台本「処方②」
男「苦しかったです……」
医者「あれはねぇ。みんなそう言いますよ。(男の首に手を伸ばし)ちょっと拝見しますね。そんなに跡は残ってませんね…(男の首を触る)…これ、痛くないですか?」
男「特には……」
医者「あ、そう。月に何回くらい?」
男「いえ、そんな全然……2ヶ月に1回するかしないかで……」
医者「隔月?」
男「ですね……」
医者「(メモをし)なるほど……。来ました?」
間。
男「え?」
医者「青いの、来ました?」
男「……青いの?」
隣の病室から声が聞こえる。
男2の声「あの、まだですか? 早くカードが欲しいんですけど……」
看護婦の声「すぐに先生がいらっしゃいますから、」
男2の声「そんな悠長なこと言ってられないんですよ、」
看護婦の声「あの、ちょっと落ち着いて……」
医者「来てない? 青いの。隔月でやってるんでしょ?」
男「いえそういうのは……来て無いと思います、」
医者「あ、見てないんだ」
医者、メモを取っている。
その間も隣の病室から声は聞こえ、男はそれが気になって来る。
看護婦の声「わかりました……今聞いてきますから……」
男2の声「お願いします……もうどうにもならないんですよ……」
医者「初期の段階ですね。じゃ~まずは抗鬱剤と運動療法で様子を見ていきましょうか」
男「あ、あの先生……実は私……治したいんじゃなくて……」
医者「あ。あ、そっち?」
男「はい……」
医者「あれ、(問診票を見ながら)てっきりこっちの問診票だから、治療の方かと思っていました。すみません、看護婦が渡す紙を間違えたみたいですね……」
男「私はあの……じゃない方でして、」
医者「わかりました……でも、そうかぁ……う~ん、どうしようかなぁ……」
男「こちらはそういうのも専門だって伺ったんですけど……」
医者「そうなんですけど……いや、ダメでは無いんですけどね、でもあなた、青いの見えてないんでしょ?」
男「まぁ、はい……」
看護婦が診察室に入って来る。
看護婦「あの、先生、」
医者「ダメじゃないか、問診票違ったよ」
看護婦「え?」
医者「この方、逝く方だから」
看護婦「あら……」
医者「あらじゃないよ、全く。君はね、そういう所があるよ。気を付けないとこれだって立派な医療ミスなんだからね、この間だって……。まぁいいや。逝く方の紙、出して」
看護婦「それより先生……お隣の患者さんが早くカードが欲しいって騒いでるんです」
医者「え? ダメだよ、今この方の診察中でしょ。後で行くから、待ってもらって」
看護婦「言ったんですけど……全然聞いてくれなくて、少し暴れますし、」
医者「え、暴れてるの?」
看護婦「少しですけど。ベットの上で足をバタバタバタバタさせて。まるで子供みたいに。パソコンも触りますし、」
医者「え、パソコン触ってるの?」
看護婦「ちょっとですけど」
医者「しょうがないなぁ……(男に)あの、スミマセンが、」
男「あ……良いですよ、私は、全然、」
医者「すぐ戻りますから」
そこへ、診察室に男2がぼんやり入って来る。
医者「あ」
看護婦「先生、この方です、パソコンの……」
医者「君、ダメじゃないか勝手に入って来ちゃ、」
男2「待ってなんかいられませんよ、恐ろしくて息苦しくて、胸が詰まる感じもして……」
看護婦「困ります、お隣で待ってて下さい、」
男2「ズルイじゃないですか(男を指さし)この人ばっかり…先生と看護婦さんと2人がかりじゃないですか……」
医者「この人はいいんだよ、順番なんだから」
男2「でもこの人だってカード貰うんでしょう? だったらその順番ちょっとずらして、先に私に下さいよ、もう、後が無くて切羽詰まってるんです。カードがなきゃ時間がもう……」
続。
老若男女問わず笑顔で楽しむ事が出来る惨劇をモットーに、短編小説を書いています。