020 道徳観だけは分かり合えない
コロナ禍の中、世論は「感染対策優先派」と「経済優先派」に分裂した。
この2派の分裂は今でも続いているように見える。
コロナに限った話じゃないけど、人の「価値観」ってバラバラで、決して理性とか合理性でまとまることはないようだ。
でも、何とかならないものか?
若いころは「科学合理的に完璧な方法さえ見つけられればきっと人々はまとまるに違いない」なんて青臭いことを考えていた。
でも、違うみたいだ。
たとえAIが完璧な答えを出せる時代になったとしても、人と人は相変わらず言い争いをしていそう。
人には合理性だけでは割り切れない大切なものがある。
道徳基盤理論について
道徳基盤理論は、文化人類学的研究(Shweder& Haidt, 1993)や社会心理学的研究(Haidt, Koller, &Dias, 1993)等の影響を受けながら、ジョナサン・ハイト(Jonathan Haidt、1963年 - )等道徳心理学者により、1990年代から発展した理論である。
この理論は、邦訳もされたハイトの『社会はなぜ左と右にわかれるのか』(The Righteous Mind)により、広く知られるようになった。
ハイトによると「道徳観」は生まれつきのものであり、人は何か道徳的な逸脱場面に出会うと直観的にこの道徳観に基づき判断するとのことだ。
その道徳観は次の6つに分かれていると言う。(表現は全部私の言葉に変えています。)
1.弱者への配慮タイプ:危害を被る側か与える側かで判断する
2.公正・公平タイプ :公正か欺瞞かで判断する
3.忠誠心タイプ :忠誠か背信かで判断する
4.権威尊重タイプ :権威を尊重するかしないかで判断する
5.品位タイプ :上品か粗野かで判断する
6.自由タイプ :自由か抑圧かで判断する
これらのタイプは、1人に対して1つじゃなくて、誰の中にも多かれ少なかれあり、比率が人それぞれで異なるらしい。
その比率は政治思想に影響を与えるようだ。
次のグラフは、YourMorals.orgによる132,000人の調査によるものだ。(The Righteous Mind、Fig。8.6 、p 187、2011年 www.)
簡単に説明すれば次のとおりだ。
革新系(liberal)は、弱者への配慮(care)と公平さ(fairness)が高い。
保守系(conservative)は全てが平均的である。
道徳観は決して説得されることはない
繰り返しになるけど道徳観は生まれつきである。
つまり「変えることはできない」。
もちろん、人材育成においても「過去と人は変えられない」がテーゼなわけだから、この話は別に目新しいものじゃない。
でも、テーゼの続きである「未来と自分は変えられる」については、若干のフレーム修正が必要になる。
「自分の道徳観も変えられない」
これも付け加えなければならないようだ。
たとえば、私の場合、いじめ報道をみると怒りが湧くし、大谷翔平とか日本人の活躍には心が躍るし、自分をコントロールしようとする人には怒りが湧く。
これら自分の性分を、万人に共通の「当たり前」のことと思っていたけど、どうもそうじゃなさそうだ。
これが私の道徳観ってことなのだろう。
周囲を見渡せば、いじめる人はいるし、日本人の活躍にまったく興味の無い人もいるし、人にコントロールされた方が楽だと思っている人もいる。
私の道徳観は決して「当たり前」なんかじゃない。
だからと言って、この性分を変えたいかと言えば、そんな気分にはまったくならない。
これが道徳観ってものなのだろう。
でも、このまま自分の道徳観中心でいいのか?
それを貫いて生産的か?
もちろん、そんなことは無い。
私なりの方策は次のとおりだ。
1.自分の道徳観はそのままで良い。
2.誰かの道徳観もそのままで良い。
3.でも総論(ゴールの共有)なら設定できる。
4.もし、総論が設定できたなら、各論は各々に任せる。
組織は「ゴールの共有」である
さて、道徳観は決して説得できない、できるのは「ゴールの共有」だけ、だとしたら、これは組織開発にも応用できると思った。
ということだ。
問題は「各論をどうするか?」だろう。
政治の世界なら諦めざるを得ないかもしれないけど、ビジネスはそうはいかない。
でも、これって意外と簡単で、「時間が解決する」んだよね。
道徳観は変わらないけど、各論との紐付けなら、状況変化により解けるということだ。
先ほど例に挙げた「マスクしない論者」も、いつの間にか激減している。
たぶん、以前は強く結び付いていた道徳観(自由至上主義)とマスクをするしないの判断が、状況変化によりほどけたのだと思う。
つまり、マスクと自由は関係ない状況になったということだ。
このことはすごく重要で、どんな道徳観の持ち主とも、状況さえ変われば各論の共有は可能ということになる。
つまり、説得よりも状況を変える努力が大切ということだ。
本日のブログをまとめれば次のとおりである。
道徳観を変えることはできない。それは相手も自分も。
道徳観は感情に結び付いており説得行為は無駄。
道徳観は価値観より深層的で不合理である。
道徳観はミッションに反映される。つまり、ミッションは同じ道徳観の持ち主としか共有できない。
道徳観に紐づいている限り、各論は共有できない。
ただし、道徳観と各論の紐付けは状況変化により解ける。
『自律型組織をデザインする』好評発売中!!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?