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小説「575」

東京都 小伝馬町の マイホーム
ここにいる 夫婦二人が 話すのは
まだ行けぬ 新婚旅行 その話
妻のぞむ ハワイタヒチか 南国を
旦那言う もうしばらくの 辛抱だ
六月の 雨降り続く 日曜日
二人の名 竹田聡と 妻真奈美
好きなモノ 夫ユニクロ 妻ヴィトン
平凡な とある夫婦の 物語


「行きたいの 新婚旅行 行きたいの」
「その気持ち わかるが仕事 立て込んで」
「何度目よ? いつまで仕事 立て込むの?」
「とりあえず カルピス飲もう」
「飲みません」
「わかってる 気持ちわかるが いずれまた
 生活が 安定する日 いつか来る
 ローンをさ 家と車の 払い終え
 ゆとりある 生活送る その日まで」

耐えてくれ 俺の稼ぎじゃ 今は無理
中学の 教師の職じゃ 余裕なし
辛酸を 舐める旦那を 見る真奈美
そのまなこ しかし慈愛は 宿らない」 

「なるほどね」
「なにがなるほど なんだいな?」
「嫌なのね? 新婚旅行 嫌なのね?」
「そうじゃない」
「なら行きましょう 今すぐに
 行きたいの 南国辺り 行きたいの」
「落ち着けよ」
「いやですよ 落ち着きません 死にますよ」
「本気かい?」
「この顔嘘に 見えますか?」
「よしなさい……」
「リストカットも する覚悟」

この妻は かつて役者を 志す
若い頃 下北辺り ブイブイと
劇団で シェイクスピアを やっていた

「ああロミオ! なぜロミオなの! ああロミオ!」

その頃の 女優魂 思い出し
迫真の 演技でグイと 畳み込む

「あなたさあ 行くの行かぬの 答えなよ」
「ぐぬぬぬぬ」
「唸ってばかりじゃ つまらない 
 あたしはね 腹くくったのさ 負けないよ」
「ふぬぬぬぬ」
「嫁を旅行に つれてきな!」

ああ悲し 嫁に押されて 打つ手なし
カサカサの 唇動き 旦那言う

「……仕方ない 来月行こう 望むとこ」
「本当に? 嘘なら離婚 許さぬぞ」
「二言なし」
「ハワイでもイイ?」
「……いいだろう」
「常夏の ハワイに私 行けるのね!」

押し切られ 新婚旅行 行く事に  
ひと月後 夫婦目指すぞ いざハワイ
場所変わり 成田空港 チェックイン

「税関は なんでこんなに 混むのかな」
「日本より ハワイの方が 混むのよね」

その後無事 税関超えて 飛行機へ
中入り 座席を捜し 腰掛ける
あと少し そしたらこの機 離陸する
だが妻の 挙動怪しく そわそわす

「どうしたの?」
「ガム買い忘れ ガム無いわ……」
「そのくらい、」
「ダメよダメダメ ガム無いと
 気圧でね 耳がパーンて なっちゃうの
 震えるの 鼓膜バリバリ 震えるの
 弱いのよ 気圧に私 激きヨワよ
 地獄だわ 気圧地獄ね 耳ボンよ」
「よしなさい そしてなんなの 耳ボンて」
「耳ボンは、」 

「お困りですか? お客様」

現れた 見目麗しき 添乗員

「ガムおくれ」 
「ガム無いのです お客様」
「ガムくらい あるはずですよ 出しなさい」

このCA 今日が初めて 初仕事
彼女の名 加藤岬と 申します
頑張ると 病気の父に 約束し
勇も ガムが欲しいと せがむ客

「死にますよ 耳ボンですよ」
「お客様……」

いつもそう 私は変な 人と会う
うら若き 加藤岬は 考える
先日も 機長の原と デートした
中々の 酷いデートを 体験す
映画館 妙な所で 笑い出す
その一部抜粋 ご覧あれ
機長と岬 このデート

「あはははは ははははははは あはははは」
「原さんさ 迷惑ですよ 笑い声」
「だってホラ テラフォーマーズ 変じゃない
 スマスマの コントにしかさ 思えない」
「だからって 映画館です 気を付けて」
「あはははは ははははははは あはははは」

何故私 変な人間 引き寄せる?
悩む岬は 天仰ぐ
少しでも まともな人と 出会いたい

「無いのなら ガムに似たモノ 頂戴な」
「そのような 代用食は ありません」
「すみません 
 妻ならね 心配いらぬ 大丈夫」
「そうですか、」
「酷いガム無い」
「耐えなさい
 念願の 新婚旅行 行けるんだ」

その言葉 妻の心に 沁み渡る
耳ボンの 不安を少し 和らげる
あと少し そうすればホラ ハワイ着く
速度上げ 鉄の機体が 動き出す
重力を その身で感じ テイクオフ
襲い来る 重力に妻 耐え忍ぶ

「痛いわあ 内耳がボンて 弾けそう!」
「耐えるんだ お前の内耳は 丈夫だぞ!」
「耳痛い ウオウウオウオ イタタタタ」


妻苦悶 鬼の形相 耳痛し
そんな折 流れてくるは アナウンス

「アテンション プリーズ機長が 話します」
「御搭乗 して下さって どうもです
 全目空 五百七十 五便のね
 機長です 原と言います 頑張ります
 ホノルルの 空港までの ひと時を
 ハワイまで 六時間半 フライトを
 快適に 過ごせるように 頑張ります」

「ふぬぬぬぬ 少し痛みに 慣れてきた」
「着いたらさ バナナみたいな 舟乗ろう」

     
離陸から 一時間弱 経った頃
耳ボンの 痛みにやっと 慣れた頃
飛行機の 後ろの方が 騒がしい
振り向けば 男が1人 立っている
明らかに 危険な武器を 手に持って

「お客様 お座り下さい 危険です」
「座らない これは爆弾 近づくな」
「爆弾と!? 今爆弾と 言われたの!?」
「皆さんは そのまま席を 動かずに
 私がね 用があるのは 1人だけ」

大変だ 奴は爆弾 持っている
一瞬で 機内を包む 緊迫だ

「なんなのよ? なにがあったの? 聞こえない」
「爆弾だ………アイツ爆弾 持っている
 週末に ハワイに行こう それなのに
 なぜこんな ハイジャック犯に 出くわすか……
 この場合 迂闊に騒がぬ 方が良い」
「聞こえない 耳ボンだから 聞こえない」
「黙るんだ 後でゆっくり 話すから」

突然に 現れたるは 犯人は
くたびれた スーツ着ている この男
名は佐藤 昨年までは 会社員
しかしクビ コスト削減 解雇の身
唐突に 人生狂う 春の朝

「佐藤君 君クビだから サヨウナラ」
「嘘でしょう クビにされたら 生きられぬ
 何年も 会社のために 働いた
 それなのに 私をクビに なされるか」
「残念だ 決まった事なの ゴキゲンヨー」

ああ佐藤 無情に解雇 仕事なし
信じてた 会社にあっさり 裏切られ
とりあえず 仕事を探す 春なのに
中年に 働き口は 見つからず
どんどんと 悩み悩んで 暗くなり
気が付けば 家で爆弾 作ってた

「……春うらら 夏は暑すぎ 秋涼し
 冬になり 己の不幸 呪いだす
 何故なのか 我だけ何故に 苦しむか
 思う度 そのこと以外 考えず
 馬鹿な事 馬鹿な話が あるわけが
 正当な 理由も無くして 首にされ
 ゴミ屑だ モノだ私は 役立たず
 春うらら 夏は暑すぎ 秋涼し
 冬になり 己の不幸 呪いだす
 天にいる 神に文句を 言いたくて
 安穏と 我苦しめる 神様に
 爆弾を 作る事をば 決意する
 修羅しゅしゅしゅ トンテントトト パチチチチ
 パソコンで 簡単入手 設計図
 修羅しゅしゅしゅ トンテントトト パチチチチ
 時間だけ 無限にあるよ 暇だから
 修羅しゅしゅしゅ トンテントトト パチチチチ
 年開けて 再び舞い込む 春の風
 出来ました 機械仕掛けの 嘆願書
 これを持ち 天の神様 直訴する
 待っていろ お前の元に 俺は行く
 空へ行き この嘆願書 見せてやる」

冷静に 考えたらば 八つ当たり
爆弾を こさえちまったよ 佐藤さん
この便は 無関係だよ おっかさん
だけどダメ この男には わからぬの

「そこ退いて ちょこっと機長に 会いますね」
「お客様! どうか堪えて つかあさい!!」

岬泣く! しかし佐藤は 止まらぬの!

「ねえあなた なぜあの人は 泣いてるの?
 気が付けば みんな泣いてる 可笑しいわ
 顔色も みんな変だわ どうしたの?」
「事件なの ハイジャックだよ わからぬか」
「耳ボンで ほとんど聞こえぬ 耳ボンで」
「あの男 爆弾持ってる わからぬか」
「耳ボンで」
「いつまで言うの ボンボンて!」

「どうか止まって お客様!」 
「そこ退きなさい 死にますよ
 この場で爆破 する覚悟」

この男 失うものが 無いからか
戸惑わず 神に会いたい それだけだ

「ああ神よ! こんな仕打ちを! ああ神よ!」

捨てられた 恨み込めたよ 爆弾に
迫真の 眼力グイと 睨み付け

「あなたさあ どくのどかぬの 答えなよ」
「あわわわわ」
「御嬢さん 機長の元へ 行かせなよ!」

ああ悲し 気迫凄すぎ 勝ち目なし
新人の 岬ちゃんには キツ過ぎた
極限の 緊張感に 震え出し
岬ちゃん 気を失って 倒れ込む

「ああ負けた!」
「どういう事なの 分からない」
「お終いだ!」  

男行く 機長の元へ 歩いてく

「修羅しゅしゅしゅ トンテントトト パチチチチ
 ……我は行く もうすぐ着くぞ 待っていろ……
 馬鹿な事 馬鹿な話が あるわけが
 正当な 理由も無くして 首にされ
 ……歯車で 動く恨みを 携えて……」

遂に来た コックピットを こじ開けた
驚く機長と 副機長

「なんですか? 勝手に入っちゃ 困ります
 うわなんだ! それ爆弾か やめなさい
 副機長! 俺を残して 逃げるなよ!
 やめなさい あんたも死ぬぞ 死にたいの
 え死にたいの? 自殺願望 あるんかい
 神のもと 連れてけだって? 何言うの?
 とりあえず 高度はちょっと あげるけど……
 とにかくね
 巻き込むな 乗客と俺 巻き込むな
 特に俺 俺は絶対 巻き込むな
 俺はまだ 死ねない理由が あるんだよ
 ・・・・・ ・・・・・・・ ・・・・・
 仕方ない 俺の秘密を 打ち明ける
 俺にはね 彼女がいない 童貞だ
 この年で チェリーだボーイだ 純粋だ
 ちゃんとまだ 彼女が出来た 事が無い
 パイロット なのに女は なびかない
 ピンサロや ファッションヘルスや デリヘルや
 SMや テレクラ系や ホテヘルや
 様々な 風俗行っては みたけれど
 プロの方 色々出会って みたけれど
 彼女なし 生まれてこの方 童貞さ
 CAと 映画観たりも したけれど
 二度目のデートは いつもなし
 オークション 出品したいよ 操をね
 聞きたいな 俺の童貞 ハウマッチ
 どうだろう これでわかって もらえたね
 五分待て パラシュート着て 俺逃げ、


ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!

コックピット爆発し この機は一気に真っ逆さま!
爆破させたよ 佐藤さん!

「大変よ! ねえ落ちてるわ 飛行機が!」
「奴だろう アイツ爆弾 使ったな……」

爆弾で 風穴空いた コクピット
飛行中 頭もがれた 鳥の様
海面に なす術もなく 落ちるのみ

「なんなのよ!」
「墜落してる 爆弾で!」
「聞こえない! 気圧凄くて 耳がダメ!」
「ツイている 知らない方が 良いかもな」
「行けないな」
「何言ってるのよ」
「ハワイだよ」

二人の名 竹田聡と 妻真奈美
好きなモノ 夫ユニクロ 妻ヴィトン
平凡な とある夫婦の 物語

「なにしてる?」
「詠んでみますよ 辞世の句」

速度上げ 鉄の機体が ひらひらと
重力を ギミギミシェイク 感じるの
襲い来る 重力皆で 耐え忍ぶ

「面白い 聞かせてもらう 辞世の句」
「神様よ 最後に言います 私の句、」

途端来た 機体揺さぶる 衝撃が!
羽田発 五百七十 五便だが
この便は 天の奇跡か 幸運か
ひらひらと 海面ふわり 舞い落ちて
摩訶不思議 無事に着水 できたとさ
無事でした 竹田夫妻も 岬もね
懲りもせず 竹田夫妻は 翌年に
因縁の 飛行機に乗り ハワイ行く
今回は ガムをバッチリ 買いました
この話 教訓などが あるならば
神様が いるとかいない ではなくて
行くならば 新婚旅行 お早めに
それのみの お話ですな あしからず

🈡

老若男女問わず笑顔で楽しむ事が出来る惨劇をモットーに、短編小説を書いています。