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超年下男子に恋をする51(嫉妬と疲弊と退職と)

 その後、カリン主催のお別れ会メンバーで、また遊びに行くという話になり、リョウにそのLINEグループに誘われた。

 私をはずしたカリンがいるグループに入りたくないというそれだけで、私は加わらなかった。

 それでもリョウはしつこく私を誘った。

 でも私は入らなかった。

 みんなでスポッチャに行こうという企画。ミワにもしつこく誘われたけど、私は頑として断った。

 彼に誘われてたらまだわからない。でもそんなことは起こらない。

 結局彼とは二人でお別れ会をしてから一度も会ってないし連絡もとってない。だからこそリョウやミワは私をしつこく誘うのだ。

 ミワは、何ならカリンを外してもいいとまで言った。

 でも私は本当にくだらない意地で断り続けた。

 それにスポッチャで一人だけ体力がついていけないのも心配だったし、こんなところで超年上の壁を感じてもいた。

 彼は若い犬のようによく動く。若い犬の散歩はたいへん。少しもじっとしてはいない。定期的に体を動かしたくなるという彼。いつも変な動きで私の周りでくねくねしてた。散歩に行きたがる犬みたいだった。

 いっそのこと犬みたいに加齢が早ければいいのに。そうしたら年の差なんてあっというまに埋まる。

 結局年齢のことを一番気にしていたのは私で、恋愛対象にならない理由をその一点にこだわってしまっていたけれど、それはちがう。もうわかってる。

 そもそも恋は落ちるものであり、本当に惹かれ合うならばそこは問題にならないし、単に私には落ちなかった、もしくは、落ちるのを避けられる程度のものだった。それだけだ。

「僕を見るといつも犬みたいにうれしそうにしっぽ振ってくる」

なんて彼は私に言ったけれど、私が若いときなんて、こんなもんじゃなかったし、今よりタガが外れていた。

 でも彼にはそれぐらいいってもよかったのかもしれない。

 だって好きなのは私だけだったんだから。相手にアクション求めるよりもひたすら自分がいくしかなかったのに、私はそれをしなかった。彼の意志を尊重するなんてかっこつけて、本当は自分がみじめになりたくなくて、我が身を守っただけだった。

 スポッチャでもなんでも行けばよかった。カラオケで昭和歌謡でも平成ソングでも好きに歌えばよかった。一周して若い子だって歌ってる。

 結局コロナでスポッチャはやってなくて、彼らはレンタカーで海に行った。

 彼とリョウの運転だったという。

 免許取ったらドライブに連れて行ってと言ったけど、彼の車に乗ったのはカリン。助手席と運転席は彼とリョウが交代で、後部席のカリン、ミワ、カイたちとは完全に別れて会話もなかったと聞いたけど、それでも私は悔しかった。

 さらにリョウから送られた海の夕景。

 波打ち際ではしゃぐ彼の写真。久しぶりに見たその姿。

 本当に海が綺麗で、どうして私はこの景色の中にいないんだと本当に本当に悔しかった。

 初めての海もドライブもどうして私じゃないんだろうと。

 本当にここに書いていても見苦しいぐらいだけれど、恋する脳は年齢関係なく愚かなものだ。自制心も理性もきかなくなる。見苦しさを表に出すまいと必死になることに労力を使い、ただただ疲弊してしまう。

 よくも私をコケにしてと彼を罵れたらよかったのに。でももう若い頃みたく独りよがりな自己憐憫には浸れない。
 どこかで自分ははっきりとわかっているから。彼がキャパオーバーしてたこと。未熟で余裕がなくて自分のことで精一杯で相手を気遣うこともできなかったこと。基本的に彼は何も考えてない。考えなきゃいけない状況になるとパニくって逃げる。はぐれメタル並みの逃げ足と遭遇率。
 そんな部分も含めて彼のことを愛おしいと思ってきたのだ。
 悪者になんてできないし、悪者になんてなれないほどに彼は超絶ポンコツ男子だ。鈍感でデリカシーもなくて気もきかない失言王子なのだ。
「あんな人どこがいいんですか?」というミワの言葉に非常に納得できるぐらいだけれど、どこというより「彼だから」としかいいようがない。彼だから好きなんだと。

 彼が辞めたら忘れられると思ってた。でも結局忘れられなかった。

 そのうちだんだんバイト自体辛くなってきた。

 もともときついバイトだったけど、どれだけ彼が私の空気清浄機だったかということを思い知らされた。

 カリンは女子高生大好き社員の遊び人半田に夢中で彼のことなどとっくに忘れてる。ミワも「もう、あんな人忘れましょ、つぎ!つぎ!」みたいな感じだし、リョウもそれほど寂しがってもいない。

 そもそもバイト最後の日、彼はリョウの前でもやらかした。

「彼、ぼくの名前まちがえたんですよ」

とリョウは困惑した表情で私に言った。

「まあ、彼はほら、中学時代からの親友の名前もまちがえるぐらいだし」

と私が一応フォローしたけど

「でも、バイト最後の日にそりゃないだろうって思いましたね」

とリョウは心底あきれていた。

 まあ、本当にもう、これは彼だからとしか言いようがない。

 何にしても私を含めてバイト仲間は過去の人。

 彼と働いた店も彼にとっては過去の思い出。自分が彼の過去の中にしか存在しないということは本当に耐えがたいことだった。

 私は彼のいない場所で彼を思い出すこともつらければ、彼がいないのが当たり前になっていく店で彼がいた痕跡が上書きされて消えていくのもつらかった。

 いずれにしてもつらすぎて、私はもう限界だった。

 そして彼が去ってから三か月後、私もバイトを辞めた。

 すべてが過去になった。

 何一つ風化しないまま。

 

 

 

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