上司のカードが使われていた話
ブラック企業に勤めていた頃、仕事は出来るけどちょっと変わってる上司がいた。
エンターキーをターン!と恨みでもあるんかというくらい強く押し酒を飲む事を「飲みニケーション」と言うあの上司。
上司は忘れ物が激しい。
よく忘れるのに電車に乗ると必ず網棚にカバンを置いていた。
「ぬきさんのも置く?」を聞いてくれるが私はいつも断っていた。
大事な書類や貴重品を手から離す不安や、手に持っていないと絶対忘れる自信がある。
あとそもそも背が低くあそこに届かない。
私にとって網棚は棚ではなく天井だ。
ある日会社に行くと発狂して汗まみれのただならぬ上司がいた。もう大慌て。隣で社長が俯いてる。
なんかあったんだ。と思ったけど「はいざーまーす」と挨拶して仕事をした。
「自分が悪いんでしょ。電話して探すしかないじゃん」と社長に言われている。
なんか無くしてる。
すると「ちょっといいかな」と言われた。
えー私?私??何もできないけど聞こうか?
「昨日呑んで帰って電車の網棚にカバン忘れて無くしたんだよね!!!」と
うんうん。やりそう。
いかにもやりそうなミスだ。
いつかやると思ってた。はい。それで?
「会社の書類とか財布とか入ってるの。駅に電話してもどこにもないって言われるの」
そうだろうな〜一晩経ってるし見つからないと思う。と思いつつ上司なので「ヘァ…」と一応気の抜けた返事だけしておく。
「じゃあ駅に電話するしかないんじゃないですかねぇ…」とさっき社長が言ってたことを私もそのまま言う。
悔しそうな顔をしてまたあちこち電話をしだした。
事務の先輩は朝からずっとこのやりとりを聞いてるのか無視である。
危機迫った上司は声が馬鹿でかいので電話の声が全部ぜーんぶ聞こえてくる。
もう私の耳が限界だ。耳栓が欲しい。この際ティッシュでもトイレットペーパーでも何でもいいからぶち込みたい。
すると上司の携帯が鳴る。
[あ、あったんだ]と一同は思いこの雑音が終わる事にホッとすると【上司のクレジットカードが使われている】という内容の電話だった。
上司ブチギレ。
今すぐそれを阻止しろと偉そうに言っている。
阻止もなにももう使われたよって電話なのでは?よくわかんないけどあとから請求しないって出来るのかなと思っているとまた大声が聞こえてくる。「そんな…2枚?あのねぇ僕は困ってるんです!早く何とかして下さい!!」とめちゃくちゃ怒っている。
2枚ってなんだろう。どうしたのか聞いてみると
「大阪行きの新幹線のチケット2枚買われてる!おかしいよね!すぐ犯人わかるのに!」と言ってた。
それで犯人わかるかな…なんで?
「だって乗ったらわかるでしょ」と言っていた。
「金券ショップとかで売るんじゃないですか?」と言うと目がカッと開いた。
怖い…なんかの扉開けちゃった。死の七日間で火の光線がカッとなった瞬間くらい迫力ある。
すぐに電話して「金券ショップに売られてるかも!早く探しても!こっちはカード盗まれてるんだなも!!!」とめちゃくちゃ怒ってる…
社長が呆れて「自分で忘れた事でそうなってるんだから八つ当たりするな。酒を飲みすぎてるせいだから1ヶ月禁酒ね」と突然罰ゲームが始まった。
その後ホントかウソかわからないけど1ヶ月禁酒は守り、荷物を網棚に乗せる事は変えずまた忘れ物をしていた。
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