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シエラレオネのパイナップルは青春の味

昨年7月からはじまった、長すぎるハネムーンもそろそろ終わり。14カ国目となる最後の訪問国は、西アフリカのシエラレオネ。

Google mapで調べるまでアフリカ大陸のどのあたりに位置するのかさえ知らない、地球の歩き方も未発刊のこの国に来ることになった理由は、ただ一つ。友人がそこにいたから。
知り合いがいなければ一生来ることもないだろうなと思い、行っちゃうことにした。勢い大事!

高校時代の戦友でありシエラレオネ駐在中のスーパー商社マンが、我らのために調整を重ねてくれて、会社の取り組みを見学させてもらえることに。
これまで滞在してきた先進国の小規模で家族経営の農家やエコビレッジとは何もかも真反対の、後進国での大企業による大規模農園。自分の「当たり前」が何度も揺らぐ、濃密な時間となった。


空港職員が賄賂を求めてくるカルチャーショック

シエラレオネに外国から訪問してくるといえばビジネス目的がほとんどらしい。それもあって「ハネムーンで来るなんて」と会う人会う人に訝しがられた。
いざ行ってみて、あぁ確かにこれは観光客が来るようになるまでの道のりは長いなと納得した。

モロッコから4時間のフライトを経て深夜2時に空港に到着。眠い目をこすりながら歩く我らを待っていたのは、空港職員からの賄賂要求。…入国審査中ですよ?
ビザに不備があると言われる。じゃあどうしたらいいんだと聞くと、俺に20ドル払えと言う。お金で解決する問題なの?どゆこと?

さらに出入国時に保安目的のためだとかでオンラインで1人25ドル払い込まないといけない。出入国それぞれで必要なので合計50ドル。空港利用料的なものって普通航空券買うタイミングで積算されてるもんだけど、それとは別らしい。きっちりチェックされるので払ってないと通してくれない。謎システム。

そしてようやく入国できたかと思うと、空港が湾岸に作られているためどこに行くにしてもフェリーで海を渡らないといけない。これが1人片道45ドル。…いやいや、高すぎん? 

なんだこの公然としたふんだくり!

深夜のフェリー


テレビで見たような光景が広がる

シエラレオネは北海道より少し小さいくらいの面積に約800万が住んでいる。統計取れてないだけでもっと多いだろう、とも聞いた。
首都はフリータウンという印象的な名前。奴隷貿易が廃止されて解放された黒人奴隷らが入植した地であることからその名が付けられたそう。

今回我々が滞在させてもらったスンブヤ村は首都フリータウンから車で5時間走ったところにある。
途中から道のコンクリート舗装がなくなり、赤茶色の土の道をぐんぐん走っていく。車やバイクが走ると砂ぼこりが舞い上がる。日々砂ぼこりを被っている両脇の植物はすっかり赤茶色だった。
道沿いには家がずらりと並ぶ。茅葺き屋根を彷彿とさせる、乾燥した大きな植物の葉を敷き詰めた屋根。隙間だらけの土壁。扉のない玄関とガラスのない窓。
女性たちはカラフルな布を腰に巻いて、頭に大きな荷物を頭に乗せて歩く。子どもたちは上裸で遊びまわっていて、車が通ると興味津々に見つめてくる。一方、車に全く興味を示さずどけようともしない痩せっぽちのヤギやイヌ。テレビで見たような世界が目の前に広がっていた。


パイナップルは無限大

今回我々が訪問させてもらったのが、Doleが出資するSierra Tropical Limited。Doleって伊藤忠が買収したのね。知らんかった。

シエラレオネの広大な敷地でパイナップルの生産から加工までを行っている。1000haの畑なんて初めて見たよ。見渡す限りパイナップル。今後もっともっと増えてくらしい。

見渡す限りパイナップル!

パイナップルは一度収穫して終わりでなく、数ヶ月後にまた実をつけてくれる。2回目以降は小ぶりになっていくから商業用としては2回収穫で終わりにしているらしいけど、理論的には3回以降も実をつけるんですって。へー。

さらに、パイナップルのツンツンした部分がタネにあたり、ブスッと地面に挿しとくとまた育つのだとか。クラウンと呼ばれる、とんがり頭の切り口をよく見ると確かに根がある。
次の栽培につなげるためパイナップル収穫時にはクラウンをきれいに切り落としていた。

ちょっとタケノコっぽい
クラウンを仕分け中

見学途中、その場で収穫したばかりのパイナップルをカットして食べさせてもらった。一口噛むとジュワーっと汁があふれ出す。太陽の光をたっぷり浴びて熟した採れたてパイナップルはこれまで食べたどのパイナップルよりも驚くほど甘くて、ほんのり酸味があって、おいしかった。
記事のタイトルは言い過ぎだ。こんなに甘めな青春時代ではなかった。

工場も見学させてもらった。この農園&工場では主にアメリカとヨーロッパに出荷する用のパック詰カットパインとジュースのもと(よく見る濃縮還元ジュースはこれを再加工して作られている)を生産しているらしい。
3回に分けて実を絞っていたり、熟しすぎてカットパインに入れられない部分をジュースに回したりと、余すところなく使っていて無駄がない。よくできてますなぁと感心しきり。
いまは切り落とした皮と絞りきった実は廃棄しているけど、今後はコンポスト(肥料化)していく計画だと聞かせてくれた。

時間を割いて案内してくれたのはコスタリカから来ている農業チーム。パイナップル歴10年とかのプロフェッショナル勢で、農場を回りながら丁寧に説明してくれた。
現地スタッフが働いている場に行ったときはスタッフから私たちに説明するように促す。「いつまでも自分たちがいるわけじゃないから」と先を見据えていた。
現地スタッフのシエラレオネ人には英語が話せる人と現地のクリオ語のみ話す人とがいた。ほんの1時間で何度How are you?とWhat's your name?と声をかけられただろう。気さくでなつっこいタイプの人が多い。

新たに開拓した土地の整備、植え付け、収穫後の荷積など、体験させてもらった。
昼の時間帯は暑くて暑くて、ほんの15分作業するだけで滝汗。日本のじめじめとした暑さとは違って、ビーム!!!って肌に直接攻撃してくる感じの暑さ。
中腰の姿勢をキープしながら収穫されたパイナップル(1つ1.5kgほど)を片手に一つずつ掴みあげてザルに入れる動作をエンドレスで続けたもんだから、翌日バキバキに筋肉痛になった。連日働く皆さん、マジでお疲れ様です。

コスタリカの農業チームの1人、姉御肌のマリア
まだ薄暗い朝8時。手作業で畝作り。めっちゃ見守られる


医療体制を整える

印象的だったのは、日本のNGOとパートナーシップを組んで医療体制を整えていること。周産期医療を提供するこのNGOには日本人の医師と助産師がいて、診察は妊婦に限定しておらずSTLで働く社員とその家族5人までが無料で診察してもらえるらしい。
クリニックはこじんまりとしながらも清潔感がある。ベッドや薬等も豊富にあるこの医療環境は、アフリカの中でもかなり稀な方だろう。

シエラレオネは出産時に母親が命を落とすケースがめちゃくちゃ多いらしい。10万人あたりの妊産婦死亡は1100人。日本は約3人。360倍もの差がある。彼らがサポートに入りはじめてから母親が死んだケースはないんだと。

クリニックには生まれた子どもたちの写真が飾られていた


理事長であり医師の小平先生と話していて、えっ?と耳を疑うことを聞いた。
「彼らは自分たちの年齢を知らない。子どもがいつ生まれて、いま何歳かも知らない。」
どうやらカレンダーの概念がないようなのだ。私が生きてきた環境では暦があるのが当たり前で、常に時計を見ながら生きている。が、彼らにはそれがない。
それでも母親は子どもがいつ生まれてくるかはなんとなくわかっているんだと。35週くらいで生まれたりすると、日本では早産だと言われるが、それはあくまでカレンダーに照らした時の話。
「我々はカレンダーに自らをはめ込んでいるとも言える」と話す先生。フラットな見方をする方だなと思いながら聞いた。

IGPCの理事長小平先生と


「後進国での大量生産」の裏側にあるもの

誤解を恐れずに書くと、自分の中で大規模農業は「できれば避けたいもの」だった。
効率化・安定供給のために化学肥料を使うケースが多いし、輸入となればフードマイレージもそれだけかかる。後進国での土地開発による環境問題も心配だ。
なので、というかなんというか、日常の生活ではできるだけローカルなものを買うようにしていて、そうでない時はフェアトレードやエコサート、オーガニック認証のついた製品をできるだけ選ぶようにしている。縛りすぎると生きづらくなってしまうのであくまで「できるだけ」なのだけど。

とはいえ世界を見れば、80億人を超えてもなお人口は増え続けている。食糧危機が差し迫るなかで、大量生産によって多くの食を支えられている側面を無視するわけにはいかない。

さらに今回目の当たりにしたのは、農業だけで完結しない世界だった。
日本、コスタリカ、フィリピンからシエラレオネに集った人たちがそれぞれの知見をフルに活用し、いろんな工夫を重ねて、現地スタッフとともに文字通り汗水たらして働いていた。
現時点で2000人弱のスタッフが働いていて、現地でたくさんの雇用を生んでいる。しかも国の平均よりはるかに高い給与で。これまで働いたことのない人々も徐々に仕事の仕方を学んでいるようだった。
製品の運搬のために道が整備されつつある。STLによって村のあちこちに井戸が掘られ、村の人々は濁った川の水を飲まなくてよくなった。クリニックが設置され、救われる命がある。
さらにこの国の主要輸出産業はボーキサイトやダイヤモンド。加工技術がなく、原材料そのままでの輸出に留まっているそうで、パイナップルの加工品輸出は国の経済に影響を及ぼしていくんだろう。
一外資系企業の取り組みが、村ひいては国の社会的インフラをソフト・ハードともに耕している。食糧生産に留まらない幅の広さがそこにはある。


文化とか文明をどう捉えたらいいんだろう

一方で、現地の人々とともに働く苦労もよくよく伝わってきた。
文字を読めない現地スタッフも多い。十分な教育を受けておらず、論理的な思考ができない。製品を数え間違えたり、嘘をついたり、物を盗んだり…。聞けば聞くほど大変そうだった。
小学生レベルの教育さえ受けていない彼らに対し、「会社は学校じゃないんだぞ!」と切り捨てるわけにもいかないだろう。

ここでふと疑問が湧き上がってくる。少し大きな話になるけれど、アフリカが人類の起こりの場所だとするならば、アフリカが他の大陸に移動していった民族よりも後進国なのはなぜだろう。
文化はある。決して彼らが自分より劣っているとは思わない。でも未発達と言わざるを得ない部分もたくさんある。

彼らは決して発展しなかったのではなく、水も食糧も医療も不十分な環境であっても種として何千年にも渡り生きていく能力を備えてきた。寿命は短く幼少児の死亡率も高いけれど、その分1人の女性が産む子どもの人数ははるかに多い。
逆の見方をすればそんなことが言えるんじゃないか。
我々先進諸国の人間なんて、電気も水もなければ一瞬で混乱に陥ってしまうだろう。彼らのように少ない栄養価と衛生レベルの低い環境で生きていける屈強な肉体もない。
異なる発展をしてきたのだ、と考える方がすとんと腹落ちする。そうなのかな。

なんてことを悶々と考えていて、ちょうど出張中だったらしくパリで落ち合った知り合いの大学教授に疑問をぶつけてみたら、『銃・病原菌・鉄』という本の存在を教えてくれた。
文明が発達するのは時間の長さの問題ではない。地形や動植物相といった環境要因が大きいのだと。詳しくは読みなはれ、と。課題図書が増えた。帰ったら書店行く。


高校時代の戦友おかちゃん。1年半でマラリア3回かかったらしい。怖すぎる
セワ川で夕日を見ながら同窓会
フリータウンのロブスター屋さん。注文すると海に取りに行っていた
Sea to table! めっちゃ大きい!激うまでした

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