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1年でピザ窯をつくった話 6 「BBQの神様」
梅雨の終わりが見えてきた頃
「もし、BBQやるなら庭を使ってもいいよ」
親方からそんな話がでた。
タイミングよく、昨年末の餅つきに夫婦で遊びに来てくれた元同僚の友人からも「BBQやりたい」との連絡があり、周りの友人数名にも声をかけてみたところ、すぐにOKの返事が。
大人になると「〇〇やろうよ」という提案があっても、挨拶程度で終わってしまうことがよくある。しかし今回は、突然BBQの神様が舞い降りてきたかの如くトントン拍子で話が進み、開催することになった。
8月3日。
朝食を自宅で済ませた後、妖精様が車で迎えに来てくれ、直接スーパーへ買い出しに向かう。
こういったイベントごとがある時に、義父母と妻とで、よく行くスーパーがある。
車で片道30分ほどかかるが、肉・鮮魚・野菜と食材だけに絞られているだけに品揃えが豊富。しかもお手頃な値段の割に身も大きくて美味しいのだ。ついつい予定より買い過ぎてしまう。しかも、これから来客があるので尚更だ。
トランクに大量の食材を乗せた車でご実家に到着し、門をくぐると、庭先に淡いオレンジ色のタープテントがピンと張られているのが目に入った。親方が買い物をしている間にやってくれたらしい。毎度仕事が早くて恐れ入る。
しかしながら、言葉にこそ出さないが、親方のはりきった気持ちがそのテントに現れている様にも思えた。
その後、親方と僕はテーブルを出したり、妖精様と妻は食事の用意と分担して準備を進める。
昼にさしかかり、ちょうど陽も差してきた。天気に恵まれたのは、ひょっとするとBBQの神様のお告げに従ったお陰なのかもしれない。
しばらくすると、友人4人を乗せたワゴンカーがにゅっと入り口の門から顔を出した。
来て早々、明るい声に庭が包まれる。木の枝に引っ掛けたアウトドア用のスピーカーからも音楽が流れ出し、一気に賑やかなBBQがはじまった。
コンロの前に立つ親方が、慣れた手つきで次々と食材を焼いてくれた。
妻が幼い頃は、よく家族でキャンプやBBQに行っていたらしい。
そんな親方の動きを真似、途中から交代して僕も手伝う。肉を焼きながらテントに目をやると、親方と友人たちと楽しそうに会話をしている。
「僕の友人たちが、妻の実家にいる」
冷静に考えると、なかなか不思議な光景だ。
話すことは近況報告だったり、たわいのない話だったり。大していつもと変らないけれど、それが楽しい。
僕が焼いている背後では、忍びの如く妻がサポートしてくれていた。そんな妻が用意してくれたウォータージャグには、氷水にレモンが浮かべられ、涼を感じる夏らしい気分を演出してくれている。
友人も差し入れでおにぎりを作ってきてくれたので、その場で焼きおにぎりにしてみたり、短い時間だったけれど、午后のひとときを存分に楽しんだ。
また、作っていることは事前に伝えてはいたピザ窯も、まだ途中段階だけど友人たちにお披露目した。みんなの完成を期待してくれる声に、作るモチベーションがまたひとつ増えた。
夕方になり、西日が眩しくなってきた。
最後に、タープテントの下でみんなで集合写真を撮ってお開きとなった。
「じゃあ、今度はピザ窯完成パーティーで!」
そう約束しながら、4人はまたワゴンカーに乗り込み、帰っていった。
庭に残った義父母と妻と僕という、いつものメンバー。テントやテーブルの片付けをするが、みんながいなくなると、賑やかだった分、寂しくも感じる。
片付けが終わった後は、妖精様が夕飯をご馳走してくれた。
親方はいつもの調子で缶ビールを僕に手渡してくれる。
ご飯を食べながら一日を反芻する。良い日だったな。
それもこれも、神様なんかではなく、休日に足を運んで来てくれた友人たちのお陰。そして何より、受け入れてくれた義父母と妻の大らかさのお陰なのだ。
「ありがとうございました」
あらためてお礼を言うと
「おう、お疲れ」
そう答えた後、目の前に座るBBQの神様は、缶ビールを飲み干して、ニカッと笑った。
(つづく)
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