀一さん
中村さん:お話を聞いていて、ご実家が書店の田中さんと自分は対照的だなと。ずっと本屋をやりたかったんですが、新刊書店は資金の持ち出しが必要だったりでなかなか難しくて。なし崩し的に古本屋から始めたら、気がついたら10年が経っていました。
古本から始まって、少しずつ輸入ものの洋書やリトルプレス、ZINEの取り扱いも増加。今では新刊も仕入れているのだそう。
中村さん:僕は好きな本や映画の話をするのが好きなんですね。本屋で良いラインナップの棚を見つけたら、本当はその場で誰かと語って共有したい。自分の書店ではそんなおしゃべりや交流が生まれる場にするべく、昔は「出会い系書店」なんて名乗っていました。
現在は、世の中で起きている出来事に何か疑問を持った時に、本を通じてコミュニケーションやアクションにつなげて欲しいという思いから「出会い系書店」改め「プログレッシブ書店」と名乗っているそう。
中村さんから「対照的」という言葉が出ていましたが、確かに経歴や運営の方針も異なっていそうなお二人。これから質問を通じてどんどん掘り下げていきます。
Q1. まずは、最近の学大についてはどんな印象ですか?
田中さん:ずっと学芸大学で暮らしてきて、ライフスタイルが変わったなとは感じますね。夜が昔より静かになったり、商店街で見かける子どもの数が減ったり。
上田さん:夜が昔より静かになっているとは、意外でした。本屋や文化的な施設って学大に昔はどれぐらいあったのですか?
田中さん:昔は最大6軒、書店がありました。今ではほとんどないので、お客さんに「やめないでね」と声をかけられたり(笑)。続けていく使命感のようなものを感じますね。
上田さん:6軒もあったんですね…!中村さんは、学大から少し離れた場所にお店を構えられていますが、外から最近の学大をどのように眺めていますか?
中村さん:今日みたいなこのイベントをはじめ、人を動かせる規模があるのが羨ましいなと思います。ただ、僕自身はご飯や飲みにいく以外の用事はいまの学大にはないんですよね。
上田さん:なるほど。
中村さん:ちょっと脱線するんですが、僕はこれまで色々なところを旅してきて、特にアメリカとかのローカリズムが根付いている感じっていいなって思うんですよね。自分の店に「まちで一番!」とか張り紙をして、まち全体で盛り上げている感じ。東京にはそういう意識って希薄で。山とか川とか、分かりやすい境界がないからかな。…この話長くなっちゃうな(笑)。やっぱりまちを自慢する上で「うちのまちにはあの店がある!」と思えるのって、要素として大事なのかなとか思いますね。
上田さん:たしかに、愛着があって誇れる店があるって大切なことですね。
Q2. それぞれの書店としての特徴は?
田中さん:恭文堂では高度な専門書以外はなるべく網羅して、本の選択の幅を広げたいなと思っています。流行や時代の流れを汲んで、雑誌のスペースを減らしたり、来年の大河ドラマに関係のある書籍を広げたり。次に流行るものを予想しながら、色々試行錯誤していますね。
上田さん:立地としては駅前だから、やっぱり老若男女の方のニーズに応えるラインナップを意識していますか?
田中さん:そうですね、例えば脳トレとかも多めに入れたり。限りあるスペースの中で、全体のバランスを気をつけています。ただたくさんの本があればいいというものではないと思っていて。選ぶときに困ってしまいますからね。本を選んで仕入れるセレクトショップである、という側面は大切にしています。
上田さん:学芸大学の地域性とかってあります?
田中さん:やっぱり地域ごとに売れ方のクセってあるんですよね。例えば、学芸大学では普通の本屋ではなかなか動かないような、岩波新書や現代新書がよく動いたり。他の町でも棚を見ることで、なんとなくまちの人たちのキャラクターが想像できます。
上田さん:本屋の棚が地域の写し鏡のようになっているのは面白いですね。そんな恭文堂さん、もうすぐ100周年ですよね。
田中さん:そうですね、100周年の折にはぜひお力を貸してください(笑)。
上田さん:ぜひ!盛大にセレモニーをしたいですね(笑)。ありがとうございます。そんな恭文堂さんに対し、SNOW SHOVELINGさんはどんな書店ですか?
中村さん:古着屋みたいな本屋だなって思います。買う気のない人もふらっとやって来て、ただ話をして帰ったり(笑)。でもまあ、それでも良くて。僕がやりたかったことって、本ってかっこいいってことを伝えることなんですよね。
上田さん:ふむふむ。というと?
中村さん:僕は勉強があまりできなかったけど、読んだ本の知識には助けられてきたんです。海外でトラブルに巻き込まれた時、過去に本の知識で切り抜けたり。自分がそういう経験をしてきたから、本は役に立つってことを伝えたかった。だから入り口はカッコいいでいいから、とにかく本を手にするきっかけを作りたかった。
上田さん:そんな経験があったんですね。
中村さん:そんな思いがベースにあったから、内装もカッコつけたインテリアで、キザなつもりはないけどキザに対応したりして(笑)。映画などをきっかけに、本を読むってかっこいい、って感じた人のための本屋にしようと思ったんです。
上田さん:インディペントな書店もどんどん増えてきましたが、中村さんのお店はその先駆けの一つだと思っています。本との出会わせ方が多彩ですよね。タイトルを伏せてヒントだけ書いた状態の本を売ったり、過去には「Uber Read」なんていう、本の配達をやっていたり。コロナ禍では10分間のオンライン面談をしてからお勧めの本を送る、なんてリコメンドサービスをもありましたね。
中村さん:リコメンドに関しては、本はおまけという感覚でした。コロナ禍でみんな寂しいだろうなって思って。その中で、家族や友人に喋れなかったんだろうな、というような、色々な打ち明け話も聞きましたね。きっと半分他人の本屋の自分だから話せたのでしょうね。
上田さん:中村さんの書店は、なんだか気持ちの拠り所というか、安心できる場所に感じます。それってもしかして、これからの本屋にとって大事なことなのかもしれませんね。
Q3. 2022年現在、リアル書店の魅力とは?
上田さん:お二人とももう何度も受けてきた質問だとは思いますが、欲しい本を買うという機能面ではネット書店で十分満たされる時代の中で、リアルな書店の魅力や価値って、どのあたりにあるとお考えですか?
田中さん:通販サイトって要はカタログなので、「欲しい本」を買うのは簡単。でも、「欲しい本」に加えて「潜在的に欲しかった本」と出会えるようなひらめきや偶然はまちの本屋にしかないと思っています。
上田さん:リアルな場所だからこそ、偶然性を提供できるということですね。
中村さん:本棚を隅から隅から眺める時間のあるひとって昔より減っちゃったと思うんですよね。インターネットの普及以降、通販サイトの普及以降で生まれたそういったルールチェンジに、既存の本屋が対応できていないなと思います。対応策に正解はなくて。店舗ごとに意志を持ってやっていかなきゃだなあと。
上田さん:先程の恭文堂さんのお話でいうところの、偶然性を提供する、とか、そういった体験の設計が大事になりそうですね。
田中さん:お客さんが読みたかった本と出会えるように先回りして品揃えをしていく、というのは、コストもかかるし時代には逆行しているかもしれません。でも読者のニーズはそこに隠れているので、その姿勢でいきたいなと思っています。
Q4. 本屋がまちの中で担う役割とは?
田中さん:まちごとに品揃えが違うからこそ、まちの特徴を担うというか、そのまちの色を感じられるという役割を持っていると思います。
上田さん:本屋は何も買わなくても滞在できる、という意味でも場所として貴重ですよね。中村さんはどう思われますか?
中村さん:サンフランシスコにはCity Lights Bookstoreという本屋があって。「街の灯り」という店名、とても素敵だなと。本屋って街の灯りのように、機能としてあるべきものだと思うんですよね。みんな、いざなくなってみてから嘆いたりする。本屋をまちに残していくには、みんなで支えられる仕組みを作ったりすればいいんじゃないかな、と思います。
上田さん:今はまちや市が経営している本屋もありますよね。
田中さん:国内でも国外でも増えていますね。ドイツでは保護政策もあったりして。日本ではまだ、その辺りはこれからですね。
Q5. これからの本屋に求められるものとは?
田中さん:本は文化が表わされているもの。日本の文化は他の何語でもない、日本語を使って継承していくものです。本屋が商業出版を支えなければ、日本文化そのものが消えていってしまう。そういう認識がもっと広まっていかなくてはいけないなと思います。その中で一生懸命やるしかない。
上田さん:田中さんの著作『本屋魂(明日香出版社)』でも書かれていた、「本を選ぶ力は本屋が育てなくては」というくだりも、印象的でした。
田中さん:そうですね。人々の本離れが進んでしまったのは、本を選ぶ楽しさをこちら側が伝えてこれなかった、ということだと思っていて。書店が読者を育てる意識でいなければと思います。
中村さん:本屋って公共サービスみたいなところがありますよね。これから本屋を始めようとしている人に期待することとしては、愛を語ってほしいです。作品への愛でも、本を読むことに対する愛でも。それくらいしないと、もっと刺激的なコンテンツに負けちゃう。今活躍しているのは、そういう個性のある本屋だと感じますね。
お客さんからの質問コーナー
お客さん:「シェア本棚」が増えていると思いますが、どう思いますか?
中村さん:棚ごとにオーナーがいる本屋、のことですよね。新しいビジネスモデルとして経済性は良いですよね。棚の数から、店主は収支の目処が立つ。
田中さん:形態はちがいますが、奈良にある「ふうせんかずら」は無人書店で、誰にも邪魔されず本を選ぶことができるんですよね。あとは、「文喫」とか。色んなモデルが増えていて、それぞれ工夫を感じますね。
お客さん:子供の読者を増やすためにしていることは?
田中さん:結局、子供って親と来るもの。20-30代にアプローチをかけ、親世代の読者習慣を育てていくのが重要かもしれません。
大切にしている本について
最後に、ゲストのお二人に書店を営む上で大切にしている本をご紹介いただきました。
ロバート・ハリス『エグザイルズ』
中村さん:ラジオのナビゲーターもしている、ロバート・ハリスの放浪の話。オーストラリアに住んだ時に始めた書店の話が素敵で、憧れです。
ジェレミー・マーサー『シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々』
中村さん:パリにある、アーティストを無料で宿泊させていた書店・シェイクスピア&カンパニーに滞在したカナダ人の話。マニュアルがなくて、貧しい人にはパンとスープさえ与えてしまうような本屋。これも憧れた、目指す形に近い本屋です。
シュリーマン『古代への情熱』
田中さん:仕事や夢について迷う人は多いと思いますが、これは仕事と夢を分けてとらえたシュリーマン本人の自伝。読んだあと、すぐ誰かに勧めたくなる一冊です。
ヴィクトール・E・フランクル『夜と霧』
田中さん:アウシュビッツ強制収容所のお話。人間として読んでおいた方がいい、と思う一冊。新訳の方が読みやすいです。
おーなり夕子『ことばのかたち』
田中さん:言葉って便利だけど、意図が伝わりにくかったりもする。この本は、もし言葉が可視化されたらどうなるか、というのを表現した大人のための絵本です。
おわりに
公園という立地柄、ふらっと立ち寄って話を聞いていく人、前の方の席でしっかりとメモを取りながら聞く人、お酒を飲みながらリラックスして聞く人、皆が自由にトークを楽しむ姿がありました。
本を読む、ということ自体は極めて個人的な体験。だけど会議という形で、大勢で本や本屋について思いをめぐらせた時間は、普段の生活の中では思いもよらぬ気づきや発見があったのではないでしょうか。
イベント開催と碑文谷公園利用にあたり、ご協力とご尽力をしてくださった地元の商店会のみなさま、及び、目黒区のみなさまにも感謝です。
「学大未来作戦会議」はいつでも参加者を歓迎しています。気になる方はぜひ、SNSをフォローしてみてくださいね。
みんなでつくる学大高架下 公式Instagram
文 : 網田すずめ
写真 : 土屋光司