
産業保健的おススメの「やってみる体験」
産業保健現場では労働者に対して行動変容を促す際に、意思決定を迫る機会が多々あります。例えば、病院を受診するかどうか、運動を始めるかどうか、ワクチン接種をするかどうかといったことです。また不安全行動を是正するといった際には、なぜ労働者がその行動をとるのか、どうやったら安全行動をとってもらえるのかを考える機会もあるでしょう。そして、これは産業保健の面白いところでもあると思うのですが、その際に自分自身が「やってみる」ことができるということは、とても面白いものだと思います。そこで、産業保健現場で活かせる「やってみる体験」がどういったものがあるかをまとめてみたいと思います。挙げてみればキリがないのですが、個人的におススメなものを紹介します。
また、私たちが従業員向けに何かを勧めるときには、家族にも同じことが言えるかどうか、という観点も大切なのではないかと思います。この含意は2つあって、一つは、その人のことを家族のように良くなって欲しいと思う気持ちをもつこと、もう一つは本人にとって実現可能性が高いことを提案するということです。これらのためにも、「やってみる体験」は有用かなって思います。
なお、この内容は過去に「産業保健職は当事者である必要があるのか」という記事でも似たようなことを整理しています。この記事との違いとしては、この「やってみる体験」は、当事者性と深刻さの違いだと理解しています。例えば、性的マイノリティの当事者をやってみる体験はできませんし、妊娠・出産の当事者をやってみる体験はできません(体験することはできますが、ちょっとやってみる、というレベルの話ではないですよね)。
やってみることのメリット
適切な安全行動や、健康行動をとってもらうことの阻害要因を知ることができます。人が、なぜ行動をとらないのか、それは自分自身がやってみると分かる部分もありますよね。例えば、コスト感として、いくらくらいかかるのか、イニシャルコスト(始めるときの金額)と、ランニングコスト(続けるときの金額)や、手間感としてのどれくらい手間がかかるのか、大変なのか、面倒臭いのかといったものが分かるように思います。もちろん、続ける秘訣(=促進要因)として、楽しさや、醍醐味、仲間の多さといったものも、まずは自分でやってみると理解できることが多いのではないでしょうか?よくある秘訣は、仲間づくり、お金をかけてみる、生活動線でやる、やらなければいけない環境をつくる、記録をとる、といったことが挙げられます。習慣は環境から作るとも言いますしね。これも実際にやってみて初めて分かることも多いように思います。
ついでに言えば、これらの健康習慣の作り方ということとしてこの本もおすすめですよ。

それでははじめます。(この記事は、いいなと思ったやってみる経験があれば、どんどん追加していきます。たまに見返していただければ幸いです!)
健康サービス系
保健指導・健康相談
保健指導をする側として、受ける側をやってみるのもおススメです。あえて自分が、体験的に特定保健指導を受けてみるのもいいかもしれませんね。なかなか数値的に引っ掛かりにくい方も多いと思いますが、脂質や、尿酸だけ、とかちょっとした数値異常についても保健指導や健康相談をしてみるとよいかもですよね。
健康診断
健康診断も自分自身が受けてみることは大切ですよね。もちろん、一般健診は皆さんも受けると思いますが、どこで受けるのかは、病院や健診機関によっても異なります。ユーザー視点、顧客視点、患者視点で、健康診断を受けてみてどうだったのかを評価することもできますよね。
評価のポイントは以下のサイトもご参照ください。
労働衛生サービス機能評価事業とは
がん検診
がん検診のような法定外項目は、特に積極的に受けてみることをお勧めします。受けるまでの説明が十分か、受けてみての苦痛感不安感はどうか、などなど、受けなければ分からないことがてんこ盛りです。もちろん、科学的根拠があり、自分のリスクファクターとも照らし合わせた項目を受けることをおススメしますよ。
胃カメラや大腸カメラ
健康診断での患者体験の一つとして、内視鏡検査を受けてみるというのもありですよね。私は研修医時代に胃カメラを受けてみましたが、相当にきつかったです。あのきつさがわかるからこそ、おいそれと胃カメラを受けてみましょうとは言えなくなりました(とはいえ、普通に勧めてたりしますが)。大腸カメラはまだ受けたことありませんが、自分のためにも、産業保健活動のためにも、適切な年齢がきたら受けてみようと思っています。
カウンセリング
この記事を書こうと思ったきっかけも、実はカウンセリングを受けてみたという話からなのですが、自分自身がまずはカウンセリングを受けてみたことがないことに最近気がつきました。自分も受けてみるって大事ですよね。またどこかで感想をツイートしますね。
献血
個人的には、献血がけっこう好きでして、16歳から年1-3回程度は献血を受けています。産業保健的に、従業員さんに献血を勧める機会はそう多くないのですが、定期的な簡易血液検査的な位置付けとか、社会貢献的な意味合いもあるような気がします。自分は献血で健康管理している意識はありませんが。。。
ワクチン
予防接種は、まずは自分自身で受けてみると、言行一致が示せていい気がします。あまり必要性も高くないかなとも思っていたのですが、自分も5年ほど前にHPVワクチンを接種しました。風疹や麻疹の抗体がないかも確認しています。インフルエンザワクチンや、コロナワクチンも率先して接種しました。勧めるからこそ、自分自身が接種するというのはとても重要だと思っています。
産業医面談
あまり産業医面談を自身が受けることはありませんが、労働者目線というのも重要ですしね。勧める以上は、どういうものかをまずは体験してみるのもありですよね。産業医vs産業医みたいになって、微妙な気もしますが笑
ヘルステック
ヘルステックとは、健康を意味するヘルス(health)とテクノロジー(Technology)が合わさってできた造語。最新の技術を活用して医療やヘルスケアに関する新しいサービスや価値を生み出すシステム全般を指す。高齢化に伴う医療費の増大や企業の健康経営意識の高まりなどを背景に、ヘルステック市場は年々拡大している。
富士経済によると、ヘルステック・健康ソリューション関連の国内市場は2017年に2,055億円であったのに対し、2022年には3,083億円と約1.5倍に成長すると予測されている。企業の健康経営に関わるサービスや健康情報測定器などの分野が市場のおよそ8割を占めており、ストレス測定器やウェアラブル端末など心身の健康維持に貢献するテクノロジーは今後も活用されていくだろう。
健康アプリ
健康アプリといっても本当にさまざまなアプリが出ています。いくつかしかここでは説明しませんが、以下のようなものがあります。
・健康管理アプリ
・女性の健康管理アプリ(フェムテック)
・体重管理アプリ
・食事管理アプリ
・運動アプリ、筋トレアプリ
・歩数アプリ(ポケモンGOのようなゲーミフィケーションも)
・睡眠アプリ
・健康情報アプリ
例えば、歩数アプリも、かつては歩数計(万歩計)を持ち歩くことが運動指導の定番でしたが、最近は、iphoneのヘルスアプリに代表されるように、歩数アプリがかなり一般化きましたよね。スマホの歩数計はとても優秀ですし、日常的に記録してくれますからね。
運動系
ジム
保健指導で、ジムを勧める方も多いと思いますが、実際にジムに通われたことはありますか?実際にジム通いが長続きしている人ってかなり少ないんじゃないかと思いますよね。勧めるは易し続けるは難し・・・。なお、私は3回ほどジム通いは失敗しています。最近のチョコザップとかどうなんでしょうね??ちょっと興味あるので、ちょっと入会してみるというのも悪くなさそうです。
階段
皆さんは保健指導の場面で、階段を使うことを勧めたりしますか?私はけっこう好んで使います。階段は身近なジムとも言えるくらいですしね。生活の動線で、身体活動量を増やせる便利なものだと思っています。仙台で言えば、地下鉄東西線はホームが深いので、階段も長いんですよね。東京でも大江戸線は深くて階段が長いみたいですね笑
階段を雨の日や、疲れた時、出張のとき、スーツケースを持っているときなどさまざまな場面で使ってみるとよいと思います。運動靴か、パンプス・ヒールなのかでも違いますよね。より、解像度高く、階段を使ってみることが提案できる気がします。
筋トレ
保健指導で筋トレを提案させる方も多いのではないかと思います。自分自身が筋肉をつけたいかどうかに限らず、自分も実際に筋トレをしてみるというのもありですよね。まずは、ヨガマットとダンベル、腹筋ローラーを買ってみてはいかがでしょうか?
社内のあれやこれや
社員食堂
自社の社員食堂を使ってみると、その利便性や、健康に気を遣っているかわかりますよね。低いカロリーメニューはあるのか、減塩メニュー(減塩味噌汁、減塩醤油など)はあるのか?、値段は?といったことです。
社内研修
企業が社員向けに開催・提供している社内研修を、一般社員に混じって受けてみるのもオススメです。安全教育だけではなく、スキル研修、キャリア研修などありますので、必須受講じゃないものにも手を出してみてはいかがでしょうか?現地研修であれば、顔を出してみると、顔を売ることもできますよ。
保護具系
耳栓
実際につけてみると、その大変さとか、実際の遮音感が分かりますよね。個人的には飛行機や電車、線路近くのホテルに宿泊するときとかに使ったりしています。騒音職場でも、耳栓はえてして使われなくなったり、適切な装着がされなかったりしますからね。

墜落制止用器具
かつて安全帯と呼ばれていたものです。装着を提案する以上は、自分もつけたことがある経験が活きるように思います。

ノイズキャンセリング
Air pods proをはじめ、ノイズキャンセリングをつけてみる経験は大切ですよね(ノイキャン大好き人間なのでw)。電車や飛行機で付けると出張の疲れが全然違いますし、騒音対策としてもとても有効だと思います。
防じんマスク、N95
マスク装着がどれほど呼吸が辛いのかは装着してみないと分からないですよね。一度装着してみましょう。そして、フィットテストも受けてみましょう。

作業着
作業着も着てみる経験は重要ですよね。クリーン服や、一般的な作業着、ヘルメットなどなど、どれだけの不快感や暑熱感、視界が狭い感、動きにくさがあるのか、着替えが大変か、といったことを体感できると思います。

作業系
熱中症対策
最近では誰もが熱中症になるリスク機会があると思いますし、自分自身が色々と熱中症対策をしてみるのもいいと思います!たとえば、はね先生の以下のツイートのように
熱中症対策、ヨシ!
— はね@産業医🦔💉PPPPPM (@hane_ohp) July 15, 2023
…ってなかなかに暑いな! pic.twitter.com/Mkh98eZlKE
やってみた後の注意点
「産業保健職は当事者である必要があるのか」でも言及している通り、やってみた経験をしたからといって、それはそのまま周囲の人に当てはまるわけではありません。自分ができたのだから他の人もできると思い込んだりしてはいけません。特に以下の3点には注意してください。
・わかったつもりになってはいけない
・押し付けてはいけない
・自分の話をしすぎない(焦点は相手)
おまけ
「指導者たるもの実践者たれ」
いい言葉ですね
私が特定保健指導を教えてもらった先生は「指導者たるもの実践者であれ」がモットーでした。
— くるみ@産業保健師🌈 (@kurumi_ohn) July 6, 2023
https://note.com/san914031/n/n5865b646c963