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超年下男子に恋をする⑬(酔って抱きついて首にキス。振られて玉砕の黒歴史)

 それまでがデート気分だったものだから、もう頭がバグってた。
 二人で待ち合わせの店に行き、先に来ていた新入社員男子の健の向かいに並んで座ったら、それはもう恋人気分もいいところ。

 しかも私の大好きな日本酒の飲み放題。

 私は浮かれていた。
 ただただ舞い上がっていた。
 そしてやらかしてしまった。

 まず日本酒は初めてだという彼に日本酒を飲ませると、やはり顔をしかめて飲みづらそうにしていた。私の飲んでいる日本酒の方が飲みやすいよと言うと、「交換しましょう」となり、彼は私の飲みかけを平気で飲んだ。

 彼は潔癖なので、ふだんはそんなことはしない。
 だからもう私の中で完全に「彼女」みたいな勘違いスイッチが入ってしまった。

 久しぶりの日本酒がすでに回っていた。

 飲み放題で日本酒を選びに行くために二階の席から階下まで降りなければならなかったけど、私はすでにフラフラだった。面倒見のいい兄貴分の健が彼に「しっかりめんどうみてやれ」と言ったので、彼は階段を降りる私の手をとる。

 もうそれからずっと手を離さない。

 これには彼も困惑顔だが、彼には先輩、私には後輩にあたる健が「いいからそのままでいろ!」と命じるので、彼はしかたなくそのままでいる。

 さて、ここからが私の記憶は飛び飛びだ。

 次の瞬間、気づいたら、尾てい骨を思い切り強打して、天井を仰ぎ見ていた。

 何がどうしてそうなったのか、まったく覚えていない。

 ただ自分が一番びっくりして、一気にサーっと血の気が引いた。

 着物姿の女がいきなり、すごい音で仰向けにすっころぶ!

 もう恥ずかしいったらない!!!!!!

 すぐ席についたけど、隣で「だいじょうぶですか?」という彼の顔もまともにみられなかった。

 そのあともろくに食べてない。

 そしてそんなに飲んでないはずなのにどんどん酔いがまわってきた。

 店を出て外を歩いたけれど、私はもうまともに歩けない状態。私を介抱する彼にほとんどしがみついていた。

 そしてあろうことか道に倒れこみ寝る……。

 彼に「起きてくださーい」って言われてるところ、なんとなく覚えている。

 そして健がコンビニに水を買いに行っているとき、最悪の愛の告白をする。

「好きだよー、愛してるよー」

「はいはい……」

 こんな感じだったと思う。

 「愛している」という言葉は日本人にはしっくりこないというか、いつも嘘くさいと思っていたけど、この時しぼりだすように言った言葉は、切なくなるぐらい本気だった。

 酔っていたので年齢のことは頭から消えていた。
 ああ、本当に本当に好きなんだと、この時言葉でそれを知った。

 あとから聞いたけど、私はなかなか帰ろうとしないし、歩いて帰ると無謀なことを言っていたらしい。

 覚えているのは、私を姫抱っこしようとした彼。タクシーに乗せようとしたらしい。でもタクシーに断られるぐらい私は酔っていた。

 はっきりいってこんなに前後不覚に酔うことなんて本当に久しぶりだった。

 そして私はとんでもないことをやらかす。

 私を正面から支えている彼に抱きつくような格好だったとき、首にキスしてしまった。

「うわぁ・・・・・・」

 その時の彼のぞわぁあああっとしたような声が耳に残る。

 今さら言うまでもないことだけど、彼は確実に童貞だ。こんなことには免疫もない。生理的に受け付けなかったのかもしれないし、ただただ衝撃だったのかもしれない。彼にとってはトラウマレベルに強烈な体験。

 そして、次に覚えているのはタクシーに乗っているところ。でも一人じゃない。彼の膝枕で手は恋人つなぎ。もうこの時はあきらめていたんだろうか。されるがままだった気がする。

 そして一度降りた後、一人別のタクシーに乗せられそうになって、私は帰りたくないとごねた。もうこうなると本当にただのたちの悪い酔っ払いだ。

 彼がめんどくさそうな顔をしている。

 そしてなんでそんな会話になったのかも覚えてないけど、私は自分が叫んだ言葉を覚えている。

「彼女にしてなんて言ってない。都合よく扱えばいいじゃん!」

 その時の彼の困ったような迷惑そうな嫌気がさしたような顔も、今も鮮明に脳裏に残る。

「僕、もう振ってますよね」

 ああ、そうか。とっくに振られていたんだ。

 あの冷たい目……。

 別れた旦那と同じ目だ。

『あなたのどこを愛せばいいんですか?』

 そう言われて離婚して、それから私はもう誰かに愛される自信もすべて失った。自分にいいところなんてあったっけ?と思うぐらい。呪いだった。

 でも彼に出会って、彼が私のいいところをたくさん言ってくれたから、私の呪いはだんだん解けて、また心から笑えるようになった。

 だけど、やっぱり、ああ、ダメだ。
 私を愛せないと言った元旦那と同じ目だ。

 一気に酔いが覚めた気がした。

 浮かれた気分なんてもう微塵もなかった。

 玉砕

 だけど、私たちの距離は、なぜかこの日を境にさらに近づくことになる。


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