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風疹の情報提供のすすめ

はじめに

HPVワクチン情報提供のすすめ」の記事に続き、先輩の堀愛先生に刺激を受けまして風疹についても記事を作成します。というか、なぜこれまで風疹に関する記事を書いてなかったのか反省です。風疹ワクチンこそ、職域保健の専門家である産業保健職がもっと頑張らなければならないと思います。

0. 前提となる知識

風疹(rubella)は、発熱、発疹、リンパ節腫脹を特徴とするウイルス性発疹症である。症状は不顕性感染から、重篤な合併症併発まで幅広く、臨床症状のみで風疹と診断することは困難な疾患である。
風疹に感受性のある妊娠20週頃までの妊婦が風疹ウイルスに感染すると、出生児が先天性風疹症候群を発症する可能性がある。
男女ともがワクチンを受けて、まず風疹の流行を抑制し、女性は感染予防に必要な免疫を妊娠前に獲得しておくことが重要である。

風疹とは. 国立感染症研究所 
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/430-rubella-intro.html

風疹に感受性のある妊娠20週頃までの妊婦が風疹ウイルスに感染すると、出生児が先天性風疹症候群を発症する可能性がある、ということが風疹対策の最も重要なことです。

抗体検査と予防接種の対象世代

対象者は昭和37年4月2日から昭和54年4月1日生まれです。
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2024年5月12日現在>
昭和54年4月2日生まれは、45歳です。
昭和37年4月2日生まれは、62歳です。
45歳~62歳の男性に対する無料の風しんの抗体検査と予防接種は令和6年度まで延長されました。

2022年度の抗体保有率の調査では、90%をきっているのは35~69歳の世代と17-19歳(8歳、1歳未満)なので、必ずしも風疹抗体検査と予防接種は45-62歳に限定する必要はないと思います。

https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2024/4/530r03f02.gif

1. 職域こそ風疹対策を 〜めざせ風疹排除!成功のカギは産業保健にあり〜

理由1:働き世代こそ接種が検討される

風疹ワクチンは働き世代(の特に男性)こそ接種が必要であり、そこにアプローチできるのは私たち産業保健職です。職域保健を担う産業保健こそができることが多くあります。かなり大げさに言えば、産業保健こそが日本の風疹対策の中心を担っていると言えます。まさに堀愛先生の言葉を借りれば「成功のカギは産業保健にあり」です。いや、大げさに言わなくても間違いなくその通りです。産業保健職がいかに、職域世代に働きかけられるかが極めて重要です。

理由2:産業保健は公衆衛生の一翼

医師法第一条にある通り、医療職たる産業保健職は、公衆衛生の向上・国民全体の健康な生活に責任があります。そして、産業保健職は、公衆衛生の一翼として、産業領域・働き世代を担う専門家です。これは、母子保健・学校保健や、老人保健を担う地域保健との橋渡しとなる領域です。母子保健・学校保健から引き継がれた働き世代の方々の健康を支援して、その先の地域保健・老人保健に引き継いでいきます。健康は途切れるものではなくつながっており、医療・保健もまた途切れずに存在していく必要があります。このように、公衆衛生全体の視点でも、私たち産業保健職の役割を考える必要があり、公衆衛生上の大問題となっている風疹問題のこと、産業保健職は決して他人事・専門外だとは捉えていただきたくないのです。

理由3:感染症対策こそ最強の予防医学

産業保健活動は予防活動であり、予防医学の実践です。そして、風疹の感染症対策こそが強固なエビデンス(科学的根拠)を有した最強の予防医学です。風疹の情報提供を行い、誰かが風疹の予防接種をうってくれて、風疹の拡大をとめてくれ、どこかの妊婦さんが助かっているわけです。私たちの知らないところで救われる人が出てくるんですよね。そのことで私たちが感謝されることは決してないでしょう。本人すら救われたことに気づかないでしょう。しかし、それこそが予防医学だと思うのです。
 先人たちの犠牲と努力の結晶である予防接種を推進することこそ、という最強の医学の実践であり、医療職の務めなのだと思います。

ワクチンをつくるために世界中のどれだけの人々がどれだけの時間を費やし、どれだけの犠牲を伴ってきたか、私たちは知らなければいけないし、その知見を広げることで次の犠牲を減らさなければならないと思うのです。ONE PIECE 31巻より

理由4:家族の健康問題もまた産業保健のカバー範囲
産業保健職のカバーする範囲は、担当する企業の従業員の健康問題だけではなく、その家族(両親、パートナー、子供)の健康問題も含まれると思います。家族の健康問題は、その従業員の就労に大きな影響を及ぼしうるからです。例えば、両親の介護、パートナーの病気、子供の育児・病気のようなものです。その健康問題に対して、必要な情報を予防的に提供することも非常に重要だと思います。それは、風疹だけではなく、肺炎球菌ワクチンや、パートナーの健診・検診受診などの健康管理、子供の感染症・ケガ・応急処置などの情報提供が挙げられます。仮に、直接的に従業員自体が風疹対策の対象世代じゃないとしても、産業保健職として風疹に関しては情報提供をするべき事項であると私は考えます。

理由5:関心度を1ミリでも上げる

風疹を含む感染症の問題の大きな敵は「無関心」です。皆が興味・関心を失い、対策を怠る人が増えれば増えるほど、感染症は被害が拡大する懸念があります。そのようにして定期的に流行が起き、その度に被害者が出ます。かく言う自分も、風疹についての関心が常に高いわけではありませんし、四六時中風疹のことを叫んでいるわけではありません。しかし、1年に1回でも、2年に1回だけでも、風疹のことを産業保健活動の中で取り上げる必要があると思うのです。1ミリでもいいので、社内で風疹に対する関心度を上げていきましょうよ!

理由6:健康経営の感染症予防対策といえば「風疹対策」でしょ!

健康経営の調査票に感染予防対策がありますよね。このような項目があるからこそ、経営陣を説得しやすいのではないでしょうか。男女の風疹抗体検査や、予防接種の社内実施または補助をしてみてはいかがでしょうか?」先天性風疹症候群の予防」という大義は理解されにくいでしょうが、健康経営のためという理由は、経営層や意思決定者にとっても、地に足がついた手触り感のある話になりますよね。

健康経営度調査項目
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/009_s02_00.pdf

理由7:CSR

先天性風しん症候群(Congenital Rubella Syndrome :CRS)ではなく、企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility:CSR)です。企業内で風しんが発生することで顧客、取引先、従業員やその家族などに対しても説明が求められる可能性があります。企業は社会の公器ですからね、風疹対策を行うことは、まさにCSRそのものだと思います。

理由8:危機管理

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/index.html

定期的に、小さな規模から大きな規模まで、風しんの流行は突然やってきます(麻疹の流行も定期的に起きています)。その際に、風しん対策をやっておくことで、従業員の守ることのみならず、企業のレピュテーションリスクや、株価を守ることができるかもしれません。風しんの発生によって一部の事業が停止になるかもしれず、企業の危機管理、事業継続のためにも、とても重要な取り組みとなります。

理由9:風邪対策だっていいじゃないか

風しんはインフルエンザに比して感染力が強く、予防接種を受ける機会のなかった20~50代の男性が多い職場では、複数人が同時に休養を余儀なくされる危険性がある。不顕性感染は15~30%程度とされている一方で、成人では高熱や発しんが長く続いたり、関節痛などが生じる重症化例の報告や、稀に脳炎や、血小板減少性紫斑病を合併するため、決して軽視できない感染症である。

国立感染症研究所. 職場における風しん対策. https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2315-related-articles/related-articles-425/5782-dj4257.html

風しんは症状によっては、風邪症候群(鼻水、鼻づまり、のどの痛み、咳、痰、発熱などの症状の総称)の一部です。つまり、ただの風邪です。ただの風邪だと思っていたら風疹で、それを妊婦にうつすことで起きるのが先天性風疹症候群ですからね。風疹対策とは、男性の風邪対策という側面を持っています。風邪対策とは言っても、とても大切なことですよね。誰だってできることなら風邪だってひきたくないですからね。その風邪で休む人を減らせる効果が期待できます。風邪対策として効果があることも強調していきましょうよ。

おまけ:2月4日は「風しんの日」!

2月4日(日)の「風しんの日(2(ふう)月4(しん)の日)」だそうです。ぜひ2月4日には風疹の情報提供をしていきましょう!

2. 職場でできる風疹対策

周知・啓発

・各種ポスター・リーフレットを現場に掲示
・イントラネットへの掲載
・衛生講話でアナウンス
・研修会の実施
・e-Learningの作成
・安全衛生委員会でアナウンス
・抗体検査や予防接種が医療機関をアナウンス
・風疹流行地への出張者に対する情報提供や予防接種の推奨

健康管理、個別対応

・産業医や保健師などによる相談対応

人事・福利厚生施策

・健診時、入社時、海外渡航時の抗体価測定
・MRワクチン接種補助
・受診の為の特別休暇
・風疹流行時は、抗体価が低い妊婦の対人業務や通勤混雑を避けたり、 在宅勤務の配慮
・ベースとしての休みやすさの醸成や制度設計

職場における対策の難しさ
風しんは免疫が不十分な集団で周期的に流行を繰り返すが、直近では2004(平成16)年と2013(平成25)年で、間があいている。毎年流行するインフルエンザに比較して、生産やサービスに重大な影響を及ぼす事態が起こることは稀であり、企業の危機感が薄れやすい。
また、最大の懸念が、CRSの発生であり、従業員直接への危険ではないため、企業を前向きにするには工夫が必要である。同じことが個人にも言え、感染リスクの高い20~50代男性で当事者意識を持つ者は限られる。

国立感染症研究所. 職場における風しん対策. https://www.niid.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/2315-related-articles/related-articles-425/5782-dj4257.html

3.風疹情報

職場における 風しん対策ガイドライン
2022年度風疹予防接種状況および抗体保有状況―2022年度感染症流行予測調査(暫定結果)
令和元年9月10日 企業向け説明会資料(国の風しん対策 実践セミナー 〜風しんから社員とお客様を守るためん〜

3.2 参考になる情報源(産業保健の取り組み)

企業での取組事例 イオン株式会社 グループ人事部 イオングループ総括産業医 増田 将史 (ますだ まさし)https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000057883.pdf

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000933995.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000933995.pdf

3.3 参考になる情報源(マンガ)

コウノドリ

聲の形

遥かなる甲子園

謝辞 

本記事は、堀愛にもご確認・ご意見をいただいております。この場を借りて深く御礼申し上げます。


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