小説「スターツアー」
皆さんはスターと聞いて一番最初に何を思い浮かべますか? 芸能人? 歌手? それとももっと限定的に、にしきのあきらでしょうかね。
なぜこんな質問をしたのかというと、今朝出勤途中にスターを拾ったからでして。
僕は拾ったんです。
TVに出演している様な芸能人ではなく星そのもの……スターを。
そう、アレです。
七色に輝く五芒星の形をしたスター……。
スーパー〇リオの、スターでした。
取るとマ〇オが七色に輝き、無敵になるアレだったのです。
近所の歯医者の植え込みの近くに、こそこそっと落ちてあったんです。
最初CDか何かが落ちてるのかな、くらいの興味本位で拾ったんですけどね、手にした途端に光り輝いて。
ええ、僕がです。
正直僕はゲームをあまりやらないタイプの人間でしたので、最初何が起きたのかわかりませんでした。
ただ例の音楽が聞こえてきて、僕の身体も七色に輝きだしたものですから流石の僕も気づきましてね「あ……スーパー〇リオのスターだったの? 無敵になったの? いやいやそんな馬鹿な馬鹿な嘘だよそんな」と思い、ほくそ笑んだものです。
でもあんまりにもアレな状態だったもので、流石の僕もガチで無敵状態になっていると思うようになりまして、なら試してみようかとも思ったのですが……。
皆さんも同じ状況になればご理解頂けると思いますけど、日常生活で暮らす我々が無敵のスターをとったとて、その状態を活かしきれる場面なんてそうそう無いんですよ。
普通、目の前から〇リボー来ないですからね。ま、ク〇ボーは言い過ぎだとしても、ダンプカーが突っ込んでくる何て事も殆ど有り得ないわけです。
無敵を活かせる状況なんて、ほぼないんです。
折角のチャンスなのに有効活用出来ない……。僕は悩みました。どうすればいいのだろうか、と。
仕方なく僕は小腹を満たすため、朝食がてら富士そばに行きました。
いつもの様にかけうどんの食券を購入しました。あ。この時いつもはスッと出てこない食券がスッと出てきたのは無敵状態だったからかよくわかりません。
食券をおばちゃんに出したのですがおばちゃんに食券を渡した後、僕は何故か「あと、スマイル1つ」と言ってしまいました。いや勿論言ってから「しまった」とは思いましたよ。
僕はいつもマックでスマイルを注文するタイプの人間なのですが、極稀に富士そばでもやってしまう時があるのです。そんな時、おばちゃんはいつも決まって「チッ」と舌打ちを一発かますだけなんですけど……今日は違ったんです。
おばちゃんなりの満面の笑みを返してくれたんです! 歯はちょっと黄色かったですけども、満面の笑みでした。
……驚きました。富士そばのおばちゃんがマックの店員よろしくスマイルを見せるなんて……。
まさかこれが無敵状態の力なのか!? 僕は全身が打ち震えるのを感じました。凄い、これは凄いぞ! 無敵って、物理的に平気なだけじゃないのか!
………と、いう事は……。
僕の頭に、ある1つの閃きが生まれました。今の僕の願いを、誰も拒むことは出来ないのなら……どんな願いでも、言ったら叶うんだ!
僕は注文したかけそばが出来上がるのも待たず、富士そばからダッシュで出ました。そして、一目散に会社に向かって走ったのです!
今なら!!!!
オフィスのマドンナ関口さんに告白しても100%OKがもらえる!!!
入社以来ずっと憧れ続けていた女性、関口さんと付き合うことが出来る!
関口さんは石原さ〇みに本仮屋ユ〇カを足して、6で割ったような感じの美女です。そんな美女と僕がっ!
全力で、あらんかぎりの力で歩道や車道を走りました。身体は相変わらず七色に光っています。途中僕の行く手を遮る障害物は幾つかありましたが、僕はなんてたって無敵状態ですから、全てを左右に弾き飛ばして進めるわけです。
放置自転車を吹き飛ばし、搬入中のトラックも弾き飛ばし、小洒落たクレープ屋も、数人の老人達も全てを弾き飛ばし僕は会社に向かったのです。
あぁ、無敵状態の爽快感!
風を切り、敵も切り、障害物を薙ぎ倒す!
老人を弾き飛ばした時だけ多少心が痛みましたが、それ以外はすこぶる快感でした!
いつもマリ〇はこんな気分を味わっていたのか。
フフッ……マリ〇の奴め……良い思いをしやがって。
僕は初めて〇リオと同じ高みから世間を見た気がしました。
世界とはこんな姿だったのか……。
まぁ、ある種ルイー〇の見た景色でもあるわけなんですけど、ここではマ〇オの景色って事にさせて頂きます。
そして僕は、遂にオフィスに辿り着いたのです。
「関口さん! 僕はあなたをっ! 関口さん!」
オフィスのドアを開けるなり開口一番あらん限りの力で叫びました。
ですがそこには見知った同僚が数人いるももの、肝心の関口さんが居ません。
あれ?と思い先輩の1人に、こそこそっと話しかけました。
「………あ、スミマセン、関口さんって……ハイ。……え? ……今日、名古屋? ……あぁ、そうですか。スミマセン」
関田さんは、名古屋でした。
出張でした。
いかに僕が無敵だとしても、名古屋にいられてはどうにもなりません。
急速に、無敵時間が終了していくのを感じ、僕の輝きも薄れていきました。
同僚が僕の事を痛々しい目で見ています。
身体の輝きは失われ、反対に僕の顔は赤くなりました。
気恥ずかしさを抱えたままデスクに着くと、何食わぬ顔で今日の仕事を始めました。得意先に、メールを数件送りました。
こうして無敵時間と、僕の恋が、終わったのです。
🈡
老若男女問わず笑顔で楽しむ事が出来る惨劇をモットーに、短編小説を書いています。