【掌編】続・六兵衛という名の小料理屋
カランカラン♪
「邪魔するでぃ!」
このところ御手洗六助は六兵衛が気に入って、週三の割合いでこの店に通うようになっていた。
「また、来ちゃった」
「お疲れさま」九里雨音は六助の暑苦しい笑顔を無視して、瓶ビールとグラスを差し出す。
「女将さんとは何故か波長が合うというか、六兵衛に居ると心が安らぐんだ」
「あら、嬉しいわ。私も一杯いただこうかしら」
そういうと雨音はグラスを取り出し、六助にビールを注いでもらった。
「この店の益々のご発展を祈念して、カンパーイ!」
「ミュウミュウミュウ!」カウンターの上に座ってるキジトラ猫のミミも唱和する。
グラスを重ねた雨音が語る。
「昼はカフェで、夜はバー、みたいなお洒落なお店で、様々な人間模様を描く、六兵衛はそんな素敵な場所にしたいの。
でもね、圧倒的に筆力が足りないのよ」
いったい誰の気持ちを語っているのだろうか。
「素敵なお店だよ。ここに居ると何故か落ち着くんだ」
六助は続ける。
「実は僕には弟がいてね。両親が離婚してからは離れ離れになって、もう20年以上も会っていないんだけど、どことなく雨音さんに似ていてね。
いつも僕にくっついて、何をするのも一緒だったなあ。たまにウザくなって放っておとくと、一人で田んぼの畦道を歩いてさ、肥溜めに落ちたりするからほっとけなくてさ。
はっはっはっ!
いやあ、男に似ているなんて失礼な話だよなあ。この話はもう止めよう。ごめんなさいね」
雨音が呟く。
「幼い頃、肥溜めに落ちたことがあるの」
「鉄夫?」六助は口をポカンと開けたままだ。
「鉄夫!鉄夫やないかっ!」
「そうか、どこか波長が合うと思っていたのはDNAレベルで繋がっていたんだね」
二人は無言のまま、暫く見つめ合った。
(ぱひゅん)
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