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デザイナーのためのアンラーニング

アンラーニングについて、なぜデザイナーにとっても重要なのか、現在進行形で自分がおこなっている方法についても書いていきます。

Unlearning isn’t about doing more. It’s about doing more, with less.
Dom Price, Work Futurist at Atlassian(1)

アンラーニングとは

近年、成長・学習の文脈でよく聞くワードのなかに、アンラーニングがあります。ラーニング(learning)の意味は簡単で「学ぶこと」ですが、その逆の意味をもつ"un"がついた単語です。

清原豪士氏はアンラーニングの定義を「学習棄却」「これまでに学習してきた知識や価値観を、取捨選択すること」(2)と記述しています。
つまりすでに自分がもつスキルや経験を、不確実な時代(VUCA)を見据えて、棚卸しし捨てていくことです。

ちなみにリスキルとリカレントの違いはこのような形です。

リスキル:環境変化に対応するための従業員の再教育、再開発
リカレント:学校教育の後も生涯的に学び続けていくこと
(3)

なぜデザイナーにとっても重要なのか

アンラーニングは大前提として、デザイナーだけでなく、どの職種でも行うべきものとして存在しています。
一般的な学習の仕方として取り組まれており、それについての書籍やブログポストは近年増えています。

一方で、広義のデザイン(4)を実践する者にとっては、さらに意識的に取り組む必要があるものだと感じています。自分自身も、転職をした際にやってみようとしたきっかけがありました。

越境と領域拡大

インターネットに存在する〇〇デザイナーという求人は数多く、デジタル領域のデザイナーも同様に細分化が進んでいると感じます。

さらにPM・エンジニアとの垣根が薄いような職種の広がりも近年より強くなっています。

個々のジョブディスクリプションを目を向けると、近似職種と重なるようなスキル・経験セットが求められていると気がつきます。求職するデザイナー側もひとつの職種にとどまるのはなく、隣接した領域へのジョブチェンジや、+αの要素をもったジョブミックスをしながら転職することが多いです。

ジョブミックス・ジョブチェンジ型の移行例

  • WebデザイナーからUIデザイナー

  • フロントエンドエンジニアからデザインエンジニア

  • ディレクターからプロダクトデザイナー

自分も似たように、Webサイトを専門としていたポジションからUIという少し領域が変わる職種へシフトしました。

アンラーニングの4つのステップ

アンラーニングは一見、この行為が達成されると経過時間に対して適応度・習熟度がリニアに変わっていくという誤解があるかもしれません。

自分も同様にそう考えていましたが、より探っていくと複数の段階を通してアップデートしていく階段状になっているのではないかと思い始めました。

二つのアンラーニングの型

いくつかの方法論がある中で、O'Callaghanは4つの方法でアンラーニングをすることができると述べています。(1)

デザイナーが行うことができるアンラーニングも、このステップに当てはめることができると考え、自分が行ったことを交えながらその例を書いて行きます。

1. Discover what's not working
2.Start with your foundational habits
3.Prioritize what's most important
4.Get out of your comfort zone
(1)

1. 何がうまくいっていないのかを発見する /  Discover what's not working

人は1日のなかで多くの決定を行います。その中の多くは癖と言われますが、自分が決めた決断について意識的になり、なにがうまくいなかったのかに目を向けることで改善するステップです。

私の場合、WebサイトからUIに領域を広げたことでいわゆる必要な知識・経験が変わったと思います。特に構造設計や、モデリングについてUIのほうがより重視される分野です。

日々の業務のなかで、つまづいたところに関して、既におこなっているやりかたではうまくいかないと思ったので、インプットとアウトプットの質を変えてみるということをしてみました。

インプットとアウトプットの質を変えてみる

自分の場合、体験設計について本からの学習では経験学習が足りないと思ったためスクールに通ったり、インターフェイスについてもいままで読んでいた実践書に加えて思考や哲学についての書籍を読み、抽象度上げて理解していくなどインプットの質を変えてみました。

一方でアウトプットも同様で、プロジェクトのフローの間に、インプットしたばかりいつもと違うやり方を入れてみたり。案件で実践することで適用していたことを、誰かに教えることで言語化してすることで、別の方法を試したりしています。

インプットとアウトプットの形を変えることで、中間の媒体である私も変えることをやってみています。

2. 癖に目を向ける /  Start with your foundational habits

身の回りのすべてをアンラーンしようと考え込むと、時間をかけすぎて行動できなくなります。
そうならないために、生活にもっとも影響度の大きい根本的な習慣に目を向けていくというステップです。これはキーストーン・ハビット(5)とも呼ばれていて、別の習慣にも影響を与えるような大きな癖に目を向けるということです。

記事のなかでは、キャロル・ドゥエックの「固定型マインドセット(Fixed mindset)」と「成長型マインドセット(Growth Mindset)」を例に出し、人の行動の底にあるマインドセットに焦点をあててアンラーンすることを書いています。

デザイナーに置き換えると、手癖やフレームワークや審美眼が、基本的な「習慣」になると思います。

いつも通り(じゃない)に向き合う

自分の場合でも、経験のある同じ業界の同じようなプロジェクトにおいても、アプローチが異なるのは当たり前なので、いままで成功していた方法をそのままやるのではなく、都度周囲の違った属性の情報をインプットしながら最適化しています。

ある状況下で養われた経験と眼をつかって、新しい状況で適応していくことは有効ではある一方で、あえてコアスキルに目をむけていくことでアンラーンを効率的に行うことができるのはないか思います。

3. 最も重要なことに優先順位をつける - Prioritize what's most important

限られた時間のなかに加えて、自分にある程度の経験・スキルがある前提で新しい文脈に乗ると、過去の能力を有効活用し適度なリターンを期待しながら行動をする傾向があります。

時間投資と適応・習得度が比例関係にあるのであれば、過去の見聞のなかから最もリターンが大きくないものをアンラーンすることで、効率よくフルコミットできるのはないかと思います。

自身のデザインスキルの視覚化とマッピング

時間投資に見合うアンラーニングするポイントを、見つけるためには自身のセットを棚卸しする必要があると思います。

転職をアンラーニングの機会として捉えるのであれば、異なる環境において視覚化する場合、一番簡単なのは新組織の評価設計に照らし合わせることです。
また職種・異業など自分がシフトしていく形のきっかけであれば、その領域で使われているモデルなど参考にマッピングできます。

デザイナーの場合は、他の職種よりも比較的、経験・スキルをいくつかの要素の切り出すことは比較的しやすいと思います。

下記はHCD-Net 認定人間中心設計専門家及びスペシャリスト認定試験で使用されているコンピンタンスマップです。
自分はこのようなものを複数組み合わせて使用し、現時点で自分のスキルをマッピングしていくことで、得意な部分・投資が必要な部分を視覚化していきました。

HCD専門資格コンピタンスマップ(2022年度)
https://drive.google.com/file/d/1infg-prjIcplr556fpGlFMY5DwJfppxe/view

4. コンフォートゾーンから抜け出す - Get out of your comfort zone

変化がないということは進歩していないという心理から、自ら別の環境に入っていくという行為です。このステップはよく知られていますが、自分が行っていたことに関してはステップ2に近いと思います。

巻き込んでいく / 込まれていく

個人レイヤーでの違うことをすることは比較的行いやすいです。一方で環境そのものに違いをもたらし続けてくれるようにするには精神的ハードルを前に足踏みをしてしまうケースはあると思います。

そのような場面においては、声をあげていくことと、まずはやってみるということで自らで巻き込まれていくことで、状況を作っていきました。

自分が所属している組織では、「健全な無茶振り」「えいや」という風土があり、誰かにまずはやってみてもらう機会が多く、自分もその流れにおいて機会を得ることもできています。そういったチャンスを得た時にまずはやってみるという精神(YOLO)で向き合っていきました。

まとめ

デザイナーのためのアンラーニングをテーマとして、なぜデザイナーにも必要なのかや、私が実践したことについて書いていきました。

個人的にアンラーニングとは、捨てるものと残すもののバランスだと思います。

全てを捨ててしまうと、アイデンティティや残すべき特性も失うこともありますが、あえて自分が自分の本質だと思うところのみをアンラーンすることで得ることが多いケースもあると思います。
Xデザインの浅野智氏は必殺技を捨てることで、新しいことに順応できる体質を作ることができると言っていたり、ビジネスデザイナーの濱口秀司氏が、デザインシップ2022の登壇で言っていた1:99とは偶然に向かうためにもつ、ウルトラ必殺技と必殺技の割合でもある(6)の、必殺技を大量にもつためにも有効なのだと思います。

身の回りに溢れている方法はいくつもあると思いますが、自身に必要な方法・ツールを選び、取捨選択するためのバランスをつくっていくことがアンラーニングの核になるでのはないかと思います。

最後に

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この記事は株式会社ゆめみのYUMEMI Design Advent Calendar 2022の記事として書いています。もし興味があれば他の記事も読んでみてください。

参考文献

  1. Amanda O'Callaghan "A field guide to unlearning" (2019)
    https://www.atlassian.com.rproxy.goskope.com/blog/productivity/a-field-guide-to-unlearning

  2. 清原豪士『”アンラーニング”の絶対公式』(2022)
    https://note.com/tsuyoshikiyohara/n/nbabd2fa6fb1c

  3. 『アンラーニングの必要性とは?人材が成長し続けるために必要なアンラーニングについて解説する』https://schoo.jp/biz/column/855#section01

  4. かねこつよし『“広義のデザイン“が組織に根付き、“広義のデザイナー“が役目を終える時 -2022年のデザイナー市場動向-』https://note.com/osi_ire/n/nab08e43393b4

  5. チャールズ・デュヒッグ『習慣の力』(2019)

  6. 濱口 秀司『ビジネスデザイン』 Designship 2022(2022)

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