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アンソロジーを編んでみた


というと、なんだか大層で烏滸がましいのですが笑、ただ好きな短編を集めてみました📚


私はもともと短編より長編が好きで、せっかく世界観に入り込めたと思った途端、終わってしまう短編が苦手でした。

でも、気づけば好きな短編も増え、頭木弘樹さんの『絶望図書館』や『ひきこもり図書館』でアンソロジーの魅力も知りました。

なので今回は、大好きな短編についてまとめてみようと思います。


好きなものを挙げてみたら、あったかくて心をふわっと救ってくれるような短編と、鋭く人間心理を描くどこかひやりとさせられる短編に二分されたのが面白かったので、〈暖色のアンソロジー〉と〈寒色のアンソロジー〉と名づけてみました。

どちらにも属さないように感じた三編は、〈透明の短編〉として別にしています。

でも、くり返すようですが、ただ大好きな短編を集め、かっこつけてアンソロジーと呼んでみたかっただけです…!笑 (アンソロジーのなんたるかも知らずにごめんなさい!)


いつものように、ネットの海に投げ入れるメッセージボトルのようなイメージで書きます。どなたかと共有できる何かがあれば嬉しいです💐




暖色のアンソロジー


へそまがりの魔女 | 安東みきえ

『呼んでみただけ』収録。呪うことしか許されない魔女と、ある日出会ったひとりぼっちの少女のお話です。好きなところはたくさんあるけれど、この物語の結末が大好きで大好きで、思い出すだけで泣いちゃいそうになります。他のひとにとってもそうなのかはわからないけれど、私にとっては読むと必ず泣いてしまう、大好きな短編。安東みきえさんは、絵本にもなった「星につたえて」もとても好きです。


晴れた日のデートと、ゆきちゃんのこと | 角田光代

『なくしたものたちの国』収録。連作短編集で、私の中では一つの長編として大切にしている作品なのですが、そのうちの一編を選んでみました。どの短編もすばらしいけれど、

たのしかったことも、かなしかったことも、みんな、なつかしくなるね

という、大好きな言葉が登場するこちらを。主人公のなりこが、まだ人間以外のいろいろなものと会話できていた頃の、宝物のようなお話です。


孫係 | 西加奈子

『おまじない』収録。大好きな西さんの、大好きな短編。物語の主人公は「いい子」に少し疲れてしまったすみれ。このお話が語ってくれる「いい子」や「優しさ」の定義になんだかほっと救われます。生き方のヒントをもらえたような。完璧な外面を保ちつつ、ふたりきりの時は思う存分本音をぶちまけ合っていたというすみれのおじいちゃまとおばあちゃまの関係性が、本当に憧れです。


よみがえった改心 | O・ヘンリー

邦題は翻訳によっていくつかありますが、原題は「A Retrieved Reformation」 過去に金庫破りをしていたけれど平穏な幸せを手に入れた男と、彼を追う刑事の物語。こちらも思い返すだけで涙が滲むくらい大好きなお話です。個人的には、同じくO・ヘンリーの『二十年後』と心の中で対になっています。


晴れた空の下 | 村山由佳

『ある愛の寓話』収録。カエルのぬいぐるみ「エル」を心から大切に思う女性と、異国の地で出会った男性の半生を描いたお話。トイストーリーのアンディとウッディの絆に特別なものを感じる人は、響く何かがあるはず。私にも生まれたときからそばにいてくれる大切な子がいるので、涙が止まりませんでした。語りの形式と、そこに隠された確かな愛にも、胸がいっぱいになります。


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寒色のアンソロジー


石繭 | 上田早夕里

『夢みる葦笛』収録。偶然見つけた謎の繭から出てきた宝石のような石たち。その石は、食べることで誰かの記憶を体験できるふしぎな石で…… 初めて読んだとき、なぜか忘れられず、

虚構と物語があれば何とか道を歩いていける

という一文が心に残りました。それこそ、私が小説を読んだり映画を観たりする理由なのかもしれないと。どうして人は虚構や物語を必要とするのか。そのことについて思い巡らされたお話です。


アラスカのアイヒマン | チャン・ガンミョン

『極めて私的な超能力』収録。ホロコーストの加害者と被害者が、「体験機械」という新技術を用いて、互いの記憶と感情を追体験する実験についてのお話。他者の視点で見るということが文字通り実現したとき、人は共感を通じて分かり合えるのか。ネタバレになるので伏せますが、ラスト付近のとある一文に戦慄しました。人間の心はなんて複雑で深淵なものなんだろう、と畏れさえ抱きます。とにかく面白かった。


顔の美醜について | テッド・チャン

『あなたの人生の物語』収録。表題作とめちゃくちゃ迷って、こちらを。顔の美醜が認識できなくなる脳神経処置「カリー」について、その是非を問う物語。ルッキズムだけでなく、広告に溢れた現代社会の危うさなど、様々な立場・角度から語られるドキュメンタリー形式で、本当に面白かった。脳みそフル稼働で読みました。テッド・チャンの紡ぐ世界が大好きです。


部屋 | カン・ファギル

『大丈夫な人』収録。ふたりの女性(おそらくパートナー同士)が崩壊した都市に肉体労働をしにやってくるお話。いつか素敵な「部屋」に住むことを夢見ながら働くふたりですが、都市では奇病が蔓延していきます。『大丈夫な人』は、読んでいて体調が悪くなるほど、普段見ないよう見えないようにしている暗部が抉り出される短編集でした。とくにラストシーンが心に焼きついて離れない、この作品を選びました。


虫の話 | 李清俊

『絶望図書館』アンソロジー収録。これはものすごいものを読んでしまった…… と頭を抱えたお話です。イ・チャンドン監督(これまた私の手に負えない作品ばかり生み出す監督)によって映画化もされています。まさに「絶望」。人間とは、心とは、どういうものなのか。その限界とは、どこにあるのか。放心したように考えました。今もずっと、考え続けているような気がします。


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番外編 : 透明の短編


小さな人魚 | アンデルセン

人魚姫の物語はいくつものバージョンがあるけれど、私はどれも好きです。翻訳による違い、絵本にするため抜粋されたもの、ディズニーのリトルマーメイドまで、それぞれの良さがあります。ただ、とくに好きだなあと感じたのは、江國香織さんが訳された『アンデルセンのおはなし』収録のもの。どうして好きかというと、

(前略)王子さまとそのかわいい花嫁が、自分をさがしているのが見えました。まるで、人魚姫がそこに身を投げたことを知っているかのように、二人とも悲しげに、泡立つ海を見おろしています。目には見えませんが、人魚は花嫁の額にキスをして、王子さまにほほえみかけると、ほかの空気の子どもたちといっしょに、空を漂うピンク色の雲の方にのぼっていきました。

この最後のところで、どうしようもなく泣いてしまったから。王子さまと花嫁が「悲しげ」だったこと、人魚がキスしたのが王子さまではなく花嫁だったこと、一つ一つにたまらなく胸を打たれました。もしかしたら記憶違いかもしれませんが、王子さまや花嫁がちっとも悲しまないバージョンや、人魚が最後まで王子さまだけを見つめていたバージョン(それはそれで心打たれるものがあるのだけど)も読んだことがある気がするのです。私は、深い愛と祝福に満ちた、このバージョンのラストが本当に好きです。


デューク | 江國香織

もうひとつ江國さん。『つめたいよるに』収録。犬を愛するひとには、きっとたまらないほど響くはず。いつも冒頭からうっすら泣いてしまうし、読み終わる頃にはしゃくり上げてしまいます。私にも愛犬がいて、いつかはやってくる別れを時々思うのですが、本作やクライン=リーキー作『虹の橋』のようなお話が、きっと悲しみを(和らげることはできないかもしれないけれど)受け止めてくれるんじゃないかなと思っています。


千年の祈り | イーユン・リー

『千年の祈り』収録。お話自体も好きでしたが、「修百世可同舟」という中国のことわざに出会わせてくれたという意味で、とても大切にしている短編です。

誰かと同じ舟で川をわたるためには、三百年祈らなくてはならない。(中略)たがいが会って話すには──長い年月の深い祈りが必ずあったんです。ここにわたしたちがたどり着くためにです。(中略)どんな関係にも理由がある。それがことわざの意味です。夫と妻、親と子、友達、敵、道で出会う知らない人、どんな関係だってそうです。愛する人と枕をともにするには、そうしたいと祈って三千年かかる。父と娘なら、おそらく千年でしょう。人は偶然に父と娘になるんじゃない。それはたしかなことです。

篠森ゆりこ訳

時々思い出しては、大好きだなあ、と沁み入るように思います。


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おわりに


もしかしたら、後で「ああ!これを入れ忘れるなんて…!」という短編も出てくるかもしれませんが、今のところ大好きな短編はこんな感じ。

こうして並べてみると、童話のようなお話が好きなんだなあと再確認したり、思っていた以上にSFや韓国文学が好きみたいと発見があったり(寒色のアンソロジー、5分の4がSF、5分の3が韓国文学でほう…!となりました)たのしかったです。

もしも、通りすがりにこのページを覗いて、このラインナップならこれも好きそう、というものを思いついた方がいればぜひ教えてほしいです。

ここまで読んでくださったのなら、本当にありがとうございました💐

これからも、たくさん素敵な短編との出会いがありますように。


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