暗黒の呼ぶ声が聞こえていた
ほら、ここまで来てしまえ。堕ちてしまえ。何も考えず、我に呑まれてしまえ。我を受け入れよ。さすれば楽になる。
そうやって、暗黒がずっと僕を手招きしていた。呼ぶ声は常に聞こえていた。
いっそ呑み込まれてしまおうか。そうすればこの苦しみから、恐怖から、絶望感から解放されるのだろうか。
堕ちかけた思考を引きあげてくれたのは、触れたらシャリンと音を立てて溶け崩れそうな儚い、でも確かにあたたかくやわらかい一筋の光だった。たとえ離れていたとしても、ずっと傍に在るものだった。……いや違う、見えなくなっていただけで、端からいなくなったりはしていなかった。そこに居続けてくれていたのだ。
それなのに、忘れかけていた。
暗黒があまりにも仄暗く、底の見えない大きな渦だったから。
僕の手には余るものだったから。
でもきっと、これからは大丈夫。
光を掻き抱いて、内側からゆったりと照らされたから。
いつでも繋がりを感じられるから。
この先僕は、何度でも呑まれかけるのだろう。あの暗い渦が間近に迫る度に、地を這うような呼び声が耳元で囁く度に。
その都度僕は、何度でも繋ぎ直すのだろう。あの一筋の光、たったひとつの救いの光と、僕自身とを。
そうして僕ら、生き抜いてやろう。なす術無く、濁流に呑まれたとしても。暗黒が、僕らの消滅を望んでいたとしても。