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どれ程いい行いをしても地獄にしか行けない世界。Can only go to hell ~第2編~

「チュンッチュンチュン」
小鳥のさえずりとカーテンの隙間から差し込む
爽やかな光で目を覚ます。

右側で陸が気持ちよさうに寝ている。
時計を見ると朝の7時を示していた。

「ん~~よく寝たな」
上体を起こして大きく背伸びをする。
1階からガチャガチャと美鈴が家事をする音が聞こえてくる。

ポンポンと陸の頭に手をやると
しぱしぱと目を覚ました。
目線があちこちに泳いでいてかなり寝ぼけている。

「ほら、下いくぞ~」

陸を抱きあげて階段を下りた。

「おはよ~」

美鈴が駆け寄ってきた。
「陸、おはよう!」
陸の頭にポンポンと手をやり
幸せそうな笑みを浮かべた。

美鈴が言うには寝顔と寝起きの顔が
たまらなく可愛いといつも言っている。

陸をソファに置いて
ニュースからNHKの朝の子供番組に切り替えた。
いまだに陸は目をしぱしぱとさせながら
ぼんやりとテレビを眺めている。

「さ!朝ごはんできたよ~」

食卓に並べられた、朝ごはん。
ご飯と味噌汁、焼鮭とサラダ。
昔気質な両親に育てられた美鈴は
絵に描いた様な朝ごはんをきっちり
作ってくれる。

パンとジャムくらいの朝ごはんで
育ってきた弘人からすると
この上なく幸せを感じる瞬間だ。

美鈴と陸はあえて朝ごはんの時間を
ずらして食べてくれている。
忙しい朝にまだ幼い子供のご飯は一苦労だ。
好き嫌いが日替わりの為、何を出せば
食べてくれるかなんて分かったもんじゃない。
せめて朝くらいはゆっくり食べてほしいと
美鈴の気遣いだった。

ご飯を食べ終えて
スーツに着替える。

今日は大切な商談がある。
そんな日は赤色のネクタイをするようにしている。

「お!今日は大切な日ですね!」
いつ話したか記憶にないが
美鈴には赤色のネクタイの意味が分かっていた。

玄関先で陸を抱き抱えた美鈴が
満面の笑みで送り出してくれた。
「ぱぱ!がんばって!」
この頃にはパッチリ目を覚まして
喋りもままならない陸も応援してくれた。

「いってきまーす!」


通勤は最寄りの駅まで徒歩5分。
朝に歩くこの5分は、丁度目覚しにもなるし
運動にもなるから気分がいい。
晴れた日に限るが。

駅までの間、顔見知りの近所の方が
ちらほらと家の前を掃除していたり
ゴミ出しをしていたり、犬の散歩を
していたりと、暖かい日常の光景が広がる。

時折目が合った人とは軽く挨拶を交わす。

最寄りの駅に着くと、この時間帯にしては
あまり多くない列に並んだ。
高齢者が多い街で、この駅から通勤する
サラリーマンはあまり多くない。

「ティロリロリーン、ティロリロリーン」
「間もなく電車が到着します」
毎朝のルーティーン。
学校のチャイムの様な役割を果たすアナウンスが流れて
ゴトンゴトンと朝には余計耳に響く音を立てて
電車が流れてくる。

車内は都会に向かうサラリーマンで満員だ。
いつも思うが入る隙間があると思えない。

「プシュー」
扉が開き、降りる人はおらず
前の人が体を押し込むように入っていく。
まるで人の壁に一体化していくようだった。
同じくハリー・ポッターで柱に突っ込んでいく
シーンを思い浮かべながら、体を押しこんだ。

車内の人はあまり嫌な顔はせず
ラグビーのスクラムを組むように
中央陣と扉側陣営で押し合いが始まる。

いよいよ、扉側陣営に軍配があがり
扉が閉められる。
閉まってしまえば同士だ。
皆、体が極力当たらないように
電車の揺れに絶妙なタイミングで反応しているのが伝わってくる。

素晴らしい…

心の中でいつもそう呟く。

最初はこんな満員電車嫌だった。
しかし、美鈴と出会い陸も授かり
夢のマイホームを建てようと決意して
納得のいく物件がこの最寄り駅に
なったのだから、これくらいは辛抱だ。

休日は真逆で空っぽの電車も
平日はサラリーマンで埋めつくされる。
これだけ満員だとスマホを触る余地もないため
みんなヘッドホン等で音楽を聴いている。
たまにスマホを触るスペースを
見事に確保して触り続ける猛者はいるが例外だ。

2駅でオフィス街のある駅に到着するため
目的の駅に着くまでは、もう一度スクラムが組まれる。

時間にして10分程で目的の駅に到着した。

「プシュー」
扉が開かれると、バイオハザードのゾンビの群れの様にホームに流れていく。
ホームで待っていた人達は瞬く間に
人波に揉まれて姿が見えなくなる。

逆らわない様に弘人も流れに従う。
いつも思うが歩いている感覚はなく
不思議と人波に押されて勝手に
進んでいるような感覚に陥る。

辺りを見回しても白髪混ざりの
サラリーマンの頭に視界が遮られる。
流れるままに階段を上がると
青空が高層ビルと高層ビルの間に現れた。
地上に上がってもスーツに身を包んだ
サラリーマンで歩道が埋めつくされている。

人と人が造った建物で支配されたこの街。
自然という言葉が一番似合わない。

そう考えると少しため息がでる。

心なしか呼吸も浅くなる気がする。
実家の田舎の方が自然に包まれて空気が澄んでいて
生きている心地がする。

「さて、」

目線を空から地上にうつして
人波に乗るようにして歩き始めた。

第3編へ 続く




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