バス
ポーン。
車内アナウンスの音がなった。
(おかしい。絶対におかしい。)
「本日は、〇〇高速バスをご利用いただき、誠にありがとうございます。」
(東京から京都までは、8時間かかる。)
「・・・でございます。途中道路状況などにより・・・」
(乗客は僕を含め全部で7人。)
「・・・やむを得ず急停車することもございますので、シートベルトの着用を・・・」
(東京から京都へ向かう高速バス。乗車時間は約8時間。乗客は全部で7人。)
「・・・それでは皆さま、どうぞよろしくお願い致します。」
(・・・なんでこの状況で、この人は僕の隣の席に座っているんでしょう。
確かに全席指定席だし、もしかしたらこの空席状況にもかかわらず、友達でもないもの同士を隣にセッティングするという、悪徳バス会社のいたずらなのかもしれない。多分ないと思うけど。いや、でもですよ、彼はどうみてもこんな高速バスの座席指定のようなものを忠実に守るほど真面目な男には見えないし、というか金髪だし、腰パンだし、どちらかというと生徒指導室への出入りがかなり多いタイプでしょうよ。
しかも、さっきからめちゃくちゃ窮屈そうにしてるし。
いや・・どうぞ!?どうぞお好きな席に行ってください!!どうぞ!
僕が行きましょうか?全然行きますよ僕は!だって、こんなにも席が空いてるんですからねえ!目をつぶって移動して座ったとしても、絶対誰の隣にもなりませんよ!
一人四席使っても大丈夫ですよ!いや八席いけるかもしれませんね!二列を一人で使えますよ!だって、こんなにも席が空いてるんですからねえ!
というか、本当に僕行きますよ。先に乗ってた僕が移動するのはおかしいと思いますけどね。いいですよ。なんで一番後ろの席まで、わざわざあなたが来たのか分かりませんけどね。入ってきた時見てなかったですか?空席だらけですよ。むしろ空席しか見えなかったはずですよ!運転手さんも言ってましたよ。入ってきた人みんなに言ってましたよ。乗客7人なんでお好きな席座ってくださいね、って。あなた、はい。って言ってましたよね?聞こえましたよ一番後ろからでも。びっくりするほど声高かったからねえ!見た目とは裏腹すぎますよねえ!
はいはい行きますよ。行けばいいんでしょ。行きますから、
その、前の座席の上に伸ばしている足をどけてもらえませんかねえ!ねえ!何してるんですか?他の席で思う存分伸ばしましょうよ!腕まで伸ばせますよ!全部伸ばせますよ!ほら!全然寝る態勢が定まってないじゃないですか。他の席行ったら我が家のように寝れますよ!他の席見てください!もはやワンルームマンションですよ!ほら!
どうしようかなほんとに。いや、ちょとまって。あの前の方の女の人・・・
なんでずっと立ってるんですかあ!!違いますよね?ちょっと上の荷物取ろうとしたわけじゃないですよね?だって、その全ての荷物が入ってるリュック、背負ってますもんねえ!めっちゃ重そうですよねえ!自分の体重より重そうですよねえ!山登りですか!?京都に!?あんまりいませんよそんな人は!フラフラじゃないですかあ。せめて・・せめてどこかに掴まりましょうよ!みてるこっちが怖いんですけどお!
はあ・・まともな人はもう僕と、残りの大学生四人グループだけですか。あのグループはいいですよね、本当に楽しそうで。そりゃこれだけ空いてるバスに卒業旅行で乗れたら、ラッキーですよね。
あ、隣の男の人、やっと移動してくれましたね。よかった。よかったよかっ・・
え?え・・?
そこ同じグループううう!?!?嘘ーーーン!!え?どいうこと??こんなに空いてるバスで、なんで一人グループから離れて座ってるんですかあ?いや、それは別にいいですよ。なんで僕の隣なんですかあ!? いや、君達もおかしいよお!!なんで何も言わなかったんですかあ!
おかしい。絶対におかしい・・)
ポーン。
「大変長らくのご乗車お疲れ様でした。京都です。お降りの際、お忘れ物などにご注意ください・・・」