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超年下男子に恋をする⑮(実家暮らしの年下男子の胃袋をつかむのは難しい)

 私は彼に餌付けを始めた。

 もともとは一人暮らしの新入社員女子夕香が、いつもジャンクフードばかり食べるのを心配してバイト後に作って行ったのがきっかけだった。

 彼もバイト後にいつもお腹が空いたと言っている。でも家に帰ればお母さんがご飯を作って待っているというので、あまりたくさんは食べれない。だからほんの少しだけ。

 初めは夕夏のリクエストで鶏大根を作って行った。

「おいしいですね!お雑煮」

「お雑煮じゃないよ!餅入ってないし」

 そんな会話の流れからその次は、彼の好きな山菜がたっぷり入ったお雑煮をもち巾着で作っていった。

「おいしいですね!煮物?」

「お雑煮だよ!餅巾着にしてみた」

 こんなふうに彼は自分が何を食べているのかもよくわかってない。

豚の角煮を作ったときは

「これ魚?」

「角煮だよ!豚肉!」

洋風の時でも

「ミートソースだ!」

「ミートソース入ってないよ」

こんな感じ。

 でも色々作ってわかってきたことがある。

「肉じゃがの肉が細かいですね」

 この時はたまたまコマ切れ肉を使ってたけど、彼がいつも比べるのはお母さんの味。

 たらこパスタを作ったときは

「お母さんは生クリーム入れない」

 沖縄風スパムおにぎり作ったときは

「しょっぱすぎる。食べたことない」

 まあ最近では若い男の子も舌が肥えてきたとはいえ基本は舌バカ。
 何より基準は母の味。

「食べ物で何が一番好き?」と聞けば

「やっぱりお母さんの味が一番です」と即答。

「それ、結婚相手には絶対言わない方がいいよ」と一応忠告した。

 しかも彼は実家暮らし。

 同じ年頃でも一人暮らしの大学生バイトの男の子の場合、簡単なものでも作ってあげたら喜ぶ。一人暮らしの社員も同じ。

 実家でいつもお母さんの手料理を食べている彼にはこの感激はわからない。

 よく男の胃袋をつかめというけど、効果てきめんなのは、やはり一人暮らしで自炊の苦手な男子。家庭の味に飢えてるようなタイプ。

 彼自身も「僕より他の人に作ってあげた方が喜びますよー」なんて言ってくる。

 それでも私は彼の食べてるところが見たくて、せっせと作って持って行った。

 彼は自分でも自慢するぐらい箸の使い方が綺麗。食べ方も綺麗。
 食べてるところを見ているだけで癒されるので、「私の癒し動画」と言っていつも撮影していた。

 ちなみに彼の好きな食べ物はほとんど把握している。
 お母さんが倹約家らしく、もやしをいつも食べてると言っていたけど、お母さんの作るものならなんでもいいって印象。逆に私がいくら手の込んだものを作っても、彼が好きなものを作っても、母の味にはかなわない。

 彼はお母さんとの食事の時間をとても大切にしている。

 飲食店バイトなのに日曜必ず休むのは、仕事をしているお母さんが家にいるからという理由。

 そこまでべったりなのは、過去の反抗期が理由かもしれない。

 高校時代は部屋にこもって家族とは食事もとらず、夜中家族が寝静まってから残り物を食べるというような日々があったという。

 その反抗期を恥じてるのが理由でお母さんとのご飯の時間を大切にしているのかなぁとも思った。

 そして、それがいいなぁと思ってしまった。

 私の元旦那は一家団欒を避ける猫みたいな人で、なかなかいっしょにごはんを食べてくれなかった。それがとてもさびしかった。

 だからお母さんのところに必ず帰るところが好ましいと思った。家でごはんが何より好きな犬みたいな彼に強く惹かれた。
 きっとこの人とだったら、毎日一緒にご飯を食べれたなぁと思った。

 毎日お母さんの味と比べられるのかもしれないけど、それすらも幸せな想像で、私はありもしない未来をつらかった過去に上書きしようとしていた。

 

 




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