産業保健職は当事者である必要があるのか
はじめに
産業保健職がたまに陥る問題を取り上げたいと思います。それは、「自分は対象者と同じ経験がないのに相談に乗れるのか(支援できるのか)」「自分も当事者である必要があるのか」というものです。なにせ、産業保健現場では働き世代のありとあらゆる方がいますからね。社会経験が少ない産業保健職としては、「私なんかでいいんだろうか」、「自分は同じ経験をしていないのに大丈夫なのか」、「当事者の気持ちは分からないのに適切な助言ができるのか」、ということを思われる方も多いのではないかと思います。
この問題は、最もわかりやすい例えで言えば、「妊娠・出産できない男性の産婦人科医が妊産婦を診療できるのか」ということだと思います。それ以外にも、医療現場では、自分が経験していないようなものを診療するといった事はよくあることです。自分が経験できることには限りがありますしね、疾患の当事者じゃなければ診療・支援できないとなれば大変なことですから、実際にそのことで思い悩む必要はないと思うのですが、やっぱり悩む方は悩みますよね。
疾患の話に限らず、産業保健現場では、対象者と業務内容や社会背景についても同じようなことがあります。多くの肉体労働(粉塵作業や騒音作業、遮熱作業、重量物作業)といったものや、ガチの長時間労働に従事したことのある人はほとんどいないでしょう。社会・経済的な背景として、低賃金、非正規雇用(雇用不安)、低学歴といったことについても同様です。言うなれば、産業保健職は、全ての労働者とは状況が全く違います。しかしこのようなことが当たり前であるにもかかわらず、一部の産業保健職は、対象者と同じような経験・同じような状況にいないことで、適切な助言ができないと引け目に感じてしまっているようです。同じような経験がある者(=当事者)について考察していきたいと思います。
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