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懐かしのガキ大将
田舎で育ったからさ
地域に1人は必ずいたんだよ
ガキ大将みたいなヤツがね
オレの住んでたとこにもいたよ
ホントにジャイアンみたいな見た目でさ
やっぱちょっと怖いなって思ってた
でもそんな悪い人じゃなかったよ
暴れん坊には違いないんだけど
多分本人は楽しくてやってたと思う
ま、それがイジメになっちゃうと最悪だけど
そのガキ大将は良くも悪くも
リーダシップがあったからさ
一声かけたらみんな集まるんだよ
地域の小学生がみんな集まるから
そうだな、時には20人くらいで遊んでたよ
今考えるとすごい影響力だよね
ある日の事、そのガキ大将が
突然オレたちの目の前に現れて
「今日、夕方お前らをリンチする!」
って言い出したんだ
そんなん宣言するん?って今でこそ思えるけど
当時はホントにビビりまくったな
みんなで「どうする?」って相談したけど
逃げたら後が怖いと思って結局行く事にしたよ
わざわざリンチされにね
オレたちは3か4人だったかな
昭和っぽい話だけど空き地に呼び出されてさ
で、現場についてみると
そのガキ大将ともう1人先輩がいただけだった
ん?
リンチっていうからもっといるかと…
どゆことだろう?
ちょっと意味がわかんなかった
「おう、来たな!」
嬉しそうに彼は言う
何がそんなに楽しいんだか
爽やかさすら漂っている
「じゃあ始めるか」
そう言って彼は口でゴングを鳴らした
オレは恐ろしさのあまり目を閉じた
そして攻撃に備えたが何も起こらない
ん?何がどうなってるんだ?
恐る恐る目を開けると
ガキ大将と先輩が取っ組み合いをしていた
は?
意味わかんないんですけど
彼らはしきりにポーズを取りながら
芝居じみた挑発を発している
そして隙を見てローキックを繰り出し
倒れ込んだ相手の足を取りアキレス腱をキメる
これは…
プロレスだな…
プロレスごっこだわ…
何だよ普通に言ってくれよー
ビビって損した…
とは言え、プロレス技は普通に痛い
オレらは「うわー」とか「ギャー」とか
叫び声を上げながら彼らの戯れに付き合った
そして日が暮れる頃、だんだん疲れてきて
「塾があるから帰っていい?」
と尋ねると
「おう!またな!」
とこれまた爽やかに帰してくれた
どんなリンチやねんw
まぁ塾なんて行ってないけど
1人だけバカ正直に
「オレは塾がない」といって
最後まで付き合ってたツレが心配だったが
次の日ケロっとして学校に来ていた
そんなおおらかな時代だったな
今も空き地の風景や夕焼けの色を思い出せる
そのガキ大将は実家の工務店を継いで
立派に社長として勤めあげていると聞いた
いつかまた、彼のかっこいい一面も話そうかな
今日はそんな事を思い出したんだ