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人を惹きつけるかおり
つめたい空気を通りぬけて、バスにのる。
目の前に座っていた人が立ち出口へ向かった。やった、とつぶやき空いたその席に座る。その瞬間。ぶわっと優しいかおりにつつまれた。
あ、これやばい。直感的に思った。やさしくてあたたかくてドキドキして、いつかの何かを思い出しそうなかおり。すきなかおりだ。きっとさっきの人のもの。
どんな人だっけ。ついさきほどの記憶をたどっても若い男性だったことしか覚えていない。こんなすてきなかおりをただよわせるあの人を、もっと知りたいと思った。
かおりは人に感情を与える。無性に泣きたくなるかおりや意味もなく恥ずかしくなるかおりをまとう人に出会ったことがある。
かおりは自分の人生のワンシーンを掘り起こす。ときに恋をも与える。
男女問わず、その人からただようかおりだけですきになりそうになったことが何度もある。付き合いたいわけじゃない。ただかおりがその人のことをもっと深く知りたいと思わせる。
でもほとんどはすれ違うだけの人。ふり返って、どんな人だったんだろうといつも思う。どこで何をして暮らしているのか。何に心をおどらせ何に涙をながすのか、と。
わたしも人を惹きつけるかおりをまといたい。そう思いながら目を閉じた。