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077 デジタル時代における中小企業向けOJTの考え方・やり方


人材育成とは何か?

OJTとは人材育成の一手法なんだけど、そもそもその前に「人材育成とは何か?」を整理しておこうかな

私の人材育成の定義は次のとおり

  1. 外部環境への適応:社会や組織の変化に適応する

  2. 内面の成長:自分を理解し、必要な知識やマインドを蓄える

  3. 上記2つを調整し続けること

なんだか孫子の「敵を知り己を知れば百戦危うからず」みたいだけど、人の成長は外部適応と自己理解が基本なんだろうね

さて、今回はもっとも一般的な人材育成手法(外部適応と自己理解の調整)であるOJTのやり方を説明する

と、その前にOJTの効果そのものを批判的に見ている経営者が多いので、なぜそうなるのか?、そこからスタートしたい

「人は育てられない」と語る人の傾向

人材育成の仕事をしていると、けっこうな割合で「人は育てられない」と語る経営者や幹部に出会う

どうしてそんな風に考えてしまうのか、私の見立ては次のとおり

  1. 現状維持バイアス:人は変化しないという無意識の思い込みがある

  2. 固定マインドセット:人の能力は先天的に決まっているという固定観念がある

  3. 合理化バイアス:自己防衛しやすい性格、過去の失敗経験による無力感から「人は育てられない」とリスク回避する

  4. 自己決定バイアス:上記の思い込みを強化する情報ばかりに集めてしまい、メンバー一人ひとりの可能性に気づこうとしない

OJTがうまく行かないトレーナーの特徴

上記のような人材育成に否定的な人はともかく、人材育成に理解ある者でもOJTは簡単にいかない

そうなる理由は次のとおり

  1. 価値観ギャップ:トレーナーとトレーニーの世代差やそれに伴う価値観の違いがお互いの理解を阻む

  2. 学習志向のギャップ:若者はテクニカルスキル志向、ベテランはヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルへの志向性が強く、支援方針の衝突につながる

  3. 技術的ギャップ:世代ごとに慣れ親しんたツールやスキルが違うため、どちらかに合わせるとどちらかがストレスになる

  4. 権威バイアス:たとえトレーニー志向の育成をしたくても、上位者から「成果達成圧力」がかかれば、そっちを優先してしまう

  5. 自己中心バイアス:自分のできること中心に「押し付けるOJT」になりトレーニーのやる気を削いでしまう

  6. 内集団バイアス:既存社員=内集団、新人=外集団、と捉え「最近の若者は…」「Z世代は…」といったステレオタイプな偏見を持つ

  7. 認知的不協和:OJTがうまく行かないとトレーナーだけでなく組織全体に「認知的不協和」が生じ、「こいつらは覚える気がない」などと合理化・正当化がされる

これらを読んで、何となく察した人もいるだろうけど、これらはトレーナーの資質に問題があるというより世代間ギャップである

言い方を変えれば組織構造に問題がある

OJTのできない組織の特徴

実はOJTがうまく機能するかどうかは組織が機能しているかどうか次第である

活気ある組織であれば自然にOJTができるのに対し、そうじゃない組織は努力してもなかなかうまくいかない面がある

OJTのできない組織の特徴は次のとおり

  1. トップダウン組織:トップの考えだけが重視され、一人一人の資質や可能性に目を向けない

  2. 共通目的(経営理念)がない:何のための組織か?が不明確で、一人一人に成長の指針を示すことができない

  3. オールドビジネス:機械的作業中心のため、育成=形式知の伝達、という発想しかない

  4. 文鎮型組織:経営者以外は全員プレーヤー、役職があってもプレイングマネージャー、人を育てる責任感を誰も持たない

  5. 世代の断絶:先輩が後輩の面倒をみるという習慣や文化が途切れている

  6. 人材の自転車操業:忙しい→育てる暇がない→定着率悪化→ますます忙しい、の負の連鎖に陥っている

  7. 心理的安全性の欠如:上記が原因で、組織全体が人に関わる雰囲気にない

どうやったらOJTはうまく行くのか?

人はもともと自ら育つようにできている、そこに周囲のサポートが加わればさらに育つ

これがOJTの原理である

なのに多くのOJTがうまくいかないのは、ここまで書いたとおり多くの組織問題があるからだ

その問題さえ無くせば、無理にOJTなどしなくても自然に人材育成文化が育まれ、人は勝手に育つようになる

とはいえOJTはもっとも効率的な人材育成手法なので組織風土改革とともに進めたら良い

そのプロセスは次のとおり(起業家段階→共同体段階レベルの場合)

  1. 起業家段階を過ぎたらトップはトップダウンをやめる決意を持つ(逆に言えば起業家段階ならトップダウンのままで良い)

  2. トップダウンからの脱却策として、まず経営理念(ミッション・ビジョン・バリュー)を持つ

  3. 次に心理的安全性を高める策として、組織構造、ミーティングのやり方、マネジメント手法を見直す

  4. メンバーの思い込みや固定観念を修正するため、立ち話や1on1など、健全なコミュニケーションを増やす仕掛けをつくる

  5. トップはミドル候補に対してOJTを行い、若手に対してOJTできるミドルに育てる

  6. ミドルがある程度育ったら、さらなるミドル育成と若手育成を兼ねて全社的OJTを推進する

デジタル時代のOJTの考え方・やり方

ところで昨今なぜ「OJTは難しい」という声が増えているのだろう

たぶん仕事がデジタル化された影響だろう

アナログ時代のOJTは「見せる」→「やらせる」→「振り返る」だった

ところがデジタル時代では、「見せる」の段階で躓いてしまう

要するに仕事を見せることができない

それはデジタル時代の仕事の大半が「パソコンとの対話」で出来ているからだ

もちろん先輩の隣に座れば、パソコンとの対話風景を見せることできるし、実際それをしている会社もある

でも、そのやり方でどれほどの効果があるのだろうか?

業界全体が画一的なスキルでまとまっていた工業時代ならともかく、知的生産性を高めなければならない時代に先輩のやり方をインストールすることが果たして良いことなのか?

まず、先輩のやり方がベストプラクティスなわけじゃない

へたしたら20年前のやり方を押し付けられる恐れがあるから、先輩のやり方を教わるのは非常にリスクがある

それからデジタルネイティブ世代ならパソコンとの対話スキルくらい普通に持っているので、そこはあまり力を入れる必要もない

じゃあ先輩は何をしたら良いのか?

はっきり言うけど「目標設定」さえすればよい

「目標設定」なんて言うと、昭和の人は「ノルマを課すこと」と勘違いしがちだけど、もちろんそんなんじゃない

若手の「成長目標」を設定してあげることだ

「成長目標」の設定は次のようにやる

先輩:後輩くん、この会社でやりたいことは何?
後輩:マーケティングでしょうか…
先輩:そうえば大学のゼミでマーケティングやっていたんだよね、どういう分野が得意のなの?
後輩:ええ…市場調査ですが…、ゼミでやっただけなので当社に役立つか自信ありませんが…
先輩:市場調査かあ…うちは営業部だけどそういうことあまりしないしなあ…、そうだな…顧客データから自分が訪問したい先をピックアップするなんてどうですか?
後輩:はい、それならできそうです。ピックアップの基準はどう考えたら良いのでしょうか?
先輩:受注可能性や今後の拡大可能性かな、なにより後輩くんの訪問意欲の湧く先が大事だね。一覧表にしてくれたら、明日、どういう仮説でそうしたのか聞きます。その上で一緒に戦略を練りましょう。よろしいですか?
後輩:今日一日なんとかやってみます。明日はよろしくお願いします
先輩:じゃあ私は外出するけど、いいかな
後輩:分かりました
※正味15分程度

筆者

どうだろうか?

デジタル時代の人材育成は「1on1による目標設定」と「手段は自分で見つける」が基本なんだよね

OJTというと、とかく手段にこだわりがちだけど、手段ならネットの中にいくらでもころがっているから、実際にやる者に任せた方がよい

トレーナーはそれをサポートするのが役割であり、質問されたら答えるけど、聞かれてもいないことを教える必要はない

これがデジタル時代のOJTのやり方である

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