いい朝をつくる夜の香り
最近はよく、手をいい匂いにしてから寝ている。
とは言っても、寝る前に好きな香りの石けんで手を洗うだけなのだけど、「いいにお~い」という穏やかな気持ちで一日を締めくくれて最高なのだ。
ふかふかのふとんに入って、自分の手を顔に近づける。
すると、ほんのりいいにおいがしてきて、にんまりしてしまう。
いつだってずっと自分と一緒にいる自分の手。
そのずっと一緒にいる手からいいにおいがするとうれしい。
どこに行くでもなく、ただ手を顔に近づけるだけですぐにいいにおいをかぐことができるのが何より良い。
「いいにおい」には一瞬で人をごきげんにする魔法みたいな力がある。
わたしの中で、そんな「いいにおいブーム」の波がきているときに、Quu&Fuu編集長のにもふーがこんな投稿をしていた。
暗くした部屋に小さく灯るお香の火、ただよういい香り。想像するだけでうっとりしてしまう。
しかも、なんだかおしゃれだ。
「いい朝は、いい夜からつくれる」
これってもしかして名言では?
夜、眠る前にお香を焚く。
これならめんどくさがりのわたしにもできる!
やりたい!
***
翌日に早速、仕事帰りにお香を買った。
ちょうどにもふーが使っていたものと同じ商品を見つけてラッキー。
これだ!という香りを手に入れたわたしは、おしゃれで癒しの夜を過ごせる“はずだった”。
そう、“はずだった”のだ…。
お香に火を灯してみると、ん?、なんだか想像していた香りと違う…。
火を灯す前の香りはすごく好きだったんだけどなあ、そうかあ、こんなこともあるのか。
それでも数日後、諦めきれずに、もう一度試してみることに。
すると、なんと、いいにおいだった。
初めて試した日の夜は煙のにおいが気になっていたのに、その日はまったく気にならなかった。
もしかしたら、自分の体調だったり、気温や湿度が影響していたのかもしれない。
嗅覚って自分で思っているよりも繊細だ。
そんなことを考えながらベッドに寝転んで目を閉じて、お香から広がるいいにおいに包まれていると、自然と呼吸が深くなる。
自分で自分の呼吸に耳を澄ませるような不思議な時間。
ああ、静かだなぁ。
吸って吐いてをゆっくりと繰り返していると、今日起きたやりきれない出来事が、ぽわーんと頭に浮かんできた。
今日は行きも帰りも電車が遅延していた。
そのせいもあって、ぎゅうぎゅうの車内で身動きがとれなくて心が折れかけた。
仕事の前からぐったりしてしまっていたのに、仕事終わりにもまさかのとどめの一撃。
くぅーー、やりきれない。
いつもの自分だったら、このモヤモヤを抱えたままだったのだけど、今日は違う。
いいにおいをかいでいると、あんなに嫌になっていた気持ちがまろやかになってきて、「まあまあまあ。よくがんばったよね。」と大らかに振り返えることができたのだ。
この時のわたしはたぶん、仏様みたいな顔になっていたはず。
そうしているうちに、まぶただけでなく、心までもが穏やかに閉じていったような感覚になった。
***
翌朝、目が覚めて、なによりも先に感じたのはお香の残り香。
一晩経ったら香りが優しくなっていて、これもまたいいにおい。
すごく眠かったけど、思わず頬がゆるむ。
わたしの寝起きに合うのは、何となく見ることが習慣になっていたSNSよりも、いいにおいかもしれない。
1日がいいにおいで終わって、新しい1日がいいにおいで始まるっていいものだなあ。
いい朝はいい夜からつくれる
いい朝にしようと考えるとき、新しい1日が朝の過ごし方に目を向けがちだけど、実は夜からできることもたくさんある。
例えば…
朝慌てないように、朝ごはんを準備をしておいたり、着る服を用意しておくこと。
起きたときにいい気分でいられるように部屋を片付けておくこと。
体が冷えないように、起きる時間に合わせてタイマーで暖房をセットしておくこと。
これらは全部、夜の自分がしたことなのに、朝起きると不思議と誰かからプレゼントを受け取ったような気持ちになる。
わたしはこのプレゼントに、「いい気分で眠ること」も新しく追加したい。
だって、いいにおいで気持ちよく眠った日の翌朝は、気持ちのいい朝だったのだ。
なにかを用意するだけじゃなくて、「ごきげんに一日を終える」ことも、朝の自分にとってはうれしいプレゼントになる。
そのことを知れて、ほんとうによかった。
いいにおいパワー
寝る前に、好きな動画を見たり、本を読んだり、音楽を聴いたり、好きな飲み物を飲んだりしていると気持ちが満たされる。
でも、それって意外と体力を使うものだったりする。
そんなちょっとした力も残っていない目も耳も手も休めたい日は、好きなにおいで満たされるのはどうだろう。
座ったままでも、寝転びながらでも、自分のいちばん楽な状態をつくることができる。
お香に限らず、石けんでも、ハンドクリームでも、洗いたてのタオルでも、飼っている犬のにおいだって、なんでもありだ。
「いいにお~い」とうっとりするような時間が1日の中にちょっとあるだけで、ぎゅっと硬くなった気持ちがほぐれていく。
気がつくとカチコチになってしまうわたしの心を、これからはこまめにほぐせるような気がした。
さあて、そろそろ寝る時間だ。
今日も、いいにおいの石鹸で手を洗ってこようっ。