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おばあちゃんの手|撮影日誌

たった一枚の写真ですが、
『のこすこと』でこんなにも素敵なことが起き、
大事なことに気づくきっかけになりました。


高知県の東側、安芸市の小高い丘の上で文旦をはじめ、
季節季節の柑橘を栽培・管理する大北果樹園さん。

2020年春先に知人を介して、
現園主 大北 和さんと出会いました。
その際、意気投合したことをきっかけに果樹園の撮影を依頼していただき、
2020年5月から毎月果樹園に訪問しています。

5月の花粉付けから、12月の収穫、そして1月の出荷準備まで
文旦の春夏秋冬の成長を
間近で見届けさせていただきました。



現在、文旦を楽しむ期間ということで
2021年2月13日、20日、27日、3月6日の4日間
同市にあるゲストハウス『Hostel東風ノ家』さんにて
様々なイベントを行っています。

その中の一つの企画として
一年を通してわたしが撮影した写真で写真展を、
という園主たっての希望もあり、
『文旦の成長をめぐる写真展』を開催。

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春夏秋冬、4枚ずつ(冬のみ5枚)
園主とともに写真を選び、
ワイド四切の見応えあるサイズに印刷。
一枚ずつ情景を思い出せるように
ほんの少し言葉も添えました。


趣ある古民家・東風ノ家さんの室内に写真を一枚ずつ展示。

上の写真は冬の写真を設置した廊下。
今ではとても珍しい青い壁。素材は土佐漆喰だそうです。
美しいブルーに、収穫した黄色い文旦がとても映えています。

私が一年通してこだわったことは
あくまでも自然な姿を撮影するところ。
なので、どの写真もセッティングなどせず
その日その瞬間のありのままの姿を撮影しました。
実際に花粉つけや剪定、収穫作業も行い
撮影だけで感じるよりずっと貴重な経験となりました。


そんな一年を通して、この写真展のために用意した写真は19枚。

そのなかにある冬の写真の一枚に、
前園主である和さん(現園主)のおばあちゃんが
文旦を仕分けしている写真があります。
それがこのおばあちゃんの手の写真。

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おばあちゃんの手
選果機にかけて
サイズをわけていきます
おばあちゃんの目利きが光る瞬間

これは私が今回どうしても展示に入れたかった写真です。

50代の時に果樹園の園主だった旦那さんが亡くなり
その後、ひとりで果樹園を切り盛りしてきた和さんのおばあちゃん。

30年以上おばあちゃんが大切にしてきた果樹園は
2018年の9月から孫にあたる現園主・和さんが引継ぎました。

『おばあちゃんが守ってきた果樹園を守りたいと思った』
中学時代にそう決意したと和さんは言います。

園主は和さんに引き継いでもらいましたが、
まだまだ現役で作業も行うおばあちゃん。

わたしがおばあちゃんとお会いしたのはこの日で2回目。
この日は一緒に果樹園に行き、追熟した文旦の搬出作業をしました。

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その作業をしている最中に文旦の木に軽く手をかけ、背筋を伸ばすおばあちゃん。
身体の具合を問うと、長年の作業で腰痛を患ったと言いました。

自分がずっとこの果樹園で汗水流して栽培してきたこと
今と違って機械もなかったので、膨大に成る果実を一つずつ手作業していたこと
おじいちゃんの守ってきた木々を自分が守ってきたことなど
何気なくたくさんのお話をしてくれていましたが
それだけでも充分、果樹園への想いが伝わってきました。

そんなおばあちゃんの手が、
長年仕事をし続けた勲章のような手だなぁ、

そう感じ文旦に触れている瞬間をさりげなく撮った一枚です。

手を撮るのはよくある写真、
ありきたりの写真と思う方もいるかもしれませんが
春夏秋冬の果樹園に訪れ、一緒に作業して
文旦を育てるその工程と作業量、そして広大な土地を知り
その作業をおばあちゃん1人でしていたことを考えると
私にとってはこの写真は
とても思い深い一枚になりました。

しかし、その想いはこの後さらに増幅することになります。

それは和さんの何気ない一言がきっかけでした。

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2月12日、イベント開催前日。
写真展の設営のため安芸市へ。
この写真を壁に貼ったあと、和さんはこう言いました。

『これ、選んでる時は気づかなかったんですが、
おじいちゃんの番号です!おじいちゃんの名前も入ってるし!』

コンテナに書かれた”705”という番号。
これは生産者が出荷するときのために一人ひとりがもらう生産者番号だそうです。

文旦を選果機に入れ、出荷前の仕上げを行い、
出てきたところをそれぞれM、L、2L …といった各サイズ、
それぞれコンテナに分けていきます。

そこでおばあちゃんがそのサイズが間違っていないか、
文旦の質はどうかと目を光らせていました。
文旦がある程度入ったらコンテナを移動させていましたので、
コンテナが揃っていることは本当に偶然のことで。

たまたま私が撮った一枚に写ったのが、
どちらも”705”番
そう、それは亡くなったおじいちゃんの番号、
おじいちゃんの使っていたコンテナでした。

和さんの言葉を受け、
鳥肌がぶわっとたち、熱い何かがこみ上げてきました。

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次の日の2月13日。
この日はイベント初日で、日帰りの果樹園の園地散策ツアーと
大北果樹園の文旦を使った甘味コースのイベントを開催。

イベント中盤に差し掛かり、
1人ずつこのイベントに携わった方々が挨拶していくなか、
わたしも挨拶に呼ばれました。

もとより前に出るのが苦手なわたしは、わたしは大丈夫と応えましたが、
すぐに考えを撤回し、みなさんの前に出ることに。

帰りに少しでもいい。
大北果樹園の全てが詰まった
あの写真だけはみてもらいたい。


そう思い、エピソードとともにあの一枚の紹介をさせていただきました。

”前園主のおばあちゃんが
亡くなった旦那さんの後を継いで女手ひとつで文旦に費やしてきた手と、
おじいちゃんの名前と番号、
そしてそれを全て受け継いだ現園主、和さんの育てた文旦。
大北果樹園の全てが詰まったあの写真だけでいいからみて欲しい”


イベント終了後、その写真の前にみなさんが足を運んでくれました。

その写真はいつのまにか『噂の写真』と呼ばれていました。

無事初日の行程が全て終了。
和さんから
『僕、あの話に泣きそうになりました。』という感謝とともに、言葉がつづきました。

『僕思ったんです。
おじいちゃんが”俺も写りたい”ってそう言ってたんじゃないかって。』
と。

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たまたま撮った一枚がきっかけで、
いろんな思いが交差し、それをまた受け取ってくれた方々がいて。

本当に貴重な体験。

たった一枚の写真ですが、
『のこすこと』でこんなにも素敵なことが起き、
大事なことに気づくきっかけに。

写真は撮るだけが全てではなく、
そこに想いを重ねること、振り返ることのできる
本当に素敵なものだとわたしは思っています。


わたしは何気ない写真がとても好きです。
構えて撮るだけではなく、
日常のなんでもない瞬間。
なんでもない表情が好きです。

記念じゃなければ撮る必要性がない、
そう思うかもしれません。
だけどそのなんでもない一瞬を切り取ることで
みえる、感じることがあると思っています。

今回を経て、わたしのなかで、
大切な思い出がまた一枚増えました。

あの写真は写真展が終了した後、
おばあちゃんに直接お渡ししたいと思ってます。

誰でも大切にしたいことがある。
日々の忙しい日常で霧がかかったように
見えなく、薄れてしまうこともあるけど
それを鮮明にのこすことができるのが、
写真だと思います。

何気ない日常に想いは重ねられている。

人の成長の分だけ、想いは深まっていくと。

わたしはそれを鮮やかに、
記憶をかたちにのこしたい、そう思います。


わたし自身も大事にしたい縁や人たちと一緒に
その想いを大切にできるよう、
これからも一枚いちまい丁寧に紡いでいきたいです。

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大北和さんとおばあちゃん


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shiori hatakenaka
2019年に発覚した潰瘍性大腸炎とゆるく付き合っている、見た目はちきん・メンタルありんこHSP気質の元看護師です☺︎今は元より好きだった【言葉と写真】で活動してます。私の発信が誰かの励みになれば嬉しいです。みなさまのサポートは、今後の発信や活動に使わせていただきます。