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働きたくなる店の店長とは

ㅤ店長って孤立しやすいんだなぁ。いろんな店でバイトを経験するうちにそれはわたしの中だけの定説になった。

「シフトの組み方おかしくない?」
「小さいことまで口出ししてくるからうざい」

ㅤバイトも社員も集まるとたちまち店長への不満を漏らす。店長の話は全員の共通項だから話しやすいということもあるのだろう。

ㅤわかりやすくいえば店長は点だ。そして全く別の場所に円がある。それが店長以外の従業員だ。

ㅤ円から弾き出された店長は円のなかで交わされる会話には気づかない。陰口を言われていても店長に伝わることはほとんどなく、店長自身は円のなかにいると思っている。

ㅤだれかが円から離れて点に歩み寄らない限り、円と点の距離はどんどん広がっていく。

2弾き出された店長と中心にいる店長

ㅤそう思ったのはいまのバイト先の店長に出会ったときだった。この店長は店のなかで孤立している…のではない。従業員たちの円の中心にいる、めずらしいタイプなのだ。だからこそ店長が孤立しやすい理由がわかった。

ㅤわたしは今年の8月から京都・祇園のカフェで働いている。来年には大学を出るため半年しか働けないのだがこころよく受け入れてくれた。

ㅤカフェ好きのあいだでは全国的に有名な店で、休日には順番待ちの客が列をなす。それでも店内の和やかな雰囲気が途絶えることはない。

「あ、ごめんね!」
「ありがとっす!」
「疲れたねぇ」
そんな言葉がゆきかう。

ㅤ新参者のわたしはその空気感に驚くとともにそれは店長のおかげだと気づいた。店長はいつも“ちょうどいいゆるさ”を持っているのだ。

ㅤ客が多くなるとたいていの店はてんてこ舞いだ。以前働いていたパン屋は忙しくなるとわたしも含めてみんな苛立っていた。あわてて、ミスをして、腹がたって。苛立ちが接客にも表れ、お客にも伝染してしまっていた。

ㅤおいしいものを食べてほしい人とそれを食べたい人が集まる楽しい場所であるはずなのに。

ㅤ一方、今のカフェの店長はよく言う。
ㅤ「ちょっと待ってもらいましょか」。
ㅤ満席の状態でお客が来店したとき、作るのに時間がかかるコーヒーを作り忘れていたとき。全く苛立ちを見せずに、うふふと笑いながらそう言われたらこちらも肩の力が抜ける。

ㅤ店長のそのこころの余裕が従業員全員に余波していることは言うまでもない。

ㅤどんなに忙しくてもみんな「ありがとう」と「すみません」は欠かさない。誰かがお皿を割ったらまず「大丈夫?ケガしてない?」と声をかける。疲れたときはロスになったケーキをつつく。

ㅤとてもいい空気感がいつもそこにある。

3ちょうどいい立場

ㅤこの店の店長が“ちょうどいい”と思う点はほかにもある。従業員に圧力的な態度をとらないことだ。

ㅤたとえばわたしが会計の際、クレジットを使ったお客からサインをもらうのを忘れてしまったとき。

ㅤ当たり前だが店長に「気をつけてね」と注意される。だがそのあと長々と説教が始まることはない。店長は「まぁわたしも忘れちゃうときあるんだけどね」と言って、にひっと笑う。

ㅤするとわたしのこころにはミスをしてしまった申し訳なさと、こんなすてきな店長に迷惑をかけたくないという気持ちが残る。

ㅤ長々と説教をされるとあとに残るのは申し訳なさよりも「はぁやっと終わった…」という気持ちだ。

ㅤ店長というと店をまとめるリーダーで、例えるなら三角形の頂点に立つべき役目のように思っていたが違った。

ㅤ店長が立つべき場所は円の真ん中だ。従業員がつくる円の真ん中。ほかの従業員たちと同じ目線に立ち、目を配り、そしていい影響を与える役目。それが働きたくなる店の店長なのだろう。

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