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連作30首「before becoming bones」

いまさらながら、今年の短歌研究新人賞には初めて連作を作って応募した。今後改作してどこかに出すこともなさそうなので、記録として置いておく。
大前提として定型の守れてなさが恥ずかしいが、今後の課題ということで…。



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before becoming bones

はだかになって磔になって強い白い光を浴びるビルの一室
仕事中に揺れても誰も顔を上げない私たちの皮剥げば骨 
A4を超えない範囲の感想文 可処分時間の中で作る詩
このベンチいつも異様に鳩がいる みんな黒くて血走っている
三食を線で結んで一日を暮れさせたくなく一食を抜く
手帳には使わずに死ぬだろう札幌の路線図があるお守りにする
善人の車掌が痴漢防止の文言を朗々と読み上げる バリトンで
密室で薄い酸素を分け合う私たちきっと立派な兵隊になる
防波堤 私がこの場で形をなくし誰かの土地を濡らさぬための
池袋駅に便は撒かれてそのひとのこころのなかの乙女の祈り
電車のゲロ改札の糞システムのバグわたしのからだのうえのアトピー
(剥き身では殺し合ってしまうわれわれが)かぶれるために纏わせる皮膚
正月のお笑い番組あと何回見られるだろう 死ぬのが怖い
生きるのがこわい何もないかもしれない中空に着地するのがこわい
床のしみ 産まれるあてのない子供 かつて犬死にした犬の名は
生き延びるではなく生きたい信号を守っても守れるのは信号だけ
泥濘をゆける体で墓碑銘をうつくしく推敲したりしないで
彗星のように訃報は巡りきて物言わぬ生者たちを照らした
触るための器官を備えた二人は触り合う 使い古されたやり方で
橋は落ちてこちらの岸では森が燃えて 熊に遭ってもいい、山に向かう
踊り場の慟哭ののちこの星の金色の産毛をつくづくと見る
人数分の豆を挽きながら粉骨の打ち合わせをする、挽歌、と思う
おまえの毛並みは海のようだねこの海はやさしい海だ 炎をあげる
やわらかい草がくすぐる 燦々と陽射しを浴びる白い白い骨
思いがけない日向 踊り場 光芒の野 すべての川は寛解に向かう
トートバッグに搦め捕られてみじめな身 これがないよりあるほうがまし
待合に船は来らず 誰からも頼まれていない出立の朝
道行きは青く沈んで分け合えない石と分け合うスパムおにぎり
この現実に帰化することに決めたから夢遊歩行もじき上手くなる
年賀状出すだけ出すよ返さなくていいから いまも修羅でいますか

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この連作を作っていた2024年の1月頃はこれまでの人生の中でも最も鬱々としていた時期で、今の時点から見返すとその感じがありありと出ていると思う。
しかし、こうして形に残すことでその頃の感覚を思い出すことができる。こうした記録は個人的には重要だ。
例えば、今日で私は30歳になったが、20代最後の日に何をしていたかなんて、すぐに思い出せなくなるだろうと思う。別にそれはそれでいい。実際、仕事して帰りに本屋に寄ってラーメン食べて少し日記を遡って付けたくらいだし。でも、20代最後の日に何をしていたかを忘れても、20代の日々が自分にとってどんな時間で、そこにどんな光や影や屈折があったのか、文字通りそれはどのような光陰だったのか、ということはおぼえていたいと思う。
そのために、短歌なり、日記なり、小説なり、フォーマットはなんでもいいが、自分なりのやり方で形にして残しておくことには代え難い意味がある。今後もぼちぼち続けていきたいと思う。

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