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超年下男子に恋をする⑫(香水のにおいをかがされて、服をあてられて、舞い上がる)
この日のことを思うと今もやはり後悔が残る。
それは初めて一緒にお酒を飲んだ日。
でも二人きりではなかった。
バイト先の新入社員男子も一緒。新入社員女子の夕夏はこの日は来れなかったから三人で。
私は彼と待ち合わせの時間を早めにした。
この日も私は着物。
前からどこか昭和風味な彼に着物を着せてみたかった。書生さんみたいな感じがきっと似合う。着物の彼と一緒に写真が撮りたくて、着物ショップに連れていくことに。
彼も、着物で歩くのはやだけど、その場で着て見せるだけならいいですよとしぶしぶOKしてくれた。
待ち合わせ場所には彼の方が早く着いていた。待ち合わせのモニュメントの前じゃなく、少し離れたところにいた。「なんでそんなところいるの?」と私は言ったけど、たぶん恥ずかしかったのかもしれない。デートみたいだと思っていたのは私だけじゃなかったんだろう。
そして、昔常連だった着物ショップに行ったけど、残念ながら今は男性物の着物は扱ってないということで、着物を着せることはできなかった。
だけど、店を立ち去ろうとしたとき、私の横で彼もぺこりと店員さんたちに頭をさげてくれたのが、なんだかとてもうれしかった。
そのあと、時間はまだあるし、少しぶらぶらしようということで、私の好きなヴィレヴァンに行った。
エスカレーターで微妙な距離。
私は彼が好きなのでドキドキするところがあったけど、向こうは異性と二人で行動しているという、ただそれだけで、戸惑っていたようにも思う。
隣に立つと腕組みをしてガードの姿勢、そのくせ、店に入ったら香水売り場で香水を吹きかけた手首を私の前に突き出して、香りを確かめさせたり、それって彼氏がやることでは?と思うことを平気でやってくる。
友だちと前にも香水のにおいかがせあったと言っていたから、とくに意識もしてないんだろうけど、私はもう舞い上がっていた。
そして売り場にグレムリン……。私はグレムリンと化した元旦那のことを思い出しながら、「このギズモは絶対に狂暴化させたりなんかしない」と彼の横顔をじっと見た。
そのあと、彼がGUみたいというから付き合った。
彼が服を選んでいるのを見ているのが楽しくてずっと横にいたけれど、
「山田さんは、服とかみないんですか?」と言われ、
「どんな服が合うと思う?」と聞いたら、
「こういうのがいいかなぁ」とレディースの服を私に合わせてきた。
もうこの時点で完全に舞い上がっていた。
私たちは恋人同士なんかじゃない。
でもこれはもう付き合っていると錯覚してもおかしくないぐらいのシチュエーション。
だからやらかしてしまった……。
こんな時に酒など飲むべきじゃない。
ここで終わってればよかった。
ずっとこんなふうに恋人未満な距離感を楽しんでいたかったし、新入社員男子が待っている店にも行きたくない気分だった。
でもその人を一人待たせるわけにもいかない。
あっというまに時間が過ぎて、私たちは目的の店に向かった。
私は方向音痴で、私が決めた店なのに場所もよくわかってなくて、「え!行き方知らないんですか?」呆れられながらも、彼が携帯で探すのを頼もしく思いながら、後についていった。
そのまま迷っててもよかった。
あの時、舞い上がった心は、糸が切れた風船みたいにふわふわ飛んで、それはまだ今もこの思い出の中で浮遊している。
でもこの後の最悪なシーンを思い出すたび、舞い上がった風船がパーンと弾けて割れてしまう。その針で胸がチクリと今も痛む。